第7話
――三智慧人
フリーマーケットで一通り買い物が終わった俺達は、駅ビル内のカフェで一休みすることになった。
ただし、休日とフリーマーケットが重なったせいで、カフェのレジ前は長蛇の列が出来ていて本当に休めるのか不安になって来る。
「じゃあ、私ときいさんが列に並ぶので、亜沙美さん悪いけど慧人さんと一緒に席の確保お願いできますか」
「えっ、私と慧人君で二人組作るの!?」
「はい、お願いします」
関谷さんは俺と二人きりになるのに明らかに動揺していたが、桜歌が関谷さんの耳元で何かをささやくと彼女は諦めたように肩を落とした。
二人に注文を任せて満席状態の店内にもぐりこんだ俺と関谷さんは、辛うじて屋外にある4人掛けのテラス席を確保した。
「何とか席確保できたな」
「本当は空調の聞いた屋内が良かったけど、まだ6月でよかったわ」
「日本の夏は暑いって聞いたけど、そんなに暑いんだ」
「ハッキリ言って7月以降の屋外は地獄よ」
夏は地獄と言われるような暑さになると聞いて俺は思わず息を呑む。
「慧人君。いつも、ありがとう。あと、ごめんなさい」
関谷さんはスクっと立ち上がると、俺に向かってペコリと頭を下げた。
「えっ、俺なにもしてないけど!?」
「私がしたのよ……中間テストの結果発表のときひどいことを言ったこと、本当にごめんなさい」
「ああ、あの時のことか。気にするな、俺なんて言われるまで完全に忘れてたぞ」
「私が気にするのよ。慧人君はお父さんを亡くしたばかりなのに、私、最低だった」
「だから、気にするなって。オヤジが死んだのは事実だが、俺は引きずったりしてないから」
俺がそう言うと、さすがに関谷さんの目が不機嫌そうに吊り上がる。
「前々から気になってたんだけど、お父さんが死んで悲しくないの?」
「悲しくないとは言わないが納得はしてる。マモノハンターの仕事は、マモノを殺すことだ。人間同士の戦争とは違う。マモノを殺さないと自分が殺される。話し合いの余地が一切ない殺し合い。そして、俺もオヤジもマモノを殺してる。だから、殺されても文句は言えない」
俺がマモノハンターの死生観について話すと、関谷さんは目をつぶって顔を伏せた。
「なんかすごい複雑……慧人君ってお父さんだけじゃなくて、自分がマモノに殺されても『仕方ない』で納得しちゃうんでしょ」
「フェアに殺し合いをして負けた結果なんだから、マモノを恨むのは筋違いだろ」
「私はイヤなの。どんな理由であれ友達が死んだら私は絶対泣くと思う。ちなみに今の話って、桜歌にしたことある?」
「無いな」
桜歌には俺の考えくらい見抜かれてる気がするが、聞かれたことが無いので死生観について話したことはない。
「なら、絶対にしないで。お願いだから、桜歌を悲しませるようなこと言わないで」
「わかった。言わないから」
グイッと身を乗り出してきた関谷さんに気圧されて、俺は今の話を桜歌に言わないことを約束する。
「しかし、関谷さんは桜歌のこと本当に好きなんだな」
「桜歌のことは好きというより崇拝してるかな。私にとって桜歌は神にも等しい存在なの」
「崇拝!?」
関谷さんの口からおよそ友達に対するものとは思えない言葉が飛び出した。
「慧人君、私と桜歌って似てると思わない」
「別に関谷さんと桜歌に似たところなんて……あっ!?」
成績優秀で家庭科部に在籍、特技は料理と裁縫、趣味は服をリメイクすること。
顔や体格は似ても似つかないが、桜歌と関谷さんの趣味嗜好は似通っている。
「私、桜歌みたいになりたくて彼女の特技や趣味を真似してるの。
勉強を頑張って、料理を練習して、裁縫を覚えて、服のリメイクとかにも挑戦してるんだけど、何をやっても桜歌に勝てないんだよね。
ハッキリ言ってしまうと関谷亜沙美は、三智桜歌の下位互換なのよ」
「でも、この前の中間テストは関谷さん、桜歌に勝ったじゃないか」
「あれは桜歌の私生活にトラブルがあってまともに勉強できなかったから起こった不幸な事故。7月の期末テストはまた桜歌に抜き返されるわ」
関谷さんは、アクシデントがなければ桜歌が自分に負けるはずないと本気で思っている。
俺には、なぜ彼女がそんなに自分を卑下するのかわからない。
「関谷さんもタジ中の美少女四天王なんて呼ばれてるんだから、もっと自分に自信を持った方がいいぞ」
「うげッ! そのダサイ呼び方誰に聞いたのよ?」
関谷さんも、自分達が陰で美少女四天王と呼ばれているのは知っていたようで、俺が美少女四天王のワード出した途端に露骨に顔をしかめる。
「剣道部の友達に聞いた。ちなみに、美少女四天王で男子のファンが一番多いのは関谷さんだって言ってたぞ」
「私が一番……うーん……男ウケが一番いいって聞かされても全く嬉しくないわね」
「嫌われてるよりはいいと思うんだが」
関谷さんは男子に人気があると聞いても浮かない顔をしていたる。
好意をどう受け取るかは彼女の自由だが、彼女のことを好きだと言っていた上坂達の気持ちが無価値なものとして切り捨てられるのはさすがにかわいそうだ。
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