第一章3 魔王、奴隷になる
そんなこんなで、カズキはカテリナの奴隷になった。カズキは朝から晩まで働かされた。モンスター討伐クエストで金稼ぎ、買い物の荷物持ち、部屋の掃除、洗濯、足裏マッサージなど、何から何までやらされた。
そもそもこのカテリナという女は、このゲームが発売されてからというもの、一度もダンジョン攻略などしたことがなく、毎日ログインしては店に行って服を買ったり、アクセサリーを作ったり、部屋を飾ったりしているのだった。
しかし不思議だ。カテリナは戦闘を面倒くさがり、クエストを全くこなしていないのに、これまでどうやってこんな贅沢ができていたのか。
カズキは、カテリナに聞いてみた。
「なあお前、今までどうやって金稼いできたんだ?」
「そうねぇ、普通の回復薬をすごい回復薬だって嘘ををついて初心者に倍の値段で売りつけたり、色仕掛けで男の子に貢がせたりかしら。」
(こいつ最低だッ!)
そんな感じで、カテリナははじまりの村から一歩も出ずに宿屋の一室を借りて留まっていた。カズマもとりあえずはカテリナの部屋の向かいに部屋を借りることにした。
こんな生活をしているといつの間にか一週間が経った。
カテリナは相変わらず部屋でごろごろしており、カズキはいつものようにカテリナの部屋を掃除していた。
一つ奇妙なことがある。このカテリナという女は普通のプレイヤーのはずだ。ここの世界の住人であるカズキと違い、現実世界での生活があるはずだが、毎日ほぼ一日中ログインしている。この女は一体いつ学校に行ったり、友達と遊んだりしているのだろう。不思議だ。引きこもりなのか?
このゲームにはポーズ中でもキャラに固定アクションをさせたり、固定コメントを言わせたりする機能がある。そのため、一見しただけではそのキャラがポーズ中なのか、そうでないのか見分けがつかない。
今、カテリナはベッドに寝転んでゲーム内で配られているファッション誌を読んでいる。見たところ、ぼーっと眺めているだけのようだ。
「今日はいい天気だな。」
カズキはカテリナに声をかけた。しかし、返事は無い。
この時、カズキにこんな考えが浮かんだ。もし、カテリナが今ポーズ中で、現実世界で何か別なことをしているとすれば、つまり、俺は今こいつのパンツを見放題だ。
「いやぁ、今日は本当にいい天気だな!」
もう一度声をかけたが、やはり返事はない。間違いない。ポーズ中だ。
カズキはしゃがんで床を雑巾でふくフリをしながら、カテリナのパンツが見えそうな方向に移動した。そしておそるおそる顔を上げた。
(見えたッ!!!)
スカートの中には純白の布が眩しいほどに輝いていた。カズキは少しずつ近づきながら、その輝きを貪るように見た。
「そうね。」
突然、カテリナが答えた。無論、答えた相手は先ほど話かけたカズキである。何だこの時間差・・・。
カズキは音もなく素早く立ち上がり、窓を拭くふりをした。危なかった。もう少し近づいていたらバレていたぞ。この女、やはり侮れん。
「な、なあ、そろそろこの村を出て冒険に出てみないか?もうこんな生活飽きただろ。」
「いやよ、めんどくさいもの。」
あっさり断られた。まあ分かってはいたが。
するとカテリナはファッション誌のあるページに目を留めた。そしてガバッと飛び起きた。
「ねえカズキ!この装備ハロウィンコスプレにぴったりじゃない?」
そう言って見せてきたファッション誌のページには小悪魔装備と書かれた露出度高めの装備が載っていた。はて、どこかで見たような・・・。
「ああ、そうだな。」
「私これ欲しいわ!どこにあるのかしら。」
そう言ってカテリナはページを読み込み始めた。
「魔王城へ行き、第2階層にいるベルフェゴールを倒すとゲットできる、だって。魔王城ってどこよ~。」
「マジで!?」
「え、知ってるの?」
カズキはハッとして我に返った。危ない危ない。うっかり口を滑らせるところだった。
「い、いや、何も知らん。」
「私決めたわ。この装備を手に入れに行くわよ!」
「えっ!?」
カズキはびっくりしすぎて変な声を出してしまった。あんなに冒険を嫌がっていたカテリナが、ハロウィンコスプレ衣装のために村を飛び出そうというのだ。
「ち、ちょっと待て!そこには強い奴がいっぱいいると思うぞ。今のお前じゃとても・・・。」
「そんなの、アンタが倒しなさいよ!アンタ私の奴隷でしょ?」
「えーーーっ!」
なんてこった。よりによって一番行きたくない所に行くことになるとは。
「決まりね!でもちょっと待って。アンタと二人で旅をするのは少し心もとないわね。強力な仲間が必要よ!」
「はあ。」
「私はマジックキャスターだから遠距離攻撃が得意よ。アンタはナイトだから前衛ね。となると、ヒーラーとハンターが必要ね。」
「ヒーラーは分かるけど、ハンターって?」
「状況に応じて近接・遠距離を使い分けるバランス型よ。ガチガチに役割を固めたパーティより、こういうなんでも屋さんが一人いた方が、パーティの安定度はグンと増すわ。」
なるほど、確かに一理ある。だがこいつが言うと何かムカつく。お前はどうせ危険がない安全地帯からチマチマ魔法を飛ばすだけじゃないか。モンスターが出たら一目散に逃げるタイプだ。
「それで、そのヒーラーとハンターはどうやって探すんだ?」
「そんなの、ゲートの前で待ち伏せよ。どの子をパーティに入れるかは私が決めるから。楽しみに待ってなさい!」
「はあ。」
なんか嫌な予感しかしない。