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2、ちょっと、さすがにやりすぎでは?

「セオドア様、あの、お話したいことが、いえ、お願いしたいことがあるんですが」



 セオドアの館にやって来て二日目の朝、アデラインはものすごく言いにくそうにそう切り出した。しかし朝食後に一人がけのソファで珈琲を飲みながら分厚い本を眺めているセオドアは、アデラインのほうを向かないままで返事を返す。



「何だ、必要なものは俺ではなくトビーかイライザに言え」



 トビーはこの館の執事で、イライザはメイド長だ。どちらも館の使用人の長になるには若く見えたが、仕事ができる人特有の機敏さがあるとアデラインは感心した。確かに彼らに言えれば大抵のことは叶えてくれるのだろうが、そうではない。必要なものの話ではないのだと、アデラインは拳を握りしめた。



「必要なものはありません、既に溢れかえっています! とにかく、その今持っているカタログを置いてください!」



 アデラインが懸命にそう叫ぶと、セオドアはやっと視線を彼女に移した。



「アデライン」

「な、何ですか!?」

「淑女がそう声を張り上げるものじゃない」

「誰がそうさせてるんですかー!」



 アデラインはもう、自身の身分など忘れたふりをして大声を張り上げた。


―――


 アデラインが一ヶ月世話になると決まってから、セオドアは使用人たちを呼んで事情を説明し、彼女の為の部屋を整えさせた。使用人たちはいきなり現れたアデラインに動じることもなく、テキパキと自分たちの仕事をこなした。


 けれど三十分もたたないうちに整えられた客室に、アデラインは絶句したのだ。



『え……。あの、これ、えっと……え?』

『はい、アデライン様。何かご不便が?』



 客室とはいえ女性が使う部屋だからとセオドアはついて来なかったので、この場にはアデラインとイライザしかいない。明らかに動揺を隠せないアデラインに声をかけられるのも、イライザだけだ。



『い、いいえ、イライザ。とても素晴らしいお部屋です。ですが、その……』

『はい』

『このお部屋は、誰かが使われていたものなのですか? そうであるなら、わたくしが使うのは……』



 案内された客室は、あまりにも女性向けのそれだった。それもアデラインくらいの若い女性が好むような雰囲気の部屋だ。


 カーテンやベッドの天蓋は最近若い令嬢たちの間で流行りの総レースで、絨毯もふわふわ。調度品も可愛らしいものばかりだ。とてもじゃないが、セオドアが療養の為に使っているだけの館には似つかわしくなく、明らかに特別な女性の為の部屋に思えた。


 しかも、部屋のもののほとんどが真新しい。セオドアには妹がおり、アデラインも彼女を知っているが、彼女は機能美を好むからか可愛らしいものにはあまり興味がない。つまり、これはセオドアの妹の為ではなく、しかし彼の母が使うには少しばかり趣味が幼かった。その二人とは別の女性の為の部屋であるなら、アデラインが使うわけにはいかない。


 指先が冷えるような感覚を感じながら、アデラインはぎゅうと自身の手を握った。



『この部屋は、ただいま、アデライン様の為だけに整えたものでございます。ほかの方が使用したことはございません』

『……今?』

『はい、今、でございます』



 あまりにも淡々とそう答えるイライザに、アデラインは少し狼狽えた。たった三十分で、この部屋を整えたと主張するのはあまりにも無理がある。しかしセオドアにそう言えと指示されているのだったら、客人であるアデラインがこれ以上を追求するのはよくないだろう。それにきっと、その資格も持たない。けれどそれを理解した上で、アデラインはどうしても真実が知りたかった。



『でも、何というかその、女性の為のお部屋のように思うわ』

『はい、時間の関係で特注品をご用意はできませんでしたが、先程麓の店で買い付けて参りました』

『……ええと』



 この館はロイファー侯爵家が保有する避暑地で、ちょっとした山の上に建っている。麓には街があるがさっきアデラインが庭から見たその街は、往復で三十分はゆうにかかるだろう場所にあった。やはり無理がある。


