第9話
――三智慧人
駅前のカフェでひと休みした俺達は、駅から歩いて15分くらい離れた場所にある須磨北文化センターに向かった。
須磨北文化センターは壁が黒ずんだ古い建物だったが、掲示板には温水プール・体育館・小教室を利用したイベントの告知が何十枚も掲示されていて、見た目に反して周辺住民に愛された施設であることを感じられた。
俺達が目指す温水プールは、須磨北文化センターの地下1階に存在した。
屋内にあるこのプールは水温が常に25度前後に保たれていて、季節を問わず泳ぎに行くことが出来ると桜歌が説明してくれる。
「受付で水着や水泳帽を売ってるので、ここで慧人さんの水着を買いましょう」
「水着って体にペタッと張り付いた下着みたいな服のことだよな、どれ買えばいいんだ?」
ウルクでは泳ぐ機会がなかったので、水着と言われてもどんなものを買えばいいか全くわからない。
「学校の授業でも使えるハーフパンツタイプの競泳水着がいいと思います。あと、慧人さんのヒップサイズを考えると水着のサイズは3Lですね」
先日の採寸で俺の3サイズを知り尽くしている桜歌がヒョイヒョイと水着を選んで手渡してくれる。
「それでは私達は女子更衣室に行くので、慧人さんはお会計が済んだら男子更衣室で着替えてください」
「またね、慧人君」
「またな~」
さすがの俺も女子更衣室についていくのはダメなことくらいは理解できる。
俺は一抹の不安を感じながら、奥の扉に向かう彼女達の後姿を眺めることしかできなかった。
コインロッカーのカギをかけるのに苦戦したものの、俺はなんとか水着に着替えてプールにたどり着いた。
プールサイドは天井がガラス張りになった学校の体育館と同じくらいの広さの広い空間が広がっていて、目の前には25メートル×6レーンの大きなプールが設置されていた。
「慧人さん、こっちですよ~」
先に着替えてプールに来ていた桜歌達が手を振りながら呼びかけてくる。
桜歌達は3人とも学校指定のスクール水着を身に着けていた。
水着のデザインは女子の意向を反映して太ももまで布で覆われたスパッツとランニングシャツに似たデザインのラッシュガードがセットになったデザインになっている。
それでも体にピッタリと張り付く水着の特性上、身体のラインがハッキリ見て取れるので男子には目に毒な光景だ。
体型は普段のイメージ通りで、桜歌は背が低いだけでなく手足もウエストも細く、胸のふくらみもほとんどない幼児体型。
関谷さんは全体的に痩せ型だが、桜歌と違ってバストラインは女性らしい膨らみが存在する。
鹿島さんは胸のふくらみは関谷さんと同じくらいだが、鍛え上げた太ももとふくらはぎがスラリと伸びていて、両足を支えるお尻も強い存在感を主張している。
総合的に一番スタイルがいいのは鹿島さんだと思うが、3人ともタジ中の美少女四天王の名に恥じない魅力を放っていた。
「慧人君。なんか、水着姿をジーっと見られると恥ずかしいんだけど」
水着姿を観察していた俺の視線に気づいた関谷さんが顔を赤らめながら両腕で胸元を隠す。
「あっ、すまねえ。3人ともすごくかわいいから見とれてた」
「慧人さんは、恥ずかしげもなく、かわいいとか美人とか言ってくるから、ありがたみを感じないんですよねえ」
「いや、本当に3人ともすごい美少女だと思うぞ。俺は仲間の良いところは積極的に口に出して褒めることを心掛けてるの」
頭の中で考えているだけでは自分の気持ちは相手に伝わらない。
マモノハンターとして戦っていた時に、そのことをイヤというほど思い知らされた。
「誉め言葉は素直に受け取っておくとして。予想していたけど慧人君、脱ぐとスゴイわね」
一転して、今度は関谷さんが俺の身体の観察を始める。
俺の水着はハーフパンツタイプの競泳水着なので上半身は裸だ。
「慧人さんは、身長169センチで、体重は68キロ、体脂肪率は10%以下なので、当たり前ですが腹筋は割れてますね」
一緒に住んでるため俺の裸を見慣れている桜歌はちゅうちょなく腹筋を指でつついてくる。
「シックスパックはきいの身体で見慣れてるけど身体の厚みがヤバイわ。やっぱりウエイトトレーニングもやってるの?」
「体育館にウエイトトレーニングの器具があるから朝練メニューに組み込んでる。慧人はすごいぞ、この前ベンチプレスで120キロ上げたぞ。ちなみに、私は100キロが限界だった」
鹿島さんとやってる朝練は、『掛かり』で打ち込んでくる鹿島さんを俺が迎え撃つ立ち合い稽古をすることが多いが、立会稽古だけだと飽きが来るので週に2回は体育館にあるトレーニング器具を使ってウエイトトレーニングをやっている。
「私から見たら二人ともバケモノだから。てか、ベンチプレス120キロって……そんな怪力で人を殴ったの!?」
「本当に慧人さんが人殺しにならなくてよかったです」
「あの時は、あのゴミ共が桜歌に危害を加えように教育しないといけないと思ったんだ。まさか、日本の中学生があんなに弱いなんて想像つかなかった」
何も知らなかったとはいえ人を殺しかけたのは事実だ。
応急処置を施してくれた桜歌には、どれだけ感謝しても足りない貸しを作ってしまった。
「それで、トレーニングのために泳ぐって言ったけど具体的には何するんだ」
「25メートルプールを往復して、目標としている距離を泳ぐだけです。水泳は全身の脂肪を満遍なく減らすことが出来るのでボディメイクための運動としては、これ以上ないくらい効率的なんです」
目標距離は桜歌と関谷さんが1500メートル。鹿島さんは3000メートル泳ぐつもりらしい。
「美容に興味のない女子はいない」
と、桜歌は言っていたが、こういう地道な努力を欠かさない姿勢が、彼女達を美少女四天王と呼ばれてる存在にしているのだろう。
しかし、彼女達は立派だが別のところに問題は存在する。
「俺は泳げないんだが、どうすればいいんだ?」
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