第22話
――三智慧人
「それじゃ次はあたしだね。アクス、悪いけどもう一本付き合ってちょうだい」
次はキーが客席の手すりを乗り越えてコロッセオに降り立った。
「次は姉さんか、なんか嫌な予感がするなあ」
「心配いらないわよ。ケイトは現役のマモノハンターだけど、あたしはただの中学生なんだから魔法の使い方なんて知らないし」
『お前は、ただの中学生じゃない』
キー言葉に俺達は3人同時にツッコミを入れる。
彼女の言い分が正しければ、現役のマモノハンターがただの中学生に毎朝ボコボコにされていることになる。
「アクス頑張れよ。キーの『見切り』の精度は俺よりも上だぞ」
「うへえ」
アドバイスを聞いてアクスはゲンナリした顔で舌を出す。
全力疾走しながら敵を斬る『掛かり』の完成度を高める稽古の副産物で、キーは非常に精度の高い見切りの技術を持っている。
彼女は自分が斬り込む最適なタイミングはもちろんのこと、敵がカウンターを繰り出すタイミングも高い精度で見切ることができる。
アクスが接近戦を挑み、モーションアシストに頼った単調な突きを繰り出したら簡単に切り捨てられてしまうだろう。
「アクスが手持ちの魔法をどう使うかが勝負のカギだな」
「ケイトさんのときと同じようにトウケツダンで牽制するのでは?」
「それが無難だけど、弓を使わずに撃つ飛び道具って弾速が遅いから簡単にかわせるんだよ」
このマモノハンター2というゲーム内では肉体強化魔法が常時発動しているという設定で、全てのプレイヤーが常人の3倍くらいの身体能力を発揮することができる。
それを使いこなせるかどうかはプレイヤーのスキル次第となるが、キーは走りの技術が高いのでトウケツダンをかわしながらスピードを落とさず突撃するくらいの芸当はやってのけるだろう。
キーは全力疾走で突撃し斬り捨てる以外の戦術はとらないと思うので、アクスがキーの突撃をどう迎撃するか非常に興味深い。
『Let's go ahead!!』
二人がコロッセオに降り立つと数秒と経たずに戦闘開始がコールされる。
「ちぇえええええいッ!!」
予想していたとおりキーは刀を右肩に担ぐように構えたまま全力疾走でアクスに突撃する。
それに対してアクスはトウケツダンを――撃たない!?
エストックの切先をキーに向けたまま待ち構えていたアクスはキーが間合いに入る直前で行動を起こす。
氷魔法≪トウケツダン≫
キーの目の前でトウケツダンが放たれる。
アクスはトウケツダンを飛び道具として放つのではなく、エストックの間合いを伸ばす道具として使った。
目前にトウケツダンが出現し直撃は避けられないと思った俺達の目の前でキーは予想外の行動を起こした。
「なっ!?」
「跳んだッ!」
トウケツダンが目の前に出現すると同時にキーは強く地面を踏み込んで跳躍した。
ケモノノハドウこそ使っていないが今のキーは身体能力が常人の3倍に強化されている。
キーは目の前の出現したトウケツダンとアクスの頭を軽く飛び越えアクスの背後に落下する。
「イヤァァァ!!」
竜魔法≪リュウノヤイバ≫
頭から落下しながらアクスの背後を取ったキーは、空中で刀を下から上に振り下ろした。
背中をバッサリ斬られ、アクスのHPが一瞬でレッドゾーンまで減少する。
これが人間同士の戦いなら勝負は決している。
だが、ここはゲームの世界。HPが残っている限りまだアクスは死に体ではない。
「浅かったッ!」
そのことをキーは十分に理解していた。
彼女は落下すると即座に後転しながら立ち上がり、振り返って反撃を試みるアクスの喉笛に左片手で刀を突き刺した。
頸動脈を切り裂かれ、こんどこそアクスのHPゲージが0になる。
『キーWinッ!』
システムが勝ち名乗りを上げたとき、キーは剣道部員らしく油断なく刀を構えていた。
対戦が終わり、アクスとキーが観客席に戻ってきたので感想戦を始める。
「また負けた」
アクスは観客席に来ると座り込み、盛大にうなだれていた。
彼はプロゲーマーを目指すというくらい、このゲームをやり込んでいたと聞いている。
それなのに今日ゲームを始めたばかりの初心者に連敗したらショックも大きいだろう。
「おいおい泣くなよ。さっきの勝負、私が勝てたのは運が良かっただけだから」
「キーさんが、トウケツダンをかわすために跳躍したのは狙ってやったわけではないと?」
「うん。目の前にいきなり爆弾出されたときには“死んだ”と思ったんだけど、真上しか逃げ場がなかったから反射的に跳んでた。そのあとアクスの背後に飛び込めたのは完璧に運だね」
キーが、アクスの不意打ちをかわした神がかり的な跳躍の秘密を教えてくれる。
「勝てたのは運が良かったかもしれないが、背後に飛び込めたのは運じゃないと思うぞ。キーは走りの技術が高いから高くまっすぐ跳べた」
「走りの技術って、どういうことですか?」
「キーは走るときに頭が全然揺れないだろ。それって全力疾走しても体の軸がブレないことを意味していて、だから跳んだ時に高くまっすぐ跳べた。身体の軸がユラユラしてたら跳んだ時に落下地点が左右にズレるんだ」
俺は背後に跳べたのが運じゃなかったことと、キーの走る技術の高さについて説明する。
「つまり勝てたのは運だけじゃなくて、普段の稽古の成果もあったってことか」
「そういうこと。せっかくだから跳躍からの背面斬り、掛かりの変化技の一つとして稽古してみたらどうだ?」
「いやいや、さっきの技はゲームだから出来た芸当で、生身じゃ竹刀を持ったまま対戦相手の背後まで跳ぶのは無理だよ」
「いまは無理でもマモノハンターになったら話は別だろ」
キーはハッとした表情を見せる。
彼女の将来の夢はマモノハンターになること、そしてマモノハンターになれば肉強化魔法が使えるので先ほど見せた神技を実現することも可能だ。
「なるほど将来に備えてゲームで技の稽古をするのはアリだね。アクス、ありがとう。お前のおかげで姉ちゃんは新しい技を思いついたよ」
キーは大喜びでアクスを称えるが、彼は何一つ言葉を返さなかった。
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