第21話
――三智慧人
アクスが致命傷を負ったと判断したバトルシステムが俺の勝利をコールする。
しかし、今やっているのはあくまでゲームだ。
致命傷を負ったアクスの傷は瞬時に完治して彼はフラフラとした足取りで立ち上がった。
「ケイト先輩、いろいろと聞きたいことがあるんですが?」
「まあ、感想戦はみんなでやろうぜ。オッカやキーも聞きたいことあるみたいだし」
俺はアクスの背中を押して観客席にいるオッカ達と合流する。
観客席に行くとオッカは何が起こったのかわからずポカーンと口を半開きにしており、キーは口元で笑みを浮かべていた。
「ケイト、お前容赦ないなあ。最初から全部想定通りか」
「トウケツダンを撃たれた時点で、アクスが飛ばして落とすつもりなのは読めたからな」
俺がなぜ勝てたのかわかっているキーが肩をポンポンと叩く。
「ケイト先輩、なんでボクの方が先に斬られたんですか? 自由落下する先輩より僕の方が速いはずです」
対空攻撃をしかけた自分が先に斬られたのが納得いかないらしくアクスが詰め寄って来る。
「答えは獲物の差だよ。アクスのエストックより、ケイトの四尺野太刀の方が長いだろ」
キーが指摘した通り、俺の四尺野太刀の刀身は120センチ、対してアクスのエストックの長さは90センチくらいだ。
「結論から言うと四尺野太刀が届くギリギリのタイミングで刀を振り下ろした。自分の獲物が届く正確な距離を見極める。剣術の『見切り』って技術だ」
四尺野太刀の方が30センチ長いので、間合いを正確に見切れば一方的に攻撃することが可能だ。
「僕はケモノノハドウ使って突撃してたんですよ。高速で接近する相手の間合いを見切れるんですか!?」
「できる。というか、そのくらいできないと死ぬ」
俺が実際に戦ったマモノには、アクスより高速で動くバケモノがゴロゴロいた。
そしてマモノ相手の実戦は徹底して殺すか殺されるかの戦いだ。
マモノ相手に敵の動きが速すぎて見切れないなんて言うやつは、エサにされても文句は言えない。
「私も質問いいですか。先ほどケイトさんは四尺野太刀に獣属性の魔力をまとわせていましたが、あれは何ですか? ケイトさんのアバターは、まだケモノノハドウしか使えないはずです」
オッカが鋭い質問をしてくる。
確かに俺のステータス画面の使用できる魔法の一覧にはケモノノハドウしか表示されていない。
「このゲームの基本システムって自然の物理法則がそのまま適用されてるけど、どうやらそれは魔法に関しても同じみたいなんだ。例えばケモノノハドウって魔法は身体から運動エネルギーを噴出して高速移動する魔法なんだけど、応用した使い方として敵に運動エネルギーをぶつけて攻撃に転用することもできる」
「ケモノノチカラですね。確か獣属性でレベル20以上の魔力器官で魔動兵器を作ったら開放されるはずです」
そうゲームの設定では、オッカの言う通りケモノノチカラは特定の条件を満たすことで使用できるようになる魔法だ。
俺は今から使う魔法にみんなを巻き込まないように距離を取った。
「俺が気づいたのは、大半のプレイヤーはゲーム内で魔法を使うのにモーションアシストの助けが必要ってこと」
本来の魔法は術者の頭の中にあるイメージに魔力というエネルギーを流し込んで具現化する技術だ。
頭の中にあるイメージの完成度を高めて物理現象として発現させるには、何千回、何万回という反復練習が必要で、一つの魔法を習得するだけでも数か月の訓練期間がかかる。
そういうプロセスをすっ飛ばして魔法が使えるのは、ゲーム内に登録されたモーションアシスト機能のおかげだろう。
「だから、プレイヤーがモーションアシストに頼らず魔法が使える人間だと話が変わってくる」
俺は右拳を観客席の上に置いて魔力を収束させる。
獣魔法≪ケモノノチカラ≫
俺が魔法を発動すると運動エネルギーに押しつぶされた周囲の床がクレーター状に陥没した。
「つまりケイトさんは、自分が使える魔法は現段階で全て使えるってことですね」
「はっ、反則だ」
俺がステータス上で解放されていない魔法を使うのを見て、オッカは翼で顔を隠しながらあきれたようにため息をついた。
「ちなみに、さっきアクスを斬った魔法はケモノノヤイバっていうケモノノハドウの応用魔法だ。魔法兵器は手足の延長だからな、刃の切先から運動エネルギーを放出して斬撃の威力を上昇させることもできる」
「その魔法、マモノハンター2に実装されてませんよ」
「使い手が少ない魔法だからゲームの開発メーカーがケモノノヤイバの存在を知らないんでしょうね」
俺がゲームに実装されていない魔法を使ったことに、オッカとアクスが再びため息を吐く。
ゲームの開発メーカーも、まさか本物のマモノハンターがゲームで遊ぶとは夢にも思わなかっただろう。
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