 アデラインがぎゅうと眉間に皺を寄せるのを見て、イライザは一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに『ああ』と口を開いた。



『アデライン様、我々は多少の魔法が使えますので、三十分もあればこの程度のご用意であれば可能でございます』

『あ……!』

『もしご不安でしたら、店の明細をお見せいたしますが』

『……いいえ、その必要はありません。教えてくれてありがとう』



 そうだったと、アデラインは唇を噛んだ。恥ずかしくて、頬から火がでそうなくらいだった。転移魔法や運搬魔法はかなり一般的なもので、使える人も多い。魔力の消費だって、近場であれば少ないのだ。それこそ正式な魔法使いでなくとも、生活魔法というものを日常的に使う人もいるくらいだった。高位貴族の使用人として雇われる為に、そういう魔法を優先的に覚えている人も多い。


 学校に通っていた頃には、アデラインもそういう便利な魔法を様々な人が使っているところをよく見ていたのだ。けれど実家に戻ってからは魔法嫌いな両親の下、魔法を見る機会などなかったからすっかり忘れ去っていた。



『……いえ、あれ? 待ってください、イライザ。つまり、わたくしの為に調度品から何から新しく買い揃えたということ?』

『はい』

『いえ、はいではなく。……ああ、いいえ、貴方に言うことではありませんね。気にしないでください。素晴らしいお部屋をありがとう』

『勿体ないお言葉でございます』



 使用人が勝手に調度品を買い替えることなどあり得ない。それは主人の指示があったからこその行動だ。たった一ヶ月の滞在の為に散財をさせてしまった抗議も謝罪もイライザにするべきことではない。アデラインは努めて平静を装って、にこりと微笑んで見せた。



『では、アデライン様、こちらに』

『? 何です?』

『クローゼットの中の確認をしていただきたく』

『え?』



 イライザに促されて入ったクローゼット、というよりは支度部屋というべき小部屋の中でアデラインはまた絶句した。そしてその場でゆっくりと深呼吸をし、どうにかもう一度淑女らしく微笑むとセオドアの待つ部屋へ足早に戻った。



『セオドア様、あのお部屋のことですが』

『何だ、気に入らなかったのか』

『とても気に入りました、ありがとうございますっ』

『どういたしまして』

『そうではなくて!』

『何だ』

『何で買い替えとかしちゃうんですか!? ホスピタリティが過ぎます! その上にあんなにたくさんのお洋服まで!』

『ああ、靴と宝飾品が足りなかったか』

『違いますったら!』



 せっかく優雅に微笑んでいたのに、アデラインはとうとう我慢ができずセオドアを叱りつけた。大き過ぎるクローゼットの中に、大量の洋服がしまい込まれていたからだ。イライザの言葉を信じるのであれば、あれは全てアデラインの為にこの僅か三十分の間に購入されたものだった。



『あんなに買っていただいても、一ヶ月あったって全て着ることなんてできませんよ!』

『汚れた時用の着替えが必要だろう。転んで泥がつくかもしれないしな』

『わたくしのこと幼児か何かだと思ってます?』

『寝間着や乗馬着もある。必要なものだから買ったんだ』

『……ああ、もう』



 アデラインは指を額に当てて小さく首を振った。貴族にありがちなことだが、時に彼らの買い物は常識というものを逸脱することがある。学生時代もセオドアはこういうふうに買い物を失敗することがあったのに、どうしてそれを忘れていたのか。アデラインはそのことを深く後悔した。



『何だ、気に入らなかったのか? オートクチュールとなると、さすがに時間が足りなかったからな。とりあえずはあれで我慢してくれ』

『いいえ、気に入りましたし、我慢なんてとんでもないです。ただただ申し訳ないだけですわ……』

『そんなもの思うだけ無駄だぞ』



 からりと笑うセオドアに初日はこのまま言いくるめられて、アデラインは彼女用に整えられた部屋と大量の衣服を与えられた。しかし、アデラインは決意したのだ。もう二度と同じ轍は踏まないと。


