第18話
――三智桜歌
午後十時。
夜が更け、街中から人が消え、屋外が静まり返る頃。
私は電子の世界に降り立った。
本当の私は自室のベッドで横になっているはずなのに、目の前に広がるのは既視感のある板張りの床と、漆喰の壁で作られた空間だった。
どうやら私が居るのは大型店舗のフードコートのような場所で、フロアは部屋を仕切る壁のない開けた作りになっていて、広い空間にたくさんの椅子と机が置かれている。
あまり繁盛はしていないようで、席の7割が空席となっているが数少ない利用客はバラエティに富んでいる。
酒場には、さまざまな知的生命体が集っていた。
狼の面影を残す者、猛禽の翼を持つ者、恐竜の姿をした者――
このマモノハンター2でプレイヤーがアバターとして使用できる知的生命体が、酒場で飲食を楽しんでいる。
「地球のゲームってすごいな。どこを見てもウルクのハンターギルドそっくりだ」
背後から声をかけられて振り向くと慧人さんがいた。
冗談や誇張は一切なしで彼のアバターは慧人さんと瓜二つの容姿をしていた。
「もしかして画像の読み込み機能使いました?」
「ああ、いくらゲームといっても他人の身体を動かすのは気味が悪いからな」
最近のゲームはアバターメイクをするときに画像の取り込み機能を採用していることが多い。
画像データを読み込ませて、特定の人物とそっくりのアバターを作成することができるのだ。
芸能人やアニメキャラを模したアバターを作る人が多数派だが、慧人さんのように自分を模したアバターを作る人もときどき見かける。
「なんか既視感があると思ったら、ここウルクのハンターギルドを模した部屋だったんですね」
「本物はもう少し小汚いけど部屋割りとかは全く同じだな」
慧人さんが言うことが本当なら、スゴイと称賛するしかない。
きっとゲームの開発スタッフは、ウルクまで行ってハンターギルドの内装を事細かに調べたのだろう。
「最新ゲームならではのこだわりです。最新のVRゲームは視覚と聴覚が高いレベルでプレイヤーと同期してるので、遊園地みたいなハリボテの建物だと違和感を覚える人が多いんです」
声変わりする前の男の子の声と共に二人のアバターがハンターギルドに現れる。
一人は、私達地球人と全く同じDNA構造を持つ知的生命体クサリク。
キーは、慧人さんと同じように自分の写真を読み込ませて自分のアバターを作成したようだ。
もう一人は、キーよりも背が高いムシュフの男性だった。
ムシュフはトロオドンと呼ばれる恐竜から進化した知的生命体で、ヒラヒラしたムシュフの民族衣装を着た大柄な肉食恐竜の外見をしたアバターから、声変わりする前の男の子の声が聞するので少し違和感がある。
キーの弟の奏さんは、私と2歳差の中学一年生で、まだ誕生日が来ていないから12歳のはずだ。
「奏さん、お久しぶりです。今日は一緒に遊んでくれてありがとうございます」
「おっ、桜歌先輩こそお久しぶりです。先輩がゲームに興味持ってくれて、とても嬉しいです。あと、慧人先輩初めまして、鹿島きいの弟の鹿島奏です」
奏さんは、何を緊張しているのかわからないが仰々しくお辞儀をする。
成長に伴って距離が出来たことを感じて少し寂しい。
小学生のころはキーの家に遊びに行ったときに奏さんとも一緒に遊んだし、キーのお母さんの仕事が遅くなった時には夕飯を作ってあげたこともある。
一人っ子だった私にとって、奏さんは弟のような存在だった。
「奏、オッカ相手に緊張してるの? あたしの前じゃ生意気なことばかり言ってるじゃない」
「桜歌先輩は姉さんみたいなガサツな人とは違うんだよッ!」
キーがクイクイと脇腹をつつくと、奏さんは顔を真っ赤にして怒る。
それを見て私は少し安心した。
ああやって、からかってきたキーに奏さんが怒るのは二人の家に遊びに行ったときに毎回見られるお約束の光景だ。
私とは距離が出来てしまったが、少なくともキーとの兄弟仲は変わっていないようだ。
「しかし、慧人先輩と姉さんはアバター選択クサリクでいいの? 正直言ってこのゲーム、クサリクは弱キャラだよ」
奏さんの説明によると、マモノハンター2におけるクサリクは他の種族に比べて使える武器の選択肢が多いのが強みだが、身体能力がムシュフやウルディンに比べて低いためハンターバトルの勝率は低く弱キャラと呼ばれているらしい。
「別に構わないぞ、クサリクのフィジカルがウルディンやムシュフに比べて低いのは現実でも同じだからな」
「別の種族を使ってみようと思わなかったのですか?」
クサリクのステータスがウルディンやムシュフに比べて低いのは現実の事情を反映しているので仕方ないことだが、二人がわざわざ写真を取り込んで自分そっくりのアバターを作った理由は気になる。
「だって、身長が変わったら攻撃をかわすための見切りの目測を間違えるだろ」
「あと敵に斬り込む間合いも間違えそうだよね。手の長さが変わったら、当然打突の間合いも変わるわけだし」
二人は身体に覚え込ませた感覚が狂うのを嫌って自分そっくりのアバターを作ったようだ。
こればっかりは人の皮を被った猛獣になるまで体力と技術を鍛え上げた戦士にしか理解できない悩みだ。
「俺からすれば桜歌の方が心配だな。そのアバターまともに動かせるのか?」
普段とは全く違う姿になった私を見て、慧人さんが心配そうな顔をする。
「大丈夫です」
私は両翼をパタパタっと羽ばたかせて、慧人さんの右腕にチョコンと飛び乗った。
「このゲームはモーションアシストという機能があって、プレイヤーの思考を読み取って運動力学的に正しい動きをシステム側が実行してくれるんです」
私は選んだアバターはダルチュ。
ワシミミズクから進化した知的生命体で、唯一飛行能力を有している存在だ。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
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