第一話「手術」
その少年は虐待を受けていた、親は競馬に競艇にパチンコに夢中でそれにアルコール依存症まで混ざった典型的な毒親だった。
少年はある日思った。
「痛覚が無ければ少しは楽なのになぁ...」
と、この時少年は中学三年生で受験生だった。
それから月日は経ち少年は高校二年生になっていた、地元でも高偏差値の高校に通い早朝までバイト尽くめだった。
これは親の娯楽費を稼ぐためであるが彼は親に渡す金を少しずつくすねて手術費を稼いでいた。
そう痛覚を除去するための手術費を稼いでいたのだ。
そして今日彼はバイトからの帰り道、数ヶ月…いや、数年見せることがなかった笑顔を遂に見せたのだ。
「これで手術が受けられる...!」
彼は思いっ切り笑った、しかし痛覚除去の手術など何処にもあるハズがない。
彼が必死に貯めた大金は無駄なのだろうか?
次の日、彼はとある人物に電話をかけた。
「もしもし、伊勢腹さんですか?」
「はい、そうですが…どちら様で…?」
彼が電話をかけたのは元外科医兼元大学教授の伊勢腹だった。
伊勢腹太郎、彼は10年前大学の附属病院で己の利益を追及し過ぎた結果多くの過失を犯し、最近まで刑務所にいたのだ。
出所後は地方でひっそりと暮らしていた伊勢腹は偶然マスコミに見つかりそこからは住所に電話番号がネット民により晒されたものの金がないため引っ越しもできずに拷問のような毎日を過ごしていた。
そんな中…
「手術をお願いしたいのですが、400万でどうでしょうか?」
という電話が来た、月2万の家賃を払うだけでも精一杯の彼にとってそれは魅力的過ぎた。
「は、はい!もちろん!」
伊勢腹は二つ返事で了承してしまった。
しかしまだ問題がある、それは圧倒的備品不足だ。
手術用のメスに麻酔…上げればキリがない。
そこで彼らが思いついたのは深夜の病院に忍び込んで手術をするという限りなく愚策に近しい行為だった。
それでも互いに焦っていたこともあり結局その案が採用されてしまった。
決行の日彼らは地元でも一番の規模の病院に潜入した、適当な人物の見舞いと称し屋上に隠れて時を待った。
深夜3時作戦決行だ…!警備の目をかいくぐり薬品を盗んで手術室まで潜入した。
悪運強く手術までこぎつけてしまったのだ。
そして手術中。
「…マズイ…非常にマズイぞ…」
伊勢腹は焦りを露わにした。
手術の内容は身体中の全神経を取り除くこと…しかしそんな複雑な作業すぐに終わることなどない。
どう頑張っても頭などの一部部位の神経を除去するのは間に合わない...そこで伊勢腹が下した決断とは...。
「これで…手術は完了だ…完了したんだ…」
中途半端な状態で手術を完了させたのだった。
皮を縫い合わせたりして後始末を終えたら伊勢腹はまだ眠る彼を公園のベンチに寝かせ400万の入った鞄を持って帰路に就いた。
そうだ、まだ彼の名前を言ってなかった...彼の名は中田コウ、テロリストになる少年だ。
どうもどうも、作者でございます!「終末世界にも猫はいる」がまだ終わってないのにも関わらず新シリーズですよ!最後のシーンやタイトルで勘のいいガキの方は分かると思いますが北海道大学の学生がISIS(イスラム国)に入ろうとした事件を元ネタとしております!かなり不謹慎な内容になると思いますのでご注意を…。