第8話
――三智慧人
「二人ともお待たせしました」
関谷さんと何となく話が途切れたところで、飲み物をトレイに乗せた桜歌と鹿島さんがやって来る。
「二人ともおつかれさま。注文通すの大変だったでしょ」
「注文するときだけじゃなくて、飲み物作るのも時間がかかりました」
目の前に置かれた飲み物は全て飲み物の上に白いクリームが盛られたアイスクリームに近い代物だった。
「これはフラペチーノといいます。コーヒーにシャーベットとシロップとホイップクリームを混ぜた飲み物です」
「ぶっちゃけると飲むかき氷だね。これを4つ頼んだから作ってもらうのに時間がかかったの。あたしは、アイスコーヒーでいいって言ったのに」
「きいさん、甘いもの嫌いじゃないんだから飲んでください。私と約束しましたよね? 体調が良くなるまで糖分をちゃんと摂取するって」
桜歌は少し強い口調で鹿島さんにフラペチーノを押し付ける。
「体調が良くなるまでってどういうことだ? 俺が見る限りいたって健康に見えるが」
俺が見る限り鹿島さんはカゼを引いているようでも、腹を下しているようにも見えない。
しかし、桜歌が言うからには鹿島さんは何かしらの理由で体調が悪いんだろう。
「えーと……それは……」
「あたし、体脂肪率落としすぎて生理止まっちゃったんだよ」
「ちょっと、きい!?」
「きいさん!? 慧人さんは男の子なんだから生理の話を軽々しく口にしないでください」
鹿島さんは自分の体調不良についてあっけらかんとした口調で答えてくれたが、それを聞いた桜歌と関谷さんは顔を真っ赤にして怒鳴りつける。
「慧人ならいいだろ。ほかの男子と違って生理と聞いて意味も分からずエロイ妄想しないと思うし」
「月のモノはただの生理現象だからな」
「大事な生理現象です。それなのに、きいさんは考えなしに糖質制限をしたせいで、体脂肪率が8パーセントを割っちゃったんです」
「前に体重が58キロくらいあるって言ってたもんな」
鹿島さんの身長は163センチなので、いまの体重は標準体重より10キロくらい重い。
もっとも、毎日ハードなトレーニングをしている鹿島さんが太るはずがなく、単純に筋肉量が普通の女の子よりも10キロ分多いのだ。
筋肉の比重は脂肪の3倍あるので、筋肉量が多いと痩せているように見えて体重は重いという状況が発生する。
「あたしは別に困ってないんだけどな」
「なに言ってるんです!? 生理不順が続いたら将来子供が産めなくなる可能性もあるんですよ。そんな事になったら私はきいさんのご両親に腹を切ってお詫びしないといけません」
桜歌に頭突きされそうな勢いで詰め寄られた鹿島さんは諦めてプラペチーノのカップを手に取った。
ストローを使って飲み物と上にかかったホイップクリームをドリンクと混ぜ合わせてから口にする。
見本を見せてもらった俺は鹿島さんの真似をしてフラペチーノなる飲み物を口にする。
「甘いな。でも飲みやすい」
それ以外の感想が沸いてこない。
鹿島さんの言っていた飲むかき氷という言葉は的確で、ホイップクリームとシロップで甘味が増し増しになっているはずなのに、シャーベットの冷たさが味覚を麻痺させるので飲みやすい味に整えられている。
「甘すぎて飲めないなんて事にならなくてよかったです。今日は全員ノーマルですけど、甘いものが好きな人はチョコチップやシロップを追加で入れたりするんですよ」
「マジか!? 俺はそんなの甘すぎて飲めないな」
世の中には甘いものが大好きという人も少なくないが、真の甘いもの好きは俺の想像を超えた味覚を持っているようだ。
「今日はこれから泳ぎに行くから、慧人君も糖分取っておいた方がいいわよ」
しばらく甘い飲み物を楽しんでいると、関谷さんがポツリとこの後の予定を口にする。
「泳ぎに行くって、近くに泳げる川か湖があるのか?」
俺がそう尋ねると3人はそろって小さくため息をついた。
「行くのは温水プールです。私達、ボディメイクのために週に1回、市民プールに泳ぎに行ってるんです」
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