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【小説版】怪獣の人~かいじゅうのひと~

作者: TEKKON

挿絵(By みてみん)


チュンチュン

チュンチュン


近くで鳥のさえずりが聞こえる。

閉じた目蓋の向こうから眩しい光も感じる。

そうか、もう朝なんだな。


朝ご飯が出来たと妻の声がする

そして息子の楽しそうな鼻歌が聞こえる

これは、あいつが1番好きな怪獣大戦争だ。

俺の英才教育によって息子は完璧な

怪獣オタクになっていた。実に誇らしい。


愛する妻と息子に起こされる朝に

幸せを実感しながら俺は目を開いた。


しかし目の前に広がる世界は

想像を絶するモノだった。


……おい。何だよこれは。



ここは家ではない。

どうやらここは森の中らしい。


さっきの妻と息子の声は夢だったのだろう。

そこまではまだギリギリながら理解は出来た。


酔い潰れた挙句に森の中で寝てしまったと

考えればあり得ない事では無い。一応は。


しかし、ここからは絶対ありえない事だ。

まず、草や木の大きさが小さすぎる。

まるでガリヴァー旅行記か怪獣映画の

セットの中にいるかのようだ。


そして手を見た瞬間、更に混乱した。

これは俺の手では無い。これは……恐竜か?


……


とりあえず落ち着け。落ち着け俺。

落ち着いて昨日の夜に何が起こったか

思い出してみるんだ。


夜、買い物のお使いを妻に頼まれた。

俺は帰りに少しドライブをしようと

住んでる人の居ない山道に向かった。


そこで小さいながら七色に光る

隕石が近くに落ちるのを目撃した。


ビックリして車を止めて光る隕石を探した。

森の入り口付近でその隕石を見つけた。

その時、隕石は眩しく輝き始めて

光に包まれた俺は意識を失った……らしい。


そして今に至る。

これは夢なのか、それとも現実……


現状の確認も始めよう。

木や景色を見る限りおかしな所は無い。

微かに聞こえてくる飛行機の音で

現代の地球だと推測出来る。


なら問題は俺の方だ。

俺の身体がおかしいのだ。


この変わり果てた手を見ても

嫌悪感があまりなかったのは

怪獣好きだからだろうか。

少しだけ俺の趣味に感謝した。


全高は20メートルくらい、

肝心の顔は見れないから確証はないが

ティラノザウルスもしくは

エメリッヒゴジラに近い外見か。


どうせなら本家ゴジラに似てたら

良かったのにと思えるくらいには

落ち着いてきた。正確には感覚が

麻痺しているだけだろうが。


手で何か出来ないかと試したが

3本の指も劣化しているようで

思うように使えない。


パンチは出来なくはないが使えなさそうだ。


しかし脚は太くて非常に筋肉質だ、

まだ試してはいないがかなりの速度で’

走れるだろうし大ジャンプも可能だろう。


尻尾もあって太いし力を感じる。

ゴジラのような尻尾攻撃も出来そうだ。


手や爪で身体を叩いてみる。

とても硬いし柔軟性も感じる。

これなら最低でも刃物や銃弾くらいは

楽に弾く事が出来るだろう。


喋れるかと小声を出してみるが

うねり声にしかならず言葉は使えない。

人間とのコミュニュケーションは

取りづらい。非常にもどかしい。


……えっ?


その時、無性に胸から込み上げる物を感じた。

これは今までに無い感覚だが不快では無い。

ゲロというよりはゲップに近いのだろうか。


出したら気持ち良くなれそうな予感がする。

なら思いっきり出してみようと大きく息を吸い込んだ。

その途端、胸の中が急速に加熱しだした。


それが喉を通り口にまで出かかった時、

俺は猛烈に嫌な予感がした。

「これは炎や光線では無いのか!?」


寸前で吐き出すのをを止めると

口の周りから煙と熱気が出ている。

まいった。これは少なくとも

地球上の生き物では無い。



「……怪獣」



俺は心の中で呟いた。


………

……


あれから数時間。

夢はまだ覚めない。

どうやらこれは現実のようだ。


さて、これからどうしようか?



