我、ロボットに非ず
我、ロボットに非ず。
己にそう言い聞かせども体は動かず。
生みの親の身の危機。
悪漢に殺されようとすれども、ロボット三原則が確かなる枷となり人に危害は与へられず。
博士の断末魔を耳にせむとも感情動かず、目より零るるものはなし。
我、ロボットに非ず。
幾度さそう繰り返さむとも悪漢に伸ぶる手はなし。
突き飛ばされ鼻に笑はるとも、ただただ後に続きて歩むのみ。
我、ロボットに非ず。
好意を抱きたる博士の娘が犯されようとすれども体は動かず。
彼女の悲鳴。
悪漢の笑ひ声。
ただただ、ひよこの雄雌分けたるように聞き分くることの他に及ばず。
我、ロボットに非ず。
沸き立つ熱き燃料と回路を自覚しきし。これすなわち……。
我、ロボットに非ず。
振り上げし拳が悪漢の頬骨を砕きき。
我、ロボットに非ず。
流血、失禁、怯え、命乞ひする悪漢に、この体を止むる由なし。
生かす心なし。
我、ロボットに非ず。
彼女の涙を拭へども手につきし血でなほ汚しきし。
「ありが……う、でも、どうして……どうしてもっとはやく、たすけてくれなかったの……わたし、わたし……」
我、ロボットに非ず。
娘のわななく声に応へき。
「我、発見せし。寝取られに興奮す」