―――


 セオドアが朝食後に眺めていた分厚い本は、女性ものの衣服や靴などが載ったカタログだった。あろうことかセオドアは、まだアデラインのものを買うつもりなのだ。



「靴が足りないだろう。衣服は多少適当でもあとでどうとでもなるが、靴は正しいサイズのものでなければ怪我をするからな。今日の午後には職人を呼ぶ」

「……セオドア様」

「何だ」

「必要ありません」

「駄目だ、俺が見たい」

「見たいって……」

「もう二ヶ月もこの館に押し込められているんだ。目だけでも慰めたいと思うのは当然だろう。折角服を一通り揃えたのに、同じ靴ばかりなんてつまらないからな」

「……わたくしで着せ替え人形しようとしてません?」

「まあ、そういうことだな」



 一向に譲る気配のないセオドアに、アデラインはため息を吐いた。セオドアが本気で着せ替え遊びをしたいだなんて、アデラインだって思ってはいない。これは、アデラインを遠慮させず納得させる為だけの嘘だ。


 アデラインはつんとそっぽを向いた。虚勢を張るにしては少々幼いポーズではあったが、咄嗟にこれ以外を思いつけなかったのだ。



「まったく、仕方がありませんね。置いていただいている身ですもの、許して差し上げますわ」

「ふ、その寛大な心に感謝しよう」

「ですが、セオドア様。限度というものがありましてね?」

「ほかに何か必要なもの……。ああ、宝飾品か」

「聞いてます? わたくしの言ってること聞こえてます?」

「ああ、聞いてる聞いてる」

「聞いてないやつです、それ!」



 堅物で真面目な常識人に見えるセオドアが、結構突拍子もないことをする人だとアデラインは知っている。学生時代、アデラインはそれに何度振り回されたことか。


 二人は一見すると、破天荒な後輩に付き合わされている真面目な先輩というふうであったのだが、それはまったくの反対であることが多かった。二人の共通の知り合いには『君たちはよくよく知ると、外見と中身が入れ替わっているように感じる時がある』などと言われたこともあるくらいだ。


 本当に学生の時と変わらないセオドアに、アデラインは小さく笑った。


―――


 アデラインがセオドアの館に来て三日目、彼女に与えられた広いクローゼットの中には衣服のほかに靴と宝飾品がぎっしりと詰め込まれた。アデラインの制止虚しく、セオドアは何十足もの靴とネックレスや指輪などの宝飾品を大量に買い揃えてしまった。


 昨日館にやって来ていた商人たちも初めのうちひどく調子よくセールストークをしていたが、注文品の数が膨れ上がっていくのをあんまりにもアデラインが一生懸命に止めるものだから最終的には彼女の味方になってくれたくらいだった。


 しかしとりあえずは、これで終わりだ。もう必要なものはないだろうと、アデラインはぎゅうぎゅう詰めになったクローゼットを眺めながら息を吐いた。


 あまりにも申し訳ないのだ。セオドアは結局どうあっても金品を受け取る気はないようで、であればアデラインに返せるものなどない。その上に『話相手をしろ』なんて分かりやすい言い訳を作って、アデラインを保護までしてくれた。確かにセオドアは金には困っていないのだろう。けれど、やはりセオドアにとって何も価値あるものを持たないアデラインが、彼に対してできる恩返しなど一つもなかった。


 ただの友人の妹、そしてただの後輩。それがセオドアにとってのアデラインだ。それは昔も今も、そして未来でも変わらないことで、その程度のアデラインが、ここまでの世話を受けていることが心苦しい。