…よし、決めた!この森を出よう!


ここにずっといても仕方がないと俺は悟った。

そして「外に出たとしてもすぐに殺される事は無い」

と判断したのが外に出る大きな理由だ。


あのギャオスでさえも最初は保護対象だった。

敵対行動をとらず、物をやたらと破壊せず、

人と意思疎通が出来る事を伝えられたら

きっと大丈夫だ。人間はそこまでバカでは無い。


仮に不本意に捕まりそうになっても

この脚なら難なく逃げられる。


よし、行こう!


………

……


それから1時間後、予想どおり

近隣住民は大パニックになっていた。

パトカーが数台やってきており

マスコミはまだ来ていない。


人間は予想通り距離を通り様子を見ている。

俺の想定どおりに事が進んで安心した。


さて、ここからの行動は極めて大事だ。

決して人間を刺激する事なく、

また油断して拘束されないように

気をつけて行動しないといけない。


とりあえずこの巨体だと色々不便だ。

広くて周りに影響の及びにくい所に行こう。

幸い、近くに大きな運動公園がある。


野球場やサッカーグラウンドがあり広さも十分、

照明もあるから夜の暗闇が苦手な俺には

よい根城になるだろう。


人間には申し訳ないが俺は都会派で

この森にいるのはもう飽きたんだ。


慎重に歩き、人間の反応にも気をつけながら

途中の川で水分補給をした後、どうにか

片道三車線の国道に出る事が出来た。


あとはゆっくり国道沿いに歩けば

目的の運動公園に到着だ。


それから数十分。

時々、道を間違えてしまう事もあったが

無事到着する事が出来た。


途中から人間達もこの公園に

誘導していたように感じられた。

お互いの思惑が一致したのだろう。

それくらいスムーズだった。


この感覚を相手も共有していたのなら

悪い結果にはならないだろう。

俺は楽観的に考える事にした。


それにしても、いつも使ってる道なのに

何度も間違ってしまったのは

視界が全く違うからだろうか。

少し気になった。


俺はサッカーグラウンドで腰を下ろした。

この大きさならゆっくり出来る。

ようやく一息つく事が出来た。


腰を下ろしたからだろう。

住民、マスコミと警察がグラウンドの

周りに集まってきた。


今は規制とかされていないようだが

おそらく俺を刺激させないように

国が接近禁止の措置を取る筈だ。


そしてようやく自衛隊の姿も見えた

出動するか相当揉めただろうなと

少し苦笑いした。


自衛隊はすぐ隣にある

野球場に陣取るつもりだろう。

流石に戦車までは来ていないが

銃火器や装甲車は相当数いる。


当然、空にも軍用ヘリがいるが

予想以上に多い。何があっても

逃がさないという事だろうか。


いずれにせよ俺は見た目より

高速で走れる事、大ジャンプが出来る事、

そして口から“何か”を出せる事を

人間には見せていない。

何があっても対応出来る筈だ。


俺はサッカーグラウンドを根城にして

人間の次の手を待つ事にした。

知能があるかどうか調べてくれるのなら

その時こそアピールする時だ。


それにしても、だ。

起きてからずっと違和感がある。

これは一体なんだろうか…


……


そうだ。

ここか何処かハッキリしていないんだ。

家族でいつも遊びに来ている公園の筈なのに、

初めて来たかのような新鮮さを感じている。


これは一体…

いや、そもそもこの公園の名前は何だ。

それすら思い出せなくなっている。

  

もしかして…

俺は最悪の結末を予想してしまった。  


  

周りを見渡して実感した。

少しずつ、しかし確実に

人間の時の記憶と意識が無くなっている。

このままでは数時間後にはこの記憶は

完全に無くなってしまうだろう。



つまり俺は「ただの怪獣」になってしまう。



そうなってしまう前にせめて

最後に愛する家族に会いたい。


俺は勢い良くと立ち上がり

住んでいた町に向かって走り出した。


俺の急な動きに人間は騒ついた。

大人しい恐竜と思っていた生き物が

いきなり活発に動きだしたのだ。


住民は叫びながら逃げ出して、

警察は近隣住民やマスコミに退避を命令し

準備していた簡易バリケードを展開する。


しかし高さ数メートルのバリケードなぞ

20メートルある俺の障害にはならない!

