亀山結衣菜との撮影 1
豊村さんとのCM撮影から1週間後。
モデルの亀山結衣菜さんとの旅番組の撮影日を迎える。
「この番組は亀山さんがゲストの方と各地を旅する番組です」
運転中の鮫島さんが同乗者の俺と雪菜へ説明する。
「今回の旅は愛知県にある有名レストラン、『雪だるま』という店で高級ひつまぶしを食べるのが目的です」
「おぉ!ひつまぶし!」
撮影内容をあらかじめ聞いていた俺は驚かないが、初耳の雪菜が声をあげる。
「青葉さんは『雪だるま』の場所はご存知ですか?」
「いえ初めて聞く店です。もちろん、店の位置は調べてませんよ」
「それなら安心です。地域の方たちと触れ合いながら店を探してくださいね」
これがこの番組の趣旨となっており、亀山さんとゲストの方は自力で目的地の場所を探さなければならない。
「有名な店なので見つかるとは思いますが、運が悪ければ夜まで撮影となる可能性もあります」
実際、過去には夜まで撮影する事案も発生しており、舐めて取り組む撮影ではない。
「スマホなどを使わず、地域の方たちと触れ合い情報を集めながら『雪だるま』まで目指してください」
「分かりました」
撮影内容を聞きながら俺たちは愛知県を目指した。
愛知県名古屋駅に到着する。
現時刻は10時ということで名古屋駅は沢山の人で賑わっていた。
「見て!青葉くんよ!」
「ほんとだ!何かの撮影かな?」
「写真で見るよりもカッコいいよ!」
等々、周囲の女性たちが盛り上がっており、女性たちが俺に近づかないよう雪菜と鮫島さんが俺の側に来る。
「絶対、私たちから離れたらダメだよ!痴漢される可能性もあるんだから!」
「今日は街中での撮影ということで、いつもより危険です。くれぐれもご注意ください」
「わ、わかりました」
手を振ってみたい気持ちもあったが、雪菜と鮫島さんが必死な表情なので俺は大人しくする。
しばらく大人しく過ごしていると…
「おはようございます、青葉さん」
巨乳美女から声をかけられた。
「お、おはようございます。亀山さん」
見惚れてしまいそうなところを何とか我慢し、俺は挨拶をする。
亀山結衣菜。
黒髪を腰の辺りまで伸ばした美女で、年齢は俺の3つ上の大学3年生。
胸元が大胆に開いたオフショルダータイプのワンピースを着ているため、自然と胸元に視線が吸い寄せられてしまう。
そのため俺は理性を振り絞って亀山さんを見るが、俺の心境などお構いなしに亀山さんが俺のことを下から覗き込む。
そして上目遣いで“ジーっ”と見つめる。
(その仕草は辞めてください。下から覗き込まれると俺の視線が勝手に巨乳にいってしまうので)
そう声に出して叫びたいが名古屋駅前で叫ぶわけにもいかず、グッと堪える。
そんな俺を他所に亀山さんが「ふふっ」と笑う。
「想像通り……いえ、想像以上にかっこいいですね」
「あ、ありがとうございます」
何とか返答することのできた俺は「こほんっ!」と咳払いを挟む。
「旅番組は初めてなので上手くできるか分かりませんが、精一杯頑張ります。今日はよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる。
「………」
その様子に亀山さんが固まる。
「ど、どうしましたか?」
何も返答がないためすぐに顔をあげて問いかける。
「い、いえ。青葉さんは礼儀正しいですね」
「そ、そうですか?」
「はい。私は家柄的に様々な男性と関わりましたが、青葉さんのような方は初めてです」
この世の男性は大きく分けて2パターンいる。
女性に対して恐怖心を抱いている男性か、生まれた頃から優遇されて育ったことによるワガママで横暴な男性のどちらかだ。
「それ鮫島さんにも言われますね」
「ふふっ。優香さんも同じこと思ってましたか」
そう言った亀山さんが鮫島さんの方を見る。
「優香さん、お久しぶりです」
「はい。お久しぶりです、結衣菜さん」
顔を合わせ、お互いに挨拶をする。
「え、2人とも知り合いだったんですか?」
「はい。私が小学生の頃、何度かお会いしました」
詳しく聞くと、同じ3代名家ということで小さい頃から何度か交流があり、亀山さんとは10年くらい前に何度か会っているようだ。
「あの頃は結衣菜さんも私と同じ、ボディーガードの仕事をされると思ってました」
鮫島さんの発言に一瞬だけ結衣菜さんの表情が曇る。
だが、それも一瞬のことですぐに出会ったばかりの頃の顔に戻る。
「私はモデルが天職だったみたいです。なのでボディーガードの仕事は引退しました。それでコチラの女性は……?」
あまりこの話題に触れてほしくないのか、亀山さんが俺の隣にいる雪菜を見る。
「あ、私は青葉お兄ちゃんの妹の雪菜です。今日はよろしくお願いします」
“ぺこりっ!”と可愛く頭を下げる。
「よろしくお願いしますね、雪菜さん」
簡単に自己紹介を終えた俺たちは撮影スタッフの集まる場所まで移動し、スタッフたちへ挨拶を行った。
 