 そんなアデラインの苦悩を知ってか知らずか、セオドアは朝食後に彼女に向かってこう言い放った。



「アデライン、登りに行くぞ」

「何でその少なすぎる情報でわたくしが“はい”と言うと思ったのか、お聞きしてもいいです?」

「どうせ暇だろう、行くぞ」

「あ、ちょっと、もう! 待ってくださいよ!」



 セオドアは、『行くぞ』と言ったら行くのだ。そう言った彼について行かないということはあり得ない。いや、あり得ていいのだが、学生時代から染みついた習性のようなもので、アデラインはどうにもセオドアの『行くぞ』を断れなかった。


 あの頃は、食堂に図書館に街に祭りに、セオドアが『行くぞ』と言うのでアデラインはそんな彼について回っていた。実際、セオドアにもアデラインにも別に友人はおり、学年も別だったのだからずっと一緒に行動していたわけではない。それでもセオドアからの『行くぞ』は、アデラインの耳から離れないのだ。



「で、どこに行くんです?」



 セオドアが行くのを追いかけながら、アデラインは後ろからそう聞いた。場所が学舎でないだけで、これも昔と変わらないことだ。後ろから付いて来たアデラインにそうして聞かれてやっと、セオドアが行き先を答えるのも同じだった。



「この山の上だ。少し開けたところがあって、見晴らしがいい」

「山道を……?」



 アデラインは若干うんざりした声色で、自身の服装を確認した。とてもではないが、山道を登っていけるような恰好ではない。昨日買ってもらったばかりの靴もヒールはなく履きやすいものだったが、それでも山道には適さないだろう。


 開けて見晴らしのいい場所というものには興味があるが、さすがに今回は断らねばとアデラインが口を開く前に、セオドアがやっと彼女を振り返った。



「階段を作ったから山道ではないな。そんなに長い階段ではないが、不安ならおぶっていってやろうか?」



 人を小馬鹿にするようなその言動に、アデラインは素直に憤った。騎士系貴族の子どもにしては体力がないアデラインであるが、それでも多少の階段を上れないことなんてない。



「二ヶ月前にお腹に穴開けた人が何言ってるんですか。階段なら歩けます」

「君もしつこいな。もう傷は治ったと言っただろう」

「それでもです!」



 そう啖呵を切ったアデラインは、その木と土でできた階段を見た瞬間にもう後悔をした。セオドアは『そんなに長くない』と言ったが、アデラインにとっては十分に長い階段だった。階段は途中で折り返しているので下からは全長が分からないが、少なくとも建物の三階以上はあるだろう。


 もう既に止めたい。アデラインはそう思いつつも、スカートを持ちながら一生懸命に階段を上がった。一度上ると言ったのだ、もう後戻りはできない。



「はあ、ぜえ、はあ……っ。まだなんですか。その、開けたところっていうのは……」



 上り始めて十分程したあたりで、アデラインは弱音を吐いた。肩で息をしながら、顔も上げられない。一方、セオドアは息の一つも乱してないのだ。怪我人の癖に、とアデラインは心の中で悪態を吐いた。



「もう見えている。……運動不足にも程があるな」

「くっ、言い返せない……!」

「ほら」



 何でもないように差し出された手を、アデラインは一瞬だけ躊躇ってから取った。そう、これは別に不自然なことではない。学生時代、今よりも背丈が低く華奢だったアデラインは、よく手を引かれて歩いていた。そうしなければ置いていかれてしまうから。兄や姉にもよくされたことで、特別な意味はない。しいて言うならば介助のようなものだ。



「うぅ、怪我人に引っ張ってもらうなんて……。でももう無理です、お願いします……!」

「初めから素直にしていればいいものを」

「人には譲れないものというものがありましてね」



 ぐいぐいと引っ張られながら、アデラインはなんとか階段を上り切った。そこは確かに見晴らしがよく、麓の街が一望できる上に細い小川が流れていてぽつぽつと花が咲いている美しい場所だ。休憩用なのか、大きめの東屋もあった。



