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Ⅰ聖騎士♡爆誕Ⅰ

 「お……い、お~い……生きとるか~?」


 誰かの声が聞こえる……なんだ、女の子……?

 俺は仰向けに寝そべっているみたいだ。でも、起き上がろうにもなんだか体が重いし、目を開けているのに真っ暗だ。

 

 「あの、誰か近くにいるんですか?何も見えなくて……」

 「ありゃ?おかしいのう…問題なく召喚(しょうかん)してやったはずじゃが」


 やっぱり誰かいる。召喚(しょうかん)ってなんのことだ?


 「とりあえず、おぬし、立ち上がってみせよ」


 おぬしって。言われるままに、俺は立ち上がる。

 瞬間、体中から「ガシャリ」と金属がこすれる音が聞こえた…。なんで?


 「ふーむ……身体に問題はなさそうじゃのう。なにが良くないんじゃろうなぁ?」


 俺に言われても困る。そもそも、どこにいるかもわからない相手に助けを求めるのも違うか…?


 「あ! これでどうじゃ!」


 その声とともに、目の前に一気に光が入り込む。まぶしすぎて見えなかった景色がゆっくりと現れ、そこには…


 トンデモなくキワどい服装をした美少女が宙に浮いていた。



 「え?! ちょ、ちょっと君その恰好は?!」


 慌てて視界を覆うように、とっさに動かした右手に俺は仰天した。

 籠手(こて)だ。ファンタジーものの漫画とかでよく見る、あの手を(おお)う防具の。


 「な、なんだこれ?!」


 まさかと思い俺は全身を見渡すと、まさに中世の騎士そのもの、といった甲冑(かっちゅう)に身を包まれていた。頭をまさぐると、硬い感触が帰ってくる。


 「(かぶと)の視界機能をオフにしておったようじゃ。失敗失敗!」


 美少女はキャッキャと笑う。

 それに反して、俺は全く笑えない状況に戸惑った。

 いったい何がなんなのか、さっぱり分からない。目の前の美少女、甲冑(かっちゅう)。どれもこれも、アニメやゲームで見慣れているようで、知らないものばかりだ。

 夢かと疑ったが、あまりにも鮮明すぎるし、何よりこの甲冑(かっちゅう)の感覚は本物としか思えない。


 「な、なあ君、これはいったい何が起きてるんだ……?」

 「何って、わしがおぬしを呼び出したんじゃよ。このわし、唯一神である【ゾイ】専属の【聖騎士】としてな!」


 これでもかとドヤ顔をする美少女に俺はただただ、呆然とした。

 

 「やはり状況が()()めておらんのう…。良い良い!わしが手取り足取り教えてやろうではないか!」

 「て、手取り…?まず君は誰なんだ?」

 「おお!自己紹介というやつじゃな?」

 

 オホン、と咳ばらいをした彼女は続けた。


 「わしこそは唯一神 ゾイ!世界創造の(あるじ)にして、すべての頂点にある超絶美少女よ!」


 どこからか鳴り響いたファンファーレとともに、色鮮やかな光が彼女を、真上からスポットライトのように照らし出していた。これは最近流行(はや)りのVRキャラクターとかそういうやつなのか…?


 「ゾイちゃんっていうんだね……。その、呼び出したってどういうこと?」

 「そのままの意味じゃよ。日ノ本(ひのもと)、おぬしの故郷である日本からこの【境界(はざま)】に来てもらったのじゃ」

 「はざま…?つまり、ここは異世界ってこと?」

 「その通りじゃ。()()みが早くて助かる!」


 なんてことだ、つまりこれは異世界転生じゃないか。フィクションだけの話じゃなかったなんて。

 でも、それなら話は別だ。オタクのファンタジー知識があれば無双してやれるじゃあないか。


 「……そんなわけないだろ!」

  

 突拍子もない話の内容に、納得しようとした甘い考えにこれでもかとツッコミをいれつつ、膝から崩れ落ちて俺は天を仰いだ。


 俺だってそれなりの社会人だ。そんな都合のいい話があるわけがない。

 会社で大失敗して大目玉(おおめだま)、その挙句(あげく)に友人まで無くした次の日に、異世界で美少女に出会う。そんなアニメみたいな話があったら誰も苦労しない。

 だからきっとこれは……


 「いったい何をしとるのかわからんが、話を続けてもよいかの?」

 「え?あっ、はい、どうぞ」


 俺の葛藤(かっとう)などお構いなしに彼女は話を続けた。


 「おぬしを呼び出した理由は、とある世界でわしの威光(いこう)を、神話を広めてほしいからじゃ」

 「しんわ?神話ってあの物語の?」

 「そうじゃ。わしは以前とある世界を1つ作ったのじゃ。その後休憩しようと思って、うっかり少しだけ眠ってしまったんじゃ」

 「少しって……どの程度?」

 「おおよそ1万年くらいかのう……もっとかもしれん」

 

 話が壮大すぎる。時間の感覚も、そもそも世界を(つく)るとか言われてもイメージが出来ない。


 「そしたらいつの間にか、(つく)ってそのままだった人類がかなり発展しておってのー……わしのことを忘れて、自分たちだけの神を生み出して信仰を始めてしまったんじゃ」

 「神を生み出す?」

 「うむ。わしが海やら太陽やらを(つく)って、その恩恵(おんけい)を受けた人類が、そういった物事を新たに神として(まつ)り上げての。そうして【アナザー女神】が生まれたのじゃ」


 なんだかややこしいが、つまるところ創造主がいない間に、太陽など身近なものを【アナザー女神】という自分たちの神様としてしまったということだろうか。


 「本来ならば、わしは「そのままでもよいかな~」なんて思っておったのじゃが…」

 「【時の旋盤(アカシックレコード)】が未来を見せてのう。このままじゃと宗教戦争待ったなし状態なんじゃと」

 「えぇ…」


 正直管理不行き届きとしか言えなくもないが……。

 そんなことを思っていると、突然彼女はぽろぽろと泣き始めた。


 「ど、どうしたんだ?!」

 「……このままじゃとわし、女神たちに取って代わられて消えてしまうんじゃ。」

 「それに創った人類もわしの失敗で大勢死んでしまうと思うと…よよよ……」


 これは困ったぞ。なんだか可哀(かわい)そうに思えてきてしまった。

 そして俺は心のどこかで、「誰かの役に立つチャンスなのでは」と期待していた。

 少なくとも俺は今、この美少女に、以前は戻してしまった、救いの手を差し伸べてあげることは出来るようだった。


 「あの…」

 「よよよ……わかっておる。これはおぬしには関係のない話じゃ。突然連れてこられて困ったじゃろう」

 「とても、とーーっても心苦しいが、元居た世界に戻して……」

 「俺でよければ、手伝うよ。その、大したことは出来ないかもだけど」


 自然と、俺はそう言葉にしていた。創造主を助けるなんて、自信はないけど、やれるだけやってみたいと思った。

 まだ半信半疑で、これは変な夢を見ているだけかもしれない。目をつぶって開けたら、またいつものように起きて、会社へ行くだけの毎日が戻るのかもしれない。

 でももし、本当に異世界に来てしまったのなら?


 俺はやり直したいと思った。以前は出来なかった「人助け」。俺がやりたかったことを全部やってみたいと。


 「その言葉……待っておったぞ!」


 先ほどまでしおれた花のような面持ちだった彼女は、満開の笑顔でそう言った。

 (だま)された。この創造主、よりにもよってウソ泣きをするだなんて……!

 

 「だ、(だま)したな!」

 「やはり人類は涙に弱い!どの世界でも一緒なんじゃなぁ!」

 「ともかく言質(げんち)はとったからのう!そうと決まれば(ぜん)は急げじゃ!」


 彼女がそう言ったかと思うと、今まで殺風景だった場所【境界(はざま)】にいたはずが……

 いつの間にか俺と彼女は、雲よりも高いはるか上空に浮いていた。


 「うわ!床が……!」

 「壮観じゃろう?これがわし自慢の世界よ」


 得意げに彼女は言う。彼女が手で払いのける仕草をすると、分厚い雲がサーっと引いてゆく。

 そして足元には、深く青い海原(うなばら)に浮かぶ、大陸と島々がその姿を現した。


 「凄い……!」

 「この世界には今四つの【アナザー女神】達がおる。おぬしにはそやつらを説得してわしの元に集うようにしてほしいのじゃ」

 「女神達がわしのもとに集えば、信仰もわし一点に集まる。そうなれば、わしの存在証明(そんざいしょうめい)は確約、戦争回避でみーんなハッピーという算段(さんだん)よ。どうじゃ、天才すぎるわしのこと()めちぎってもよいぞ?」

 「うーん、そんな簡単にいくのか?」

 

 思ったよりも大雑把(おおざっぱ)な計画にやや(あき)れつつも、この新たな世界に俺は胸の高鳴りが()まなかった。


 「ふふふーん、そこはおぬしの【聖騎士】パワーでバッチリ解決じゃ」

 「せいきしぱわー?」

 「うむ、先ほどの【境界(はざま)】でみっちりしごいてやってもよかったが……おぬしゲームのチュートリアルはしっかりやるほうかの?」


 唐突にゲームの話とは。自由にもほどがあるぞこの創造主。というかゲーム知ってるんだな。

 

 「ゲーム?そうだな……ルールを確認する程度には」

 「そうか、わしはやらん」


 何で聞いたんだよ、本当に自由だなこの人……いや創造主。

 

 「おぬしには現地でその身体に慣れてもらうぞ。」

 「ええ?!ぶっつけ本番?!」

 「だーって説明面倒なんじゃもん。それにほら、手取り足取り教えるといったじゃろ。安心せい!」

 「説得力ないから……」


 呆れて笑いつつ、俺はそう言った。

 何とも気が抜けてしまう。掴みどころのない創造主だ。

 つい敬語を忘れてしまうくらいには、俺は彼女に対して親近感が湧いてきていた。


 「ふふ……やはりおぬしは今の方が格好良いぞ。」

 「え?何か言った?」

 「いや、なんでもないぞ。と・も・か・く!」


 大きく息を吸い込み、改まって彼女は俺に告げた。


 「よいか、女神達を説得、わしの仲間にして神話を統一する。これが世界の(あるじ)に使える【聖騎士】、おぬしの使命と心得(こころえ)るがよい」


 これまでとは違った気迫に俺は鳥肌がたっていた。なんだかんだと彼女は、紛れもない創造主であることを俺は実感した。


 「よし、業務連絡終わり!早速おぬしには女神のもとに向かってもらうぞ!」

 「あとこれからは気軽にゾイって呼んでね!」


 あざとくポーズを取ると彼女の周りにハートマークが飛び出した。

 この演出はいったい何なんだ。


 「わかった、ゾイ。これからよろしく頼むよ」

 「ところで女神のところへはどうやって移動するんだ?」

 「どうって、()()()()()()()()()()()


 「え?」


 俺が言葉を発する前に、目の前からゾイが消える。

 落下による風を切る轟音(ごうおん)の中、段