プロローグ
バーーーン!!!
玉座の手すりを拳で叩きながら、魔王は激怒した。
「暇すぎるッ!!!」
魔王が怒っている理由はこうだ。このゲームが発売されてから既に一年が経過しているにもかかわらず、勇者が一人も襲ってこないのだ。
それもこれも開発者がこのゲームを超絶自由度が高すぎるゲームにしてしまったせいである。
このゲームは2055年に日本企業から発売されたVRMMORPGで、その名を『ANOTHER WORLD』という。圧倒的自由度とボリューム、リアル以上のグラフィックを特徴としており、同様のゲームでは世界で最もプレーヤー人口が多い。魔王城への道中には、ショッピングセンター、遊園地、温泉、観光スポット、ライブハウス、カジノ、ホスト、キャバクラなど誘惑が目白押しであり、勇者の多くは魔王を倒すという当初の冒険の目的を忘れ、遊び倒していた。
装備の種類も膨大で、服だけでも5千種類を超えていたし、毎日日替わりでイベントが発生するため、本編をやらずに自キャラの着せ替えやイベントばかりやっているプレーヤーも少なくなかった。
「クソっ!戦いたい!一体何のための魔王なんだ!」
すると、魔王の声を聞いて側近の1人であるルシファーが魔王の部屋に入ってきた。
「おやおやサタン様、お怒りのようで?」
「当たり前だ!一人しりとりもいい加減飽きたぜ。何か新しい遊びは無いのか?」
「そうですねぇ、武術や魔法はほとんど制覇してしまわれましたし・・・。あ、そういえばベルフェゴールが何やら新しい闇魔法を開発したそうですよ?」
「ほう、どうなやつだ?」
「何でも、勇者どもに使うと自分の性癖を暴露してしまうのだそうですよ!勇者どもはあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして逃げ出してしまうのだとか。」
「ハーッハッハ!それは面白い!ぜひここに来た勇者に使ってみたいものだ。」
「でしょう?」
「でもな、その勇者が全然来ないんだよ、一年も!暇すぎて気が狂いそうだ。勇者どもは何をやっているんだ?下界はそんなに楽しいのか?」
「ええ、強き勇者は女性にモテるようですからね。権力と金に物を言わせて毎日遊び三昧のようです。」
「それは・・・楽しそうだな。」
魔王は勇者が羨ましくなった。こんな部屋に閉じ込められて一日中一人しりとりをするのはもううんざりだった。戦いたい。女の子と遊びたい。
そしてこの時俺は決めた。魔王をやめると。