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第3話

――三智桜歌


 サクッ、サクッ――。

 ハサミで紙を切る小気味良い音が室内に木霊する。

 室内とてもガランとしていて置いてある家具は、ベットと小さなちゃぶ台だけ。

あと、申し訳ない程度にちゃぶ台で作業するときに腰を下ろすクッションが二つ置いてある。

 ここは慧人さんの部屋だ。

 慧人さんを迎え入れるときに必要最低限の家具を揃えて部屋を作り、『欲しいものがあればスグに用意するから遠慮なく言ってね』とお母さんは念押ししていた。

 しかし、慧人さんは『クローゼットがあるから収納スペースは足りてる』と言って何も欲しがらなかったので、室内の家具が増えることはなく生活感のないガランとした光景が広がっている。

 付け加えると慧人さんはマメに掃除をする性格なので、生活感のない部屋なのに床にホコリ一つ落ちていない奇妙な空間となっている。

 とわいえ、余計なものが何もないのは作業スペースとしては都合がいい。

そんなわけで、私と慧人さんは彼の部屋で、慧人さんが作る服の型紙を作っていた。


「今日は家庭科部に来てくれてありがとうございます。やっぱり、ちゃんと採寸しないとダメですね。咲弥さんのサイズで服を作ったら慧人さんはおしりが破けてました」

「尻だけじゃなくて背中も破れたかもな。倉光さんと俺じゃ肩幅全然違うから」


 今日、慧人さんが作る服の型紙を作るために肩幅やヒップのサイズを採寸したのだが、結果はなかなか衝撃的なものだった。

 まずお尻が大きかった。

 慧人さんの身長は169センチで中学3年の男子としては標準的な身長だが、体重は68キロもある。

 腹筋が割れているので、重いのは太っているからではなく筋肉量が多い証拠なのだが、慧人さんのモトモモが私のウエストとほぼ同じサイズなのはさすがにビックリした。

 そんなフトモモを2本収納しなくてはならいのでお尻のサイズも当然大きくなる。

慧人さんは女子に人気がある細マッチョではなく、背筋・胸筋・上腕二頭筋がムキムキのゴリマッチョなので、倉光さんのサイズで作った服を着るのは不可能だった。

 そのような事情で新たに型紙を作る必要が生じ、私と慧人さんは仕事を家に持ち帰って二人で型紙を作っている。


「お侍さんの服も、こういうサイズだったんですかね?」

「俺は侍を見たことないけど毎日剣術の稽古やってたら筋肉つくし、やっぱゴツかったんじゃねえか?」


 幕末に日本に来た外国人が当時の日本人の姿を写真に残しているが、誰もが60キロもある米俵を軽々と担いで歩いている。

 現代では中性的なスラっとした体格の男性が女性に好まれるが、時を遡れば慧人さんみたいに筋肉質でゴツイ体格の男性の方が女性から人気があったのかもしれない。


「慧人さん、ハカマのデザインになにかこだわりはありますか?」

「注文付けていいならスソはしぼって欲しいな。女ハカマはヒラヒラしすぎて歩きにくい」

「了解です。ならいっそのこと、慧人さんが作るのは作務衣風のデザインにしましょうか? いっそのこと、夏祭りに着るなら甚兵衛の方が涼しくていいかもしれませんね」


 私はパルスフォンに作務衣と甚兵衛の写真を表示してどういうデザインになるのか慧人さんに見てもらう。


「ああ、街で見かけるクサリクはそういう格好してる奴が多かったな」


 私の記憶が確かなら、ウルクの男性服は作務衣か、山袴に長衣という格好が基本で、裾の広い袴はあまり流通していなかった。

女性服が複雑な帯締めを省力していったのと同じように、和服という枠の中で着付が簡単なデザインに最適化していったのだろう。


「作るのは作務衣か甚兵衛か、了解だ。そうなると次は材料だな。生地はどこで探すんだ? やっぱり反物屋に行くのか?」

「さすがに新品の反物は高すぎて手が出ないですね。そもそも新品の生地は全般的に高いので、家庭科部では古着をリメイクするように勧めています。私が今着ているのもフリーマーケットで売っていた着物をリメイクしたものなんですよ」


 私は立ち上がって慧人さんの前でクルッと一回転する。

 私が今着ているのは、ピンク色の生地に花柄模様が入った2部式着物。

 元はフリーマーケットで売られているゆかたで、上下をカットして着付が簡単な2部式着物にリメイクした。

 帯だって飾り帯にこだわる必要はなく、前掛けや、ベルトでまとめてもかわいい着こなしが出来る。


「そういや、桜歌は休みの日はいつも着物着てるな」

「今更気づいたんですか? 私、和服のヒラヒラした感じが好きなんです」


 慧人さんはすっとウルクで暮らしていたから違和感を覚えなかったと思うが、私は現代日本では珍しい和服フリークなのだ。

だだし、私は何事においても効率を求める性分があって、着付教室で教わるような面倒な作法は苦手なので、フリーマーケット巡って捨て値で売られている着物を二部式着物にリメイクして、自分なりの和服ファッションを楽しんでいる。

これは私の持論だが、日本人はもっと日常的に自由に和服を着るべきだと思う。


「あと、お休みを潰してしまって申し訳ないのですが、明日は制作課題の材料探しを手伝ってくれませんか?」


 明日の土曜日は学校のお休みの日なので、思いっきり制作課題の材料探しができる。


「材料探しって、古着屋に行くのか?」

「ふふん。もっと、いいところがあるんですよ」


 私は床に置いていたパルスフォンを手に取ってWebサイトを立ち上げる。

 立ち上げたWebサイトには、名谷駅の駅前広場で開かれるフリーマーケットの告知が表示されていた。


「明日、名谷駅でフリーマーケットが開かれるんです。この手のフリマは売る側もあまり儲けることは考えていないので、お宝が古着屋さんよりも安く手に入るんです」


 もっとも、フリマで売られているのものは古着だけではないので何も見つからないことも珍しくないが、私はフリマの宝探しに行くような感覚が大好きだ。


「明日は、きいさんと、亜沙美さんも来るので慧人さんも一緒に行きませんか?」

「いいのか? 鹿島さんと、関谷さんが来るなら俺、邪魔だろ」

「いえ、明日は慧人さんが作る服の材料も探したいので男性の意見も欲しいです」

「あいよ。どうせやること無いし明日は桜歌に付き合うよ」

「ありがとうございます」


 こうして、慧人さんも同行することが決まり、明日私達は4人でフリーマーケット巡りをすることになった。


挿絵(By みてみん)

ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。


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