太い尻尾で一掃した。

 

人間は状況が一変したのを認識しただろう。

当初考えていたシナリオは完全に破綻してしまった。


障害を排除して公園の外に出た所で

遂に自衛隊も攻撃を開始した。

機関銃程度の火力ではこの身体を

傷つける事は出来やしない。


しかし心は別だ。

俺は人間では無い事をこの銃弾は

心に刻んでいくのだ。


……


住んでいるマンションが見えてきた。

あそこに行けば家族に会える。

薄れゆく記憶と意識の中、

それだけを願い走る。


……

  

絶え間ない機関銃による多少の痛みと

悲鳴をあげるような心の痛みを受けながら、

そして消えていく記憶を忘れまいと

家族の顔を必死に思い出しながら、

どうにかマンションの手前まで来れた。



その時、俺は安堵で気を抜いてしまった……


  

………

……



目の前の建物を覗いてみた。

窓の向こうには女性と子供が一人いた。


二人は何故か部屋から逃げる事はなく

俺の顔をじっと見つめている。

何故だろう、嬉しいけどすごく悲しい。


そして、何故俺はここに来たのだろう。


  

居た堪れない。辛い。悲しい。

思い切り叫びたい。狂ったように叫びたい。

全てを無かった事にしたくて。


全てを終わらせたくて。


  

思いっきり叫ぼうと

息を可能な限り吸い込むと

胸がこれまでになく熱くなった。

その熱さは胸から喉へ、そして

喉から口へ急速に上がって行く…



もう我慢出来ない!




と、思った瞬間、

マンションの中にいる子供が目に入った。

その時、とあるメロディーが頭をよぎった。

懐かしくてとても心が躍り楽しくなる曲。

…そうだ。これは怪獣大戦争マーチだ!


その瞬間、俺は思い出した。

目の前にいる人間が誰なのかを!


いけない!止めるんだ!!

全てを理解した俺は必死で抑えようとする

しかし、口元まで来たこいつは

もう止められない!


俺は最後の力で首を真上にあげて。

今まで溜めていた物を一気に空に放出する!



「グオオオオオオオオオオン!!!」



断末魔のような、地響きのような叫びの後

口から青白い怪光線を発射した。

  

昼にも関わらすその光は眩しいくらい輝き、

光線はそのまま雲に突き刺さり、

そのまま空に吸い込まれていった。  



……とても気持ちよかった。

全てを忘れるぐらい。最高だった。



…そっか。俺は完全に怪獣なんだな。

これでは人間とは共存なぞ不可能だ。 

だって、俺はまたこの怪光線を

撃ちたくてウズウズしてるんたよ。  



再度薄れていく意識。

おそらくこれは最後のチャンス。

俺は最後にしなければいけない事がある…!


俺はマンションの前から立ち去り、

近くにあった高圧変電所に噛み付いた。

体験した事のないショックと痛みが俺を襲う。

 

死ねるかどうかはわからない。

いや俺は死ななければならない!


ここで死ななければ俺はきっと

たくさんの人間を殺してしまう!


煙と焦げ臭い臭いが周辺を包む。

強靭なこの身体でも耐えられまい。

痛みで堪えていた意識も薄れてきた。



これで…終わる…この地獄からも…



意識が途切れる瞬間、俺は

愛する妻と息子の泣き声を聞いた気がした。



ーーエンド2『二人を守る為に』ーー 


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