第一章4 仲間を探して
次の日の朝、カテリナは冒険者用ゲートの前でログインしてくるプレイヤーに片っ端から声をかけ、ヒーラーとハンターを探した。何やらチラシも配っていた。内容はこうだ。
〈こんにちは!ヒーラーとハンターを探しています!モンスター討伐は基本的に私の奴隷が行います。報酬も奴隷以外の3人で山分けよ!ただし条件が色々とあります。詳しくは私のIDまで!〉
この癖の強いチラシを読んで一体誰がこのパーティに入ろうと思うだろうか。誰がどう見ても地雷パーティだ。しかもリーダーは一日中ログインしっぱなしのゲーム廃人。その奴隷はゲームの住人ときてる。こんな俺らに付き合ってくれるのは、世捨て人か、精神異常者か、幽霊の類か何かだろう。
そう思っていたのも束の間、カテリナは驚くべきことに仲間候補を二人連れてきた。
一人は金髪のつややかな髪が胸元まで伸び、おっとりした優しい顔立ちの、身長160cmくらいのかわいらしい少女で、名前はマリーといった。彼女は聖職者ヒーラーで修道女の恰好をしており、頭には黒のベールを被り、服は丈が短い白と黒のワンピースを着ていた。首には十字架のアミュレットを下げていた。そして特筆すべきはその背中に背負っている身の丈ほどもある巨大な鉄製の十字架だろう。これは武器だろうか?数百キロはありそうなものだが、この細身の少女はそれを平然と背負っていた。
もう一人はアッシュグレー色のショートボブヘアーと、知的でクールビューティーな顔立ちが印象的な身長155cmくらいの少女で、名前はユイといった。彼女はハンターという名の通り、ぴちっとした緑の狩人装備と革製のグローブとブーツを身に着け、スカートの丈は短めで、ニーズハイソックスを履いていた。腰には刀を収めた鞘を下げており、背中には弓と矢筒を背負っていた。
「カズキ!見つけてきたわよ。ヒーラーとハンター!」
カテリナはニコニコして言った。マリーは少しもじもじしており、ユイは無表情だった。どうやら二人は強引に連れてこられた様子だ。
「それじゃさっそく、宿屋の食堂で面接をしまぁす!」
面接!?強引に連れてきておいて何で上から目線なんだこいつは。
四人は宿屋の食堂の一番奥のテーブルに座り、面接が始まった。カズキとカテリナが隣り合って座り、マリーとユイが対面する形だ。
「二人とも、よく来てくれたわね!さっそく本題に入るけど、私たち一緒に魔王城に行ってくれるヒーラーとハンターを探しているの。ここまではさっき話したわね。」
カテリナが連れてきたのに「よく来てくれたわね!」という切り出し方はおかしいぞ、と心の中でツッコミを入れつつ、カズキはスルーして聞いていた。
「そして、パーティ入隊にあたって条件が四つあります!一、他のパーティとの兼務は禁止。二、朝九時から夜九時まではログアウトせず行動を共にすること。三、食事の時間は必ず四人同時にとること。四、コスプレが好きなこと。以上よ!」
終わった。特に二つ目が鬼畜すぎる。そんな条件夏休み中の小学生かヒキニートくらいしか了承しないぞ・・・。
「えーっと、分かりましたぁ!よろしくお願いしまぁす。」
「分かった。よろしく。」
マリーとユイはあっさりオーケーした。
「えーーーっ!?」
カズキは思わず大声をあげて立ち上がった。食堂にいた人々が一斉にカズキの方を見た。カズキは恥ずかしくなり、すみませんと言って腰を下ろした。人々はまたぺちゃくちゃとしゃべりだした。
「ちょっとうるさいわよ!大事な面接中なんだから静かにしてなさい!全くこれだから男ってやつは!」
一体何が起きている?三人の若い少女たちが一日中ゲームの世界に入り浸るなんてことがあっていいのか?
と、ここでカズキは一つの可能性を見出した。つまり、この二人はネカマなのではないか?実は中身は四十歳くらいのヒキニートのオッサンで、女の子プレイを楽しんでいるだけなのでは?そう考えると、一日中このゲームに入り浸れるのも、コスプレが好きというのも納得がいく。
カズキはこの二人がネカマかどうかをすぐに確かめたい衝動にかられた。そしていい方法を思いついた。俺が今からこの二人のパンツを覗く。もしこの二人がネカマであれば、何も反応しないか、面白がって笑うかのどちらかだろう。反対にもしこの二人の中の人が本物の女の子であったならば、恥ずかしさにパンツを隠し、怒ったり、蔑んだり、まあとにかく負の感情が全開に現れるだろう。本物だったらマズイことになるが、やるしかない。
カズキは体をスッとテーブルの下に隠し、正座をした。そして二人のスカートの中を覗いた。
(見えたッ!!!)
マリーのパンツは真紅のごとき赤であった。こんなおとなしい顔して何てものを履いてやがる!聖職者が赤い下着を身に着けているというその事実だけでも興奮するぜ。そしてユイの方は・・・チェック柄だっ!こっちもいい!そのクールな容姿には幾何学模様がよく似合うぜ。
と、二人がカズキの目的に気づいたらしく、「きゃあっ!」と言って手でパンツを隠した。ほう、そう来るか。この反応は女の子っぽいな。さて怒られるかな、罵倒されるかな、見るもんは見た。報いは受けよう。
などと考えていると急にテーブルがふわっと浮いた。魔法か?いや違う、マリーが片手でテーブルを持ち上げていた。そして正座をするカズキの姿が三人の目に晒された。カテリナは軽蔑の表情を浮かべ、マリーとユイは顔を赤くしてゴキブリを見るような目でカズキを見ていた。
「カズキ君・・・何を、やってるのかな?」
マリーが笑顔で尋ねた。
「えっと、パンツを拝見していました。」
「そう。」
するとマリーはテーブルを脇にドンと置き、カズキの胸倉をつかんで宿屋の外に引きずり出した。
「あなたには邪悪な色欲の悪魔が憑りついています。ですから私がその悪魔を祓って差し上げましょう。」
そう言ってマリーは背中に背負っていた巨大な十字架を片手で持った。取っ手がついており、片手武器であることが判明した。
いや、確かに悪魔はいるけども、というか俺自身魔王だけども、そんなので殴られたら悪魔と一緒に魂まで祓われてしまうよ。
「ちょっ、マリー、落ち着k・・・」
「悪霊退散!」
ドーーーン!!!
「ぎゃあああああ!!!」
こうしてカズキは神の鉄槌を受け、清められた。それを見ていたカテリナはため息をついた。
「ほんと、バカ!」
何はともあれ、こうして無事、パーティメンバーがそろった。