第一章1 魔王、旅に出る
その夜、魔王はこっそり魔王城を抜け出すことにした。初の家出である。
魔王の部屋には、勇者が魔王を倒した時のために最強武器と防具、そして大量の金貨が入った宝箱が準備されていた。いわゆる強くてニューゲームってやつだ。魔王は宝箱を開け、中身を取り出した。
入っていた武器は、ウルトラレア武器の勇者の剣と勇者の盾だった。勇者の剣は神聖属性を持ち、悪魔とアンデッドに倍のダメージが入る。勇者の盾は物理カット率100%、魔法カット率80%の優れものだ。そして防具はアダマンタイトの鎧。これも耐久力が∞のチートアイテムだ。魔王はこれらを装備した。
「見た目も変えないとな。」
そう言って魔王は幻術を使って頭に生えていた角を消し、髪の色を白色から黒色に変えた。
「こんなもんだろ。」
魔王の部屋の奥には、魔王を倒した勇者が使うはずだった転移門があった。この転移門を使えば、はじまりの村にワープできる。まさか最初に使うことになるのが魔王だとはだれが想像しただろうか。
この生活に未練は無い。ルシファーたちも俺がいなくともうまくやっていけるだろう。
魔王は目を閉じ、深呼吸した。俺は悪くない。悪いのは全然俺を倒しに来ない勇者どもだ。そう自分に言い聞かせて、目を開いた。転移門はキラキラと虹色に輝き、魔王の門出を祝福しているかのようだった。
「じゃあな、みんな。」
こう言い残し、魔王は転移門に飛び込んだ。
「うわあーーーーーっ!」
ワープしている間、何やらたくさんの人の名前が目の前を通りすぎていった。これがスタッフロールというやつか。魔王がぼーっと眺めていると、たまたま一つの名前が目に留まった。『KAZUKI ENDO』、エンドーカズキ。変わった名前だ。その名前はなぜか魔王の脳裏にこびりついた。やがて光が見えてきた。どうやら出口のようだ。
ドサッ!
魔王は転移門の出口から落ち、床に頭から落下した。あと数メートル高かったら首が折れていたのではないか。全く不親切なことだ。
「いてて・・・」
頭がぐらぐらして視界がぼやける。どうやらはじまりの村のどこからしい。しかし屋内のようだ。
立ち上がり、目をこすると、次第に視界がはっきりしてきた。宿屋の部屋らしい。ベッドがある。女物の服が干してある。何やらいいにおいがする。
「ここってもしかして・・・」
魔王はおそるおそるタンスを開けてみた。すると女物の下着が入っているではないか。
魔王はこれまでというもの、女物の下着というものをよく見たことが無かった。魔王ともあろうものが、女物の下着ごときで浮かれていてはその威厳に傷がつくと思い、これまで魔族相手には興味がないフリをしていた。たまに魔王の部屋に来る女性魔族が跪く時に見えるパンチラは彼の密かな楽しみだった。
だが今はどうだ。俺はもう魔王ではない。ただの冒険者だ。勇者の装備を身に着けてはいるが、所詮は人間だ。人間など、どうせこんなことばかりしているに違いない。
そう考えて魔王はパンツを一枚取って広げた。見事な純白だった。やはり色は白に限る。繊細な美しい刺繍が施されており、下着の持ち主のおしゃれ度がうかがい知れた。
「ぐへへ・・・」
ガチャ
魔王がパンツに見とれていると、急に部屋のドアが開いた。魔王はドアの方をおそるおそる振り向いた。
戸口に立っていたのは、さらりとした黒髪が肩まで伸び、肌は透き通るように白く、気が強そうな目をした、美しい、と同時に子供っぽさもある顔立ちの、身長150センチほどの少女だった。少女は魔術師らしく、服装は白いシャツに赤いミニスカート、黒いマントで、頭にトンガリ帽子を被り、手には身の丈ほどの木の杖を持っていた。
少女は、魔王の顔をぱっちり見開いた目で10秒ほど見つめて固まっていたが、やがて魔王が手で広げている自分のパンツに視線を移し、嫌悪と恐怖で顔を赤くしながら歪め、叫んだ。
「イヤアアアアア!!!」