第4話
――三智慧人
藤村先生にもらった見取り図に通りに進むと、俺は無事ゴミ捨て場にたどり着くことが出来た。
意外なことにゴミ捨て場――正確にはゴミ捨て場の向かい側に壁に先客がいた。
壁を背に5名の男子がしゃがみこんでタバコを吸っている。
別に気になることはない。
地球で生まれた屋内禁煙の常識はいまやニビルにも広まっていて、ウルクでも喫煙者は屋外に設けられた喫煙スペースでコソコソタバコを吸っている。
タバコのニオイを嗅ぎたくないので、ゴミを捨てて早々に立ち去ろうとすると、タバコを吸っていた男子の一人が立ち上がって声をかけてきた。
「おい、お前、噂の転校生だろ?」
そう言いながら男子生徒は校舎に向かう道を塞ぐように俺の目の前に立ちはだかる。
男子の身長は俺と同じくらい。
校則を守るつもりはないらしく、生徒手帳で染髪は禁止と書かれていたのに髪を赤く染めてあり、学生服の内側にフード付きのパーカーを着込んでいる。
クラスメートじゃない彼がなぜ俺のことを知っているのか不思議だが、とりあえず……。
「多分、そうだと思う。俺は今日この学校に転校してきたからな」
隠すことはないので質問に答えてその場を立ち去ろうとすると、背後からドンッ!と衝撃が襲ってきた。
振り向くと、俺に話しかけた赤毛の男子が右足を振り上げており、俺は背後から蹴られたことに気づいた。
「女子にチヤホヤされてると思って調子乗ってんじゃねえぞッ! 前の学校と違って、タジ中で平和に過ごせると思うなよ」
どんな根拠があって、俺が調子に乗っていると思ったのか理解不能だったが、彼らが何者なのかは理解した。
世の中には、暴言と暴力で他人を脅して自分のわがままを叶えようとする奴がいる。
その名は『ゴミ』。
ウルクでも日本でも、人が集まるところに必ず発生する廃棄物だ。
背中を蹴られて唖然としている俺の元に、ゴミ赤毛と一緒にタバコを吸っていた残りの4人が近づいてくる。
「おい転校生。いくら持ってる? タジ中では、新入りは手土産を持参するルールがあるんだ」
ゴミ達なかで一番背の高い男が目の前に立ちふさがって俺に金を渡すよう要求してくる。
「やっぱりゴミだな。お前ら『オイハギには銅クズ一つ渡すな』って言葉も知らないのか」
「おい舐めた口きいてんじゃねえぞッ!」
目の前のゴミが殴りかかってきたが、俺はあえてその拳をよけず顔面で受けた。
この学校の先生が目の前のゴミを放置している理由は知らないが、オヤジならゴミ共に徹底的に自分の無力を思い知らせて人の痛みがわかる真人間に矯正するはずだ。
「仕方ない……先生の代わりに俺がゴミを矯正するか」
ゴミを放置して桜歌に危害を加えられるのは嫌なので、目の前のゴミを矯正することにする。
俺がため息まじりに決意を固めると、ゴミ達は激高して殴りかかってきた。
「調子乗ってんじゃねえッ!」
「ぶっ殺すぞッ!」
ゴミ5人が慧人を取り囲んで拳を振り下ろしてくるが、俺はあえて反撃せず頭部やわき腹等のバイタルゾーンの防御に徹した。
正直、ゴミ共のパンチは痛くない。
彼らは5人で1人を一方的に殴りつける快感に酔いしれているが、振り下ろされる拳は腕の力しか使っていないし、殴る場所も人体を破壊するためのバイタルゾーンを全く意識していない。
こんな打撃どれだけ食らっても皮膚の表面にあざがのこるだけで、決して命には届かない。
「これだけ殴られれば十分か――」
「確か日本の法律では、危害を加えられたときに殴り返すのは正当防衛だったな」
正当防衛が成立するくらい殴られたと判断した俺はゴミ共の矯正を開始する。
俺は右ひざを落としてタメを作り、親指を支えに中指の第二関節を突き立てた一本拳を作る。
まずは、おあつらえ向きに正面に立っていたゴミ赤毛の右目に突き立てた中指の第二関節を叩き込む。
「ひぎいいいいッ!」
笑いながら俺を殴っていたゴミ赤毛はパキッ!という乾いた音がした直後、悲鳴を上げながら右目を抑えて地面にうずくまった。
乾いた音はピンポイントで右目を殴られた衝撃で右目の奥にある眼底骨が割れた音だ。
人間の頭蓋骨には眼球を支える眼底骨と呼ばれる骨が存在する。
この骨は薄いので強い衝撃を加えれば簡単に割れる。
そして生きている人間の骨は中に神経や血管が無数に走っているのでヒビが入れば激痛が走る。
それにしても……。
「たかが眼底骨折で戦意喪失とは、お前らゴミな上にザコだな」
「おげえッ!!」
俺はうずくまっているゴミ赤毛の後頭部を蹴っ飛ばして意識を刈り取った。
そうやって地面に倒れこんでうずくまったら、敵に殺してくれと言っているようなものだ。
「おいッ! お前なにやってるんだ! 殺す気か!?」
「なにって正当防衛だよ。安心しろ、ちゃんと死なないように手加減してる」
上から踏みつけたら頭蓋骨が圧迫骨折を起こして死んでしまうが、横から蹴るだけなら衝撃の逃げ道があるので死ぬ確率は低い。
だいたいこいつら何してるんだ?
仲間の1人が悲鳴を上げて倒れただけなのに、攻撃をやめて囲みを解くなんて、自分の命を守るための危機管理意識が無いのだろうか。
戦闘訓練をやっていたら、眼底骨折だけでなく、腕とか足とか肋骨とか、全身の骨のどこかが割れるなんで珍しくなかった。
だけど、俺の仲間には、この程度のケガで戦意を無くして命を投げ捨てるようなアホは一人もいない。
「おいゴミ共、続きやるぞ。お前ら全員矯正してやる」
――三智桜歌
私は教室で慧人さんを待っていた。
「…………遅い」
どれだけ待っても、ゴミ捨てに行った慧人さんが帰ってこない。
すでに一緒に掃除をクラスメートは全員帰り、教室に残っているのは私一人になっていた。
「迷ったのかな? やっぱりついていくべきだったかな」
転校初日の慧人さんを一人にすべきではなかった。
自分の失敗を認めた私が立ち上がったのとほぼ同時に見知った顔が教室に駆け込んできた。
「どうしたのアサミン? 今日はお姉さんとさんと勉強会するから早く帰らないとダメなのでは」
教室に駆け込んできたのはアサミンだった。
よほど慌てて走っていたのだろう。
アサミンは「はぁ! はぁ!」と荒い息を立てている。
「私のことより、慧人君が大変なの!? ゴミ捨て場のところで野球部の連中に絡まれてリンチされてるって」
「なっ……それ本当ですか!?」
「こんな時にウソ言うわけないでしょッ! だいたい、なんで慧人君をゴミ捨てに行かせたのよ? 金曜日の放課後は野球部の連中があそこでタバコ吸ってるのはオッカだって知ってるでしょ」
「そうでした……私はとんでもない愚か者です」
学校という多くの子供が集まるところならどこでも同じだが、私の通う泰光寺中学校にも不良と飛ばれる素行の悪い生徒が存在する。
この学校の不良グループのリーダーは板場弘さんという野球部の部長で、彼を中心としてこの学校の野球部は不良の巣窟として多くの生徒に忌避される存在となっている。
そして、野球部の3年生は金曜日の放課後にゴミ捨て場のそばでタバコを吸う習慣がある。
だから金曜日は掃除が終わったあとゴミ捨てには行かず、月曜日の朝にコッソリ捨てに行くのがこの学校では暗黙の了解となっていた。
「オッカ、すぐに職員行くよ。先生呼んで慧人君助けにいかないと」
「アサミンだめだよ、先生じゃ慧人さんは止められない。それより、剣道場に行ってキーを連れてきて。私は、ゴミ捨て場に行って慧人さんを説得するから」
「なに言ってるの? 『慧人さんは止められない』ってどういうこと? 慧人君が野球部にリンチされてるんだよ」
アサミンは、私の言ってることが理解できなくて顔に疑問符を浮かべる。
無理もない慧人さんの素性を知らなければ、私の言葉は意味が分からないだろう。
「違うのアサミン。あえて伏せてたけど、慧人さんはマモノハンターなのッ!!」
「マモノハンター!? それってマモノから民間人を守るために戦死したオッカのおじさんのこと――まさか、慧人君は親子でマモノハンターやってたの!?」
「そうだって言ってるの!! アサミン急いで。早く止めないと慧人さんが板場さん達を殺しちゃう」
野球部の人達は学校内では恐れられているが、本当はロクにケンカもしたことがないファッションヤンキーだ。
対して慧人さんは、マモノと呼ばれる人知を超えた怪物と12歳の頃から殺し合いを繰り返してきたマモノハンター。
神様お願いします。
どうか慧人さんを殺人犯にしないでください。
本作を読んでいただきありがとうございます。
私の作品があなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。
お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。
そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。
如何なる意見であろうと参考にさせていただきます。