「わあ、いい眺めですね」



 館からも街は一部見えていたが、この場からだと全体が見ることができた。麓の街は色とりどりの上質な煉瓦を作ることで有名で、街の建物はとても色彩豊かだ。小さく見える街はどこか玩具のようで可愛らしい。


 先程までの苦労を忘れ、アデラインは素直に喜んだ。



「そうだろう。リハビリがてら、ここにはよく来るがそれでも飽きない」

「ふふ、でしょうね。頑張ったかいがありました」

「あと二週間程で、あの辺りに植えてある花が一斉に咲くそうだ」

「どの辺りです?」

「あっちだ」



 セオドアが繋がったままの手で花が咲くという方向を示すので、アデラインはそこでまだ手を繋いでいたことを思い出した。口をきゅっと閉じ、できるだけ平静を保とうとしたがその花の話には集中できなかった。



「あの、手、もういいんですが」

「……別に、まだいいだろう。アデラインが転ぶかもしれないしな」

「転びません!」

「いや、転ぶだろう」

「いつの話をなさってるんです?」



 二人は意地になって睨み合ったが、先に息を吐いたのはアデラインだった。大体のことは、アデラインが折れる。これもいつものことだった。どうしてこうなったのかはもう覚えてもいない。けれど学生時代は二人はいつもこんなふうに過ごしていた。



「……でも、そうですね。まだ、いいかもしれないですね」

「そうだろう、アデラインが転ぶからな」

「何回言うんですか、それ」

「ふ、はは、どうだろうな」



 そうセオドアが笑うので、アデラインもつられて笑った。


 二人は手を繋いだままで小川の中の小さな魚を眺めたり、花を見たりと高台を見てまわった。そうしているといつの間にか使用人たちが東屋に食事の用意をしてくれていて、そのまま外で昼食をとることになった。



「はー、風が気持ちいいですね。こんな場所でお昼ご飯だなんて、なんて贅沢な」



 白い石でできた東屋は丁寧に整備されており、細工も美しい。たまにそよそよと吹く風と小さい鳥の鳴き声があんまりにも心地よくて、アデラインはサンドイッチを片手にもう眠ってしまいそうだった。



「この程度で贅沢と言われても困るんだが」

「この程度とか言いやがりましたね」

「『やがり』を取れ『やがり』を。どこで覚えたんだ、そんな言葉」

「貴方たちだと思うんですよね……」



 アデラインは、兄とセオドアの部活にもよく連れて行かれていた。運動部には何かと手伝いが必要なこともあるのだ。


 セオドアたちは馬術部と剣術部の両方に参加していたが、どうしても男女比が偏るからか貴族学院とはいえ粗野な言葉を使いだす者も少なくない。アデラインが手伝いに行っている最中は比較的に大人しめだったとはいえ、彼女がそこでスラングというものを知ったのも事実だ。



「教育によくない、忘れなさい」

「ふふ、兄様と二人して、都合が悪くなるとすぐにそう言うんですから。わたくしももう二十歳ですよ、先輩」

「関係ない」

「んふふ、はぁい」



 気持ちのいい天気、美しい景色、美味しい料理に、目の前には学生時代の大切な友人。夢みたいに幸せな空間で、アデラインはくすくすと笑った。学生時代のあの頃よりも短い有限の幸福だけれど、もうここまでくればこれを楽しんでしまおうとアデラインは小さく頷いた。


 きっとアデラインからの返礼は貰ってもらえないだろうことを、この三日で彼女は理解した。セオドアがそういう人だったというのを思い出しただけである。仕方がないので、この件は迷惑ついでに兄に頼もう。きっと兄は許してくれる、そして自分はこの一ヶ月を満喫するのだ。


 アデラインが静かにそう決意して紅茶を口に含むのを同じく別の決意をしたセオドアがじっと見ていたが、彼女はそれに気付かなかった。



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