第2話
――三智慧人
「慧人、お前やっぱり大会出ろよ」
「大会って中体連の公式戦?」
「そうだよ。慧人だったら全国行ける。全一だって夢じゃない」
上坂は身を乗り出して公式戦に出るように勧めてくる。
「いやいや無理だって。剣道部に入って2週間しか経ってないうえに、直前に暴力行為で10日間の停学食らった生徒の大会参加なんて認められるわけないだろ」
俺には公式戦で勝ち上がって有名になりたい願望は全くないし、それを差し引いても状況的に公式戦への参加が認められるとは思えない。
「惜しいなあ。せめて慧人が2年なら、タジ中から全一を出せたかもしれないのに」
「悪いな。あと明日は桜歌から家庭科部に顔出せって言われてるから、コーチになにか聞かれたら俺は被服室に居るって言ってくれ」
俺が明日稽古に参加できないことを伝えると上坂は露骨に眉をひそめて不満げな表情を見せる。
「そういえば、慧人先輩と鹿島先輩って家庭科部と兼部でしたね。家庭科部って何やってるんですか?」
「主に料理と裁縫だな。明日は俺が作る服の型紙を作るから顔を出せって言われてる」
「慧人先輩、服作るんですか!?」
「桜歌に完成するまで責任をもって指導するって言われてるからなあ。俺はあいつと同じ家に住んでるから逃げられん」
鹿島さんは、去年家庭科部の後輩と一緒に夏祭りに行くために徹夜でゆかたを縫う羽目になったらしい。
同じ目に合わないように桜歌の言うことは素直に聞いておいた方が身のためだろう。
「でも、桜歌先輩につきっきりで裁縫教えてもらえるのって、ハッキリ言って羨ましい」
「俺は教えてもらうなら関谷先輩がいいなあ。関谷先輩が隣で教えてくれたら、俺どれだけ針で指刺しても頑張れる気がする」
俺が明日家庭科部に行くと伝えると後輩達が羨望の眼差しを向けてくる。
「なあ慧人、お前って、関谷さんと話す機会多いのか?」
「同じクラスだし、部活も同じだから普通に話すけど」
会話といっても、「昨日の夕飯は何だった?」とか、「今日の授業で先生が話をするのは教科書のこのページだ」とか、内容は全て他愛のない世間話だ。
しかし、俺が関谷さんと日常的に話をしていることを伝えると、上坂まで無言でいぶかしげな視線を向けてくる。
「そんなに桜歌や関谷さんのことが気になるなら、お前らも家庭科部に入部しろよ。真面目に活動するなら桜歌も文句言わないだろ」
「いや、それは……」
俺が家庭科部への入部を勧めると、上坂を始めとした男子部員が全員口ごもる。
「慧人は転校してきたばっかりだから知らないかもしれないけど。家庭科部はタジ中の美少女四天王のうち3人が所属してる部だから注目度高いんだよ。男子の入部希望者なんて、桜歌さんや関谷さん目当てのスケベ野郎だと思われて白い目で見られるのがオチだ」
「じゃあ、俺はどうなんだよ?」
家庭科部に入ろうとする男子がスケベ野郎として白い目で見られるというなら、俺も例外ではないはずだ。
「慧人先輩、剣道部員以外の男子にはスゴク評判悪いですよ。俺、サッカー部の友達に『なんであのスケベ野郎が家庭科部に居るんだ?』って聞かれました。正直、知らんがなって思いましたけど」
「それはすまなかったな」
意図しないところで俺は多数の男子に嫌われていたらしい。
「ところでタジ中の美少女四天王ってなんだ? 桜歌からはそんな単語一度も聞いたことないんだけど」
「桜歌さんが知らないとは思えないけど、自分では言いたくないんだろうな。呼んでいるのは主に男子だし。簡単にいうと泰光寺中学校で一番かわいい女の子4人が美少女四天王って呼ばれているんだ」
軽く前置きしてから上坂がタジ中の美少女四天王について教えてくれる。
「四天王筆頭と呼ばれているのが生徒会長の金月春さん。小学生の頃は有名な子役タレントで週に何度もテレビに出ていた。最近は学業を優先するために仕事を減らしているみたいだけど、芸能人やってるだけあってアイドルグループに居ても遜色ない美人生徒会長だ」
「日本って、そんなスゴイ娘が普通に学校通ってるんだな」
「金月先輩は超レアキャラですよ。同じ学校に芸能人が通ってるなんて、すごく珍しいです」
俺は面識がないが、金月春は芸能人なので学内では顔を知らない者はいないほどの有名人らしい。
「二人目が、慧人のお姉さんである三智桜歌さん。定期テストで1年のときから10回連続で学年主席を取って、さらに家庭科部の部長、頭がいいだけじゃなく料理も裁縫も得意だから『女子力が天元突破した天才少女』と呼ばれてる。さらに小柄で小動物を思わせるかわいらしい容姿は、若干人を選ぶが男女共に熱狂的なファンが付いてる感じだ」
「上坂、それ本人の前で言うなよ。桜歌は、ちっちゃいとか、ぺちゃぱいとか言われたらガチギレするからな」
「そうなのか? わかった、気を付ける」
桜歌は、わかりやすいテストの成績や女子力以外に、怪しげな知識や技能を持っているが、この場でそれを言うのは野暮というものだろう。
「三人目が我ら剣道部の鹿島きいだ。正体は人の皮を被ったトラだけど、ビジュアルは最高だから本性を知らない奴らは勝手に憧れてる。ちなみに去年のバレンタイン、タジ中で一番たくさんチョコをもらったらしい。背の高い美人だから女子に人気があるのかもな」
上坂の鹿島さんに対する説明がえらく辛辣だ。
もっとも、剣道部の男子は俺も含めて全員稽古で鹿島さんにボコボコにされているので、憧れの気持ちなんて吹き飛んでしまうのだろう。
「で、真打が慧人と同じクラスの関谷亜沙美さん。ビジュアル面は生徒会長にも負けない正統派美少女。さらに、定期テストでは桜歌さんと学年主席を競い合うくらい成績も優秀。付け加えて、家庭科部に所属していて料理も裁縫も得意と女子力も高い。どこを見ても欠点が見当たらないハイスペ女子だ」
上坂の奴、関谷さんの紹介だけ妙に力が入ってるな。
「気になったんだが、関谷さんって男子に人気あるのか?」
「そうだな。美少女四天王で、男子のファンが一番多いのは関谷さんだな」
理由はわからないが、美少女四天王の中で一番男ウケがいいのは関谷さんらしい。
「ふむ――じゃあ、上坂も関谷さんが好きなんだな」
「まあ、そうだな。って、おい!?」
雰囲気的に上坂が関谷さんのことが好きなことを指摘すると、彼の顔が真っ赤に染まる。
うーん、わかりやすい。
「部長、俺も関谷先輩のこと好きですよ。美人でスタイル良くて、成績もよくて、女子力も高い。好きになるのは当たり前ですよ」
顔を真っ赤にした上坂に後輩が上手いことフォローを入れてくれる。
「しかし、話聞いてると美少女四天王って、4人ともかわいいだけじゃないんだな」
「そうですッ! 4人ともかわいいだけじゃなくて、中身も一軍女子が裸足で逃げ出す超ハイスペック。だから彼女達は特別なんです」
美少女四天王はかわいいだけじゃない。
他の生徒とは一線を画する超ハイスペックにみんな憧れているのだと後輩は力説してくれた。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
【読者の皆様へのお願い】 下にあるポイント評価(星マーク)は、作品のランキングに直結する非常に大きな力になります。 「面白かった」「今後に期待」と思っていただけましたら、応援のつもりで星をタップしていただけると嬉しいです!
頂いた評価や感想を糧に、さらに面白い物語を届けていけるよう頑張ります。




