第13話
――三智桜歌
放課後。
アサミンと一緒に午後の授業を欠席することになった私は、藤村先生と少し話をしてから家庭課部の部室となっている被服室に向かった。
私が来た時には私とアサミンを除く部員は全員集合していて、姦しいと言われそうな勢いでおしゃべりに興じていた。
「あっ、部長が来た」
「オッカ遅かったじゃない。今日は来ないのかと思ったよ」
私が被服室に入ると下級生とキーが、手を挙げて迎え入れてくれる。
彼女達の反応から見れば一目瞭然だが、家庭科部の部長は私だ。
そもそも、家庭科部は私の発案で始めたもので部員も最初は、私とキーとアサミンの3人だけだった。
「午後の授業をお休みしてしまったので、藤村先生にお詫びと、少しお話をしていました」
「そうなんだ。ちなみに、アサミンの方は大丈夫なの?」
私ではなく、アサミンの心配をするということは、昼休みの騒ぎはキーの耳にも届いていたようだ。
「大丈夫です。亜沙美さんは、少し体調を崩して午後の授業をお休みしましたが、もう回復して今日の部会には参加できます。ここにいないのは、私がお願いして廊下で待機してもらっているからです」
「そっか……まっ、アサミンが元気ならいいよ。あと、今日はオッカが弟を連れてくるって言ってたけど、そっちはどうなの?」
「慧人さんも来ます。ただ、彼も私がお願いして廊下で待ってもらっています」
キーが、下級生の気持ちを代弁するように根掘り葉掘り聞いてくる。
今日の部会に参加すると言っていた慧人さんとアサミンの姿がなく、私だけが被服室に入って来たのだから当然の反応だろう。
「部長の弟さんって、マモノハンターだってウワサ聞いたんですが、どんな人なんですか?」
「私はちょっと怖いです。慧人先輩って、転校初日に野球部の人達に大ケガさせて停学処分受けたんですよね」
私が慧人さんを廊下で待たせているのは、彼を家庭科部の仲間、特に下級生に受け入れてもらうためだ。
現在、家庭科部の部員は11人。
内訳は3年生が3人、2年生4人、1年生が4人で性別は全員女子だ。
こんな女の子だけの空間に何の工夫も無く慧人さんを放り込んだら、下級生と彼の間に気まずい空気が生まれてしまう。
だから慧人さんを後輩のみんなに受け入れてもらうにはインパクトのある演出が必要だ。
「慧人さんがどんな人かと聞かれたら、普通……じゃないですね。私達が知っている人に例えると、きいさんと同じタイプの人ですよ」
私がそう答えると後輩達は一斉にキーの方に振り向く。
「きい先輩と同じ……なら、大丈夫かな?」
「きい先輩の男版か、ちょっとカッコいいかも」
「私は怖いかも。男子だと、爆弾のスイッチがどこにあるのかわからないし」
「お前ら、あたしのことをなんだと思ってるんだ!?」
キーの問いに対して、口には出さないが後輩達は同じことを考えているだろう。
『オリの中にいるトラ』
今朝、アサミンが語った言葉は、キーや慧人さんの人柄を的確に現していると思う。
「まだまだ聞きたいこともあると思いますが、とりあえず家庭科部の部会を始めましょう」
いつまでも慧人さんとアサミンを待たせておくとかわいそうなので、私はパンパンと手を叩いて部会の開始を告知する。
「今日の部会では、事前に告知したとおり1学期の制作課題を決めようと思います」
家庭科部は、月に2回の調理実習と、学期毎に課題を決めて服を1着作るというのをメインの活動方針にしている。
ちなみに顧問は藤村先生にお願いしているが、月に2回の調理実習のときしか顔を出してくれない。
「私、去年と同じでゆかたがいいですッ! 去年、自作のゆかた着てみんなで夏祭りに行ったの最高に楽しかったし、1年生にも同じ体験させてあげたいです」
元気に手を挙げて発言したのは、2年生で副部長をお願いしている冬市文香さんだった。
文香さんは、私と同じく眼鏡をかけたメガネっ娘仲間で、丸形のフチ無し眼鏡を愛用している。
自他共に認めるオタク女子である文香さんの趣味はコスプレで、背中まで届くロングヘアもコスプレのために伸ばしているらしい。
「そうですね。ゆかた作りたい人はゆかたにしましょう。文香さん、1年生でゆかた作りを希望する子がいたら、制作指導をお願いしてもいいですか?」
コスプレ衣装を自作している彼女の裁縫スキルは私よりも上だ。
だから文香さんに副部長なることをお願いしたし、制作指導に回っても問題ないだろう。
「それは構いませんが――でも、私にゆかたの制作指導を任せるということは、桜歌先輩は別に作りたいものがあるんですか?」
「ふふふ、その通りです。私、先週ウルクに行ったときに、とても良いものをもらったんです」
私は喉元に手を当ててラスに命令する。
(ラス、関谷亜沙美にメッセージ送信。『アサミンお待たせ、被服室に入ってきて』)
首に巻いたパルスセンサーは私の考えた命令をちゃんと受診してくれたらしく、メッセージを見たアサミンが被服室のドアを開けて中に入ってくる。
「みんなお待たせ。というか、待たされたのは私なんだけどね」
被服室に入って来たアサミンの姿を見て、下級生のみんなは一様に息を呑んだ。
彼女の上着は少し光沢のある黒染めの着物を羽織り、飾り帯の代わりにアウターとして赤白黒の格子模様が描かれたスカートを履いていた。
帯の代わりに革のベルトでスカートを固定しているので着付けは非常に簡単だ。
「かっこいいいッ! モデルさんみたい」
「亜沙美先輩素敵です」
「ハイカラさんスタイルですね。映画で見た衣装よりかわいいです」
下級生のみんなはアサミンの元に押し寄せ、見慣れない服を身に着けた彼女の姿にキャーキャーと黄色い歓声をあげる。
「少し心配していましたが、きれいに着付けできましたね」
「帯締めが必要ないから着付は簡単だったわ。この服、構造は剣道着とほぼ同じよ」
「その服、剣道着なのか!?」
普段自分が身に着けている剣道着が華やかなオシャレ着になったと聞いて、キーは目を丸くする。
「正確には亜沙美さんが着ているのはウルクの民族衣装です。しかも高級品じゃなくて、ウルクの女の子が毎日身に着けている普段着」
日本に一番近い異世界国家ウルクは、地球外生命体の住む国なのになぜか日本文化と共通点が多い。
稲作が盛んなので主食は米だし、服もボタンを使わず前開きのものを帯やベルトで固定する方式を採用している。
一番の違いは、日本人が普段着を和服から洋服に変えていったのに対して、ウルクでは伝統的な服を普段着とする文化が残っていることだ。
普段着として毎日着るものだから着付け教室に通わないと着られないような服は廃れて、簡単に着られるよう和服という枠の中で構造が簡略化されていったのがウルクの民族衣装だ。
「私、ウルクに時子さんって友達がいるんです。その時子さんが、先日ウルクに行ったときに服をプレゼントしてくれたんです」
「よく着られましたね。桜歌先輩と亜沙美先輩って服のサイズ違うと思うのですが」
「和服は洋服と違って帯を使って服を体型に合わせるので、私と亜沙美さんくらいの体格差ならいくらでも融通が利くんですよ」
いい機会なので下級生のみんなにも和服の良さをアピールする。
「ただし私はサラシで胸を潰す必要があったから。心当たりのある娘は覚悟するように」
「ちょっと、亜沙美さんッ! それは言わないでくださいってお願いしたじゃないですか」
「いやいや、体型は人によって違うんだから必要なことはちゃんと伝えなきゃダメでしょ」
ちなみに私の体型だとインナーにブラトップを着れば問題なくフィットする……悔しい。
「桜歌先輩は一学期の制作課題で亜沙美先輩が着ているウルクの民族衣装を作りたいんですね」
「その通りです。もちろん制作指導は私がやります。
パッと見は珍しい服に見えますが、先ほども言った通り型紙は剣道着とほぼ同じなので制作はそこまで難しくないはずです」
実は型紙はすでに作成済みで、あとは材料となる生地さえ手に入れたら何時でも制作にとりかかれる。
「どっちがいいかな? 正直、ゆかたの方も捨てがたいし」
「でも、ウルクの民族衣装で夏祭りに行くのもカッコいいかも」
下級生の娘達は、ゆかたとウルクの民族衣装のどちら作るのか悩んでいる。
「なにを作るかは実際に制作に入ってから決めてもいいと思います。相談してくれたら、生地の素材や着こなしについてもアドバイスしますよ」
革のベルトを飾り帯に変えてもいいし、上から薄い襦袢を羽織るという選択肢もある。
私も女の子なので、かわいい着こなしを想像するだけで顔がほころんでしまう。
「まっ、完成すればなんだっていいんだよ。あたしでも去年、ゆかた縫えたんだ。みんな心配するな」
「きいは、ギリギリまで手を付けてなくて桜歌にスパルタ指導を受けでもんね」
「オッカだけじゃなくアサミンもスパルタだったからなあ。あの時は二人に挟まれてひいひい言いながら……って後輩の前で変なこと言わせるなッ!」
キーの様な例外は居るが家庭科部の部員は、みんな料理や裁縫が好きな女の子ばかりなので何とかなるだろう。
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