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第16話

――三智慧人


 延々と続くように思えた高塚山縦貫道だが、結果的には30分ほどで踏破してしまった。

 そこから、一キロほど平坦な道を走り続けて俺達は校門の前で俺達を待っていた桜歌と合流する。


「オッカ、おまたせ!」

「さすがに桜歌の方が早かったか」


 校門にバタバタと駆け込んでくる俺達の姿を見て桜歌は安堵の表情を見せる。


「二人ともケガがなくてよかったです。予想はしていましたが慧人さんも足速いですね」

「でも、きいに全く追いつけなかった。自分の未熟さを思い知らされたよ」

「きいさんは1年のときから高塚山経由で通学しているので、それは仕方ないと思います。私から見たら、あんな山道を30分強で抜けてくる時点で二人ともバケモノですよ」


 桜歌と合流した俺達は武道場の更衣室で汗まみれのジャージから着替える。

 俺と桜歌は剣道部に所属していないが、タジ中の剣道部は朝練をやっていないので文句を言われることはない。

 この後、きいは武道場に残って剣の稽古を、桜歌は制服に着替えて教室で勉強しに行くのが二人のルーティーンなのだが、今日は少し違った。


「今日は二人の稽古を見学させてください。慧人さんは剣道初心者なのでケガしないか心配です」


 生まれて初めて竹刀を握る俺のことを心配して桜歌は武道場の隅っこでチョコンと正座する。


「こんなにガチガチに固めていたら大丈夫だろ」


 俺は頭にかぶった面防具をコンコンと叩く。

 きいと剣の稽古をするために、俺は剣道着と剣道の防具一式を用意した。

 全身を甲冑のような防具で固めているので、竹刀で殴られたくらいではケガはしないはずだ。


「甘いです。きいさんは剣道の稽古中に面打ちで男子を失神させたことがありますよ」

「それはすさまじいな。きいの奴『実はマジンです』なんて言わないよな」


 俺はきいに脳天打ち据えられて気絶したが、中身スカスカの軽い竹刀であれだけの威力を出すのは簡単なことじゃない。

 ハードなトレーニングで培われた人並み外れた脚力と腕力、それがあって初め可能になる芸当だ。


「あれは、たまたま当たり所が悪かっただけだよ。普段の稽古で気絶する人なんていないから」

「剣道の稽古をするなら問題ないと思いますが――慧人さんも、きいさんも、剣道をやる気ないですよね?」

「それは……」

「まあ」


 桜歌に痛いところを突かれ俺ときいは思わず口ごもる。

 彼女の言う通り、防具を着て竹刀を握っているが俺達は剣道をやる気はない。


「今日初めて竹刀を握る慧人に剣道のルール教えても時間の無駄だし、ルール無用で思いっきりやった方が私も楽しいし」

「ルールは安全に競技を楽しむためにあるんですよ。剣道で中学生までは突き技が禁止されていり理由を知っていますよね」

「知ってるけど、慧人は使えるでしょ突き技」

「使える。そもそも実戦を想定した場合、最初に練習するのは突き技だ」


 剣の先端で敵を突き刺す突き技は間合いが長く、相手によっては敵の攻撃範囲の外から一方的に攻撃できるのでマモノとの戦いで使用する機会は多い。

 剣道では防具に間をすり抜けて相手をケガさせる可能性があるので中学生以下は突き技が禁止となっているが、危険な技というのは逆に言うと安全に敵を殺せる技なのだ。


「それに、慧人が見たいのはこれでしょ」


 きいは剣道の試合の開始位置から大きく後退して、腰と両膝を屈めて前傾姿勢を取り、その体勢を維持したまま竹刀を右肩に担ぐように構える。

 その姿を見て俺は思わず笑みがこぼれるのを抑えきれない。

 きいは、俺を一撃で打ち倒したすごい剣を繰り出すつもりだ。


「そうだ、その剣が見たかったッ!」


 俺は飛び込んでくるきいを迎え撃つために竹刀を上段に構える。


「もう好きにしてください。ただし、私が危険だと判断したら止めますからね」


 桜歌のボヤキを無視して、俺はきいに全神経を集中する。

 きいは突撃しながら切り込んでくるので、突きによる迎撃が有効だが、突きを放てば片手面を繰り出すという対抗策を彼女は用意している。

 突きを放つと両腕が伸びきって身動きが取れなくなるので、半身の体勢で突きをかわしながら片手面で後の先を取る対抗策は非常に効果的だ。

 だから狙うのは先の先。

 きいが間合いに入る直前に剣を振り下ろし、斬られる前に斬るしかない。

 きいが床を蹴る。


「チェェェェェェェイッ!!!」


 速いッ!

 トレイルランで鍛えた強靭な脚力をいかんなくなく発揮し、矢のようなスピードで突っ込んでくる。


「ここだッ!!」


 きいが間合いに飛び込んでくるタイミングを見計らって俺が切り込むと、彼女は突然スピードを減速させた。


「なっ!?」


 最速で飛び込んでくることを想定して切り込んだ俺の竹刀は虚しく空を切り、身体が泳ぎ切った無様な姿をきいにさらす。


「メンッ!」


 直後、きいは担いだ刀を振り下ろし隙だらけの頭部にバチンッ!と面打ちを決める。


「マジかあ」

「あたしの勝ちッ!」


 俺がガックリと肩を落としたのを見てからきいが勝ち名乗りを上げた。


「完全にタイミングを外された」

「ふふふ。あたしは、ただ突っ込むだけの単細胞ではないのだよ」

「やっぱり、すごい剣だ」


 基本的な動きは全力疾走で突撃しながら担いだ剣を振り下ろすだけ。

 しかし、突きが来れば片手面に移行する、先の先を狙う敵にはスピードを緩めてタイミングを外す。

 状況に応じた対策がすごく練りこまれている。


「きいさんの剣術はオリジナルじゃありませんよ。彼女が使っている技は薬丸自現流の『掛かり』です」

「日本には、そんな剣術があるのか?」


 体力トレーニングや魔法に関する理論はPHCアマハラで教えてもらったが、日本にどんな剣術があるかなんてさすがに知らない。


「薬丸自顕流は、江戸時代の鹿児島で示現流という流派から派生した剣術です。少数の技を徹底的に鍛えて完成度を上げるというのが特徴で、流派に伝わる技は9個だけ。加えて実戦で多用される技は先ほどきいさんが使った『掛かり』と抜刀術の『抜き』だけです」


 桜歌が言うには、日本に伝わっている剣術は状況に応じて多種多様な技を使う流派が多数派で、薬丸自顕流のように二つの技だけを徹底的に鍛える流派は珍しいとのことだ。


「図書館で教材ビデオを見たときにピンと来たんだよね。あたしでも真似できそうだって」

「でも謎です。普通は道場に行かずに教材ビデオと教本だけで稽古しても強くなれないと思うんですよ」

「あたし、『掛かり』は我流で稽古したけど、『抜き』は出来ないからね」


 それは仕方ない。

 抜刀術の稽古をするには竹刀や木刀ではなく、鞘付きの模造刀が必要だ。

 模造刀は刃引きしてあっても重量一キロを超える鉄棒で頭を殴れば人を殺せる。

 そんなもの、子供が親にねだっても買ってもらえないだろう。


「きいが強くなったのは、指導者が居なかったのがよかったのかもしれないな」


 きいの掛かりは、一つの技の中で状況に応じた対策がいくつも用意されている。

 稽古しながら彼女が試行錯誤し続けた結果だと思うが、もし指導者が居たら突きに対して片手面を繰り出すみたいな大胆な変化技は認められなかっただろう。


「それって、あたしに剣の才能があったってこと?」

「少なくとも俺よりは才能があると思うぞ」


 教本と教材ビデオだけであそこまで技の完成度を高めたことが、きいに剣の才能があることを証明している。


「それじゃ説明も済んだことだし2本目行ってみようか」

「あいよ」


 きいの剣の秘密を教えてもらった俺は2本目の勝負をするために再び剣を構える。

 構えは中段。

 突きがあることをチラつかせないと、攻撃のタイミングを簡単に外されてしまう。

 きいは、さっきと同じ場所に移動して前傾姿勢になって竹刀を肩に担ぐ。


「チェェェェェェェイッ!!!」

「こいやッ!!」


 今朝は俺の腕が上がらなくなるまで立会稽古を続けたが、俺はきいから一本も取ることが出来なかった。


挿絵(By みてみん)

本作を読んでいただきありがとうございます。

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