第5話
――三智慧人
目的地の名谷は、三智家の最寄り駅である学園都市駅から二つ隣のところにある。
街のシンボルともいえる名谷駅は周辺に整備された須磨ニュータウンの玄関口として機能しており、俺達が普段利用している市営地下鉄の沿線では利用客が最も多い駅と言われている。
名谷駅には駅に併設する形で須磨パティオと呼ばれる複合商業施設が設置されていて、目当てのフリーマーケットはホームから少し奥に行ったところにある駅前広場で開かれていた
「んー! やっぱりテンション上がりますね。慧人さん行きましょうッ! 古着が私達を呼んでますよ」
駅前広場は学校の体育館よりも広く、その広大なスペースに折り畳み机がズラリと並び、机の上に古着だけじゃなく、未開封のおもちゃ、食器、雑貨等が並べられている。
フリーマーケットに着いた桜歌は、普段とは別人のような高いテンションで居並ぶ露店に飛び込んでいく。
「相変わらず桜歌は古着屋とかフリマが好きねえ」
「アサミンだって嫌いじゃないだろ。二人ともファッション誌に載ってる既製品をそのまま着てるの見たこと無いぞ」
「凝り性なのは桜歌だけよ。確かにアパレルの既製品は大量生産のために手抜きしてる部分があるから、あまりにヒドイときは私も直すけど」
「慧人、こう見えてアサミンはすごいんだぞ。あたしのゆかたもアッという間にリメイクしてくれたからな」
鹿島さんが浴衣を固定してるベルトのところを指さすので観察してみると、彼女のゆかたには腰回りにベルトを固定するためのタックが縫い付けられていた。
「きいが、帯締めができないってダダこねるからでしょ」
なるほど、桜歌や関谷さんくらい裁縫スキルが高くなると服は買ったものをそのまま着るのではなく、何らかのリメイクを加えるのが当たり前になるらしい。
「なるほど、だから制作課題も古着をリメイクして作るのか」
「新品の布も服も、中学生のお小遣いで買うには高すぎるもの。オシャレしたいなら知恵と工夫でなんとかするのよ」
俺達も桜歌に続いて居並ぶ露店に見て回ることにする。
「慧人さん、気に入った色や柄があったら言ってくださいね。着物じゃなくて洋服でも解けば作務衣や甚兵衛にリメイクできるので」
「こういうジーパンもリメイクできるのか?」
俺は試しに明らかに俺が履くには大きすぎるジーパンを手に取ってみる。
「そうですねえ……いけますッ! なんといってもサイズが大きいのがいいです。スソをカットして膝丈にしてウエスト周りを詰めて内ひもを入れれば甚兵衛の下履きになります」
「それ縫うの俺なんだよな?」
桜歌は瞬時にリメイク案を提示してくれたが、課題のことを考えるとそれを実際に縫うのは俺がやることになりそうだ。
「おじさんこのジーパン買います、いくらですか?」
「そうだなあズボン類は300円にしようと思ってたけど、お嬢ちゃんみたいなかわいい子が買ってくれなら200円でいいよ」
「ありがとうございます」
桜歌は元々ジーパンを履いていたと思しき恰幅のいいオジサンに200円渡すと、肩にかけていたトートバックから大きなマイバックを取り出して放り込む。
「そこの男子。『荷物を持つよ』くらいは言った方がいいぞ」
「おう、そうだな」
鹿島さんに指摘されて俺は戦利品を入れたマイバックを受け取る。
「次からは自分から言いなさいよ。気の利かない男子はモテないわよ」
なにかミスしたら3方向から指摘が飛んで来る。
日本の文化に慣れるのはなかなか大変だ。
しかし、この3人目立つなあ。
マモノハンターだったときのクセで周囲にいる人や動物の様子を観察していた俺は、四方八方から視線を向けられているのを感じた。
老若男女を問わず大勢の人達が、桜歌、関谷さん、鹿島さんの3人に視線を向けている。
俺から見ても麗しい美少女3人が、人目を惹くキレイな服で華麗に着飾っているのだ。
3人のまわりだけ、まるで空間が切り取られたような華やかな光景が広がっていた。
俺は少し歩みをゆるめて不自然にならない程度に3人と距離を取る。
護身のためだ、もし俺が3人と一緒にいるのをタジ中の男子に見られたら末代まで恨まれそうだ。
「慧人さん、慧人さん、着物がありますッ!」
桜歌がお宝を見つけたようでトコトコと駆け寄って来て俺の手を取ってグイグイ引っられる。
彼女が見つけたお宝はハンガー掛けにかかったうぐいす地の着物だった。
「あなた、着物好きなの?」
着物を売りに出していたのは桜理さんと同年代の女性だった。
「はいッ! 私、着物が好きで遊びに行くときはいつも着物なんです」
「いまも着物着てるもんね。とってもカワイイわよ」
「えへへ。ありがとうございます」
かわいいと言われた桜歌は少しうつむいて照れ笑いを浮かべる。
「それじゃあこの着物買う? お祖母ちゃんの着物だったんだけど、もう誰も着ないから買ってくれるとありがたいわ」
「お値段によりますね。どうしても予算に限りがあるので」
「5000円でどうかな?」
「えっ! いいんですか? 見たところ反物はかなり高級なものを……」
桜歌がマゴマゴしているので、俺は自分の財布から5000円出して女性に渡した。
「まいどありッ!」
「ちょっと、慧人さん!?」
「お宝が5000円で手に入るんだからいいじゃねえか。いつも世話になってるから、その代わりだよ」
「よかったね、彼氏太っ腹じゃん」
女性に俺のことを彼氏だと勘違いされた桜歌の頬が真っ赤に染まる。
「いや、あの、慧人さんは彼氏じゃないんです。彼は……」
パニックになった桜歌が余計なことを口走る前に、俺は受け取ったマイバックに仕舞い込んで、彼女の手を引いてその場を立ち去ることにした。
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