第23話
――オッカ
フリーバトルの締めとして、ケイトさんとキーさんが対戦することになった。
「ずるい」
二人が観客席からバトルステージに降り立つのと同時にアクスさんが小さくつぶやいた。
今日初めてゲームを始めた初心者に対人戦で負けたのだ。
アクスさんが理不尽だと思うのも無理はない。
「確かに理不尽な強さだと思いますが、ケイトさんも、キーさんも強くなるために努力しているんですよ」
あの二人は、登校時のトレイルランに始まり、学校に着いたら始業ギリギリまで休み無しの立ち合い稽古、放課後は剣道部の練習に参加して、家に帰ってからも自主練をしている。
おそらく今日もゲームを始める前に滝のように汗を流していたはずだ。
「桜歌先輩はボクにプロゲーマーになるのは無理だと思い知らせるために、今日ゲームに誘ったんですか?」
「私は別にプロゲーマーを目指すのをあきらめろとは言いません。ただし、奏さんがプロゲーマーを目指すならケイトさんやキーさんに勝てるくらい強くなる必要があることを教えなきゃいけないと思いました」
少し調べればわかることだが、マモノハンター2の昨年度の世界大会で、フェンシングのオリンピック代表選手が3位入賞を果たしている。
コントローラーではなく思考でアバターを操作するVRゲームは、身体の動かし方を熟知したアスリートが高い適性を持っている。
プロゲーマーは賞金やスポンサーからの援助で高い収入を得ることができる職業なので、今後はゲームが上手い人だけではなく、アスリートも強敵として立塞がることになるだろう。
「ケイト先輩や、姉さんに勝つなんて……どうしろっていうんですか?」
「よく考えて、正しい努力を続けてください。夢を叶えられる人っていうのは、努力する天才だけです」
「僕は天才じゃないですよ」
「それはわかりません。才能の有無は、何年も正しい努力を続けて初めてわかるものなんです」
音楽だって、ゲームだって、勉強だって、必死に努力を続けた人達同士が勝負して勝ち残った人が夢をつかめる。
必死に努力して勝負の土俵に上がらない限り、才能の有無なんてわからないのだ。
「桜歌先輩キツイです」
「でも、正しい努力を続ければ勝てるかもしれません。諦めてもいいですが、できれば勝負を続けて欲しいです。それに、奏さんのそばには最高のお手本が居ます」
私達の目の前で、ケイトさんと、キーの勝負が始まろうとしていた。
武器は違うが二人は武器を右肩で担ぐように構える八相の構えを取っている。
互いに守りは捨て、最速で自分の武器を敵に振り下ろすための構えだ。
「ちぇえええええいッ!!」
猿叫をあげながらキーが突撃し、ケイトさんは彼女の突撃を迎え撃つ。
道場ではケイトさんが一方的に打ち負かされているが、今回は彼の武器は四尺野太刀。
リーチの差を生かせばケイトさんが有利に戦えるはずだ。
突撃してくるキーに向かってケイトさんが四尺野太刀を振り下ろす。
リーチの差を生かした完璧な迎撃。
そのまま突っ込めば真っ二つにされてしまうところだが、キーはケイトさんが四尺野太刀が振り下ろす直前のタイミングを見切って上空に跳躍した。
ケイトさんの斬撃は空振りコン!と地面を叩いた乾いた音が響く。
このままキーがケイトさんの背後から切りつけて勝負ありかと思われたその時、ケイトさんは手首を返して四尺野太刀を垂直に立てた。
獣魔法≪ケモノノチカラ≫
それは信じられない光景だった。
魔法によってケイトさんが握っていた四尺野太刀が射出され、上空にいたキーに突き刺さった。
「がはっ!」
キーのHPゲージが半分近く減少し、彼女の跳躍は勢いを失い真下に落下する。
キーは四尺野太刀に串刺しにされても諦めずにケイトさんの首筋を狙って刀を振り下ろそうとするが、ケイトさんは四尺野太刀の束を握り直し串刺しにしたキーの身体を地面に叩きつけた。
その一撃でキーのHPゲージが尽き勝負が決する。
すべてが一瞬、1秒にも満たない刹那の間に出来事だった。
『ケイトWinッ!』
バトルシステムがケイトさんの勝ち名乗りをあげると、私は膝の力が抜けその場に座り込んでしまった。
「強すぎる」
アクスさんの無意識のつぶやきが聞こえてくる。
私も同じ気持ちだ。
同じ学校に通う弟と親友が、こんな超人的な戦いができる剣術の達人だったなんて、さすがに想像していなかった。
――三智桜歌
あの後、私達は気分転換(主に私と奏さん)のために、ハンティングバトルを一回遊んで今日のゲーム大会はお開きとなった。
ベッドから起き上がってVRステーションを片付けたあと、私は迷わず慧人さんの部屋に向かった。
時間はもう午前1時を回っているけど関係ない。
気分が高揚していて横になっても、とても寝られる気がしなかった。
「夜遅くにすいません。慧人さん、少しお話したいです」
「あいよ。カギはかかってないから入ってこい」
ドアを開けると慧人さんは、クローゼットの中に隠しているどぶろくを紙コップに注いでいるところだった。
「あっ、慧人さん、晩酌してる」
「なんか興奮して眠れそうにないからな。桜歌も飲むか?」
「一杯だけいただきます」
私はクローゼット内に隠した冷蔵庫の中から紙コップを取ってきて慧人さんにどぶろくを注いでもらう。
二日酔いしたら大変なことになるので、本当に一杯だけのお楽しみだ。
「やっぱり魔法使ったら慧人さんの方が強いんですね」
私はどぶろくを一口飲んでから、慧人さんとキーの超人的な戦いの感想を口にする。
「今回は、ケモノノチカラを使ったわからん殺しが決まっただけだ。手の内をさらしたから次はきいも対策して来る」
「きいさん、大喜びでしたね。やっぱり、かわいい女の子に抱きつかれたら慧人さんもうれしいですか?」
対戦が終わったあとキーは慧人さんに抱きついて、「魔法って理不尽でサイコー! あたし、絶対にマモノハンターになるッ!!」と大声で宣言していた。
「抱きつかれても何の感触も感じないからなあ。ゲームだから仕方ないが、やっぱり残念だな」
「でも不思議です。慧人さんも、きいさんも、勝った時より負けたときの方がうれしそうです」
「だって、目の前に自分よりも強い奴がいるんだぜ。そいつを倒すための工夫を考えるなんて最高に燃えるだろ」
慧人さんはニコニコしながら、どこかの戦闘民族みたいなことを言う。
きっと、跳躍斬りを魔法で打ち破られたキーが次はどんな剣を使ってくるのか、それを想像するのが楽しくて仕方ないんだろう。
彼の横顔を見ながら私は確信する。
慧人さんとキーは、高校を卒業したら絶対にニビルに行く。
将来訪れる別れを想像して、私は胸の奥からさみしさがこみ上げてくるのを感じた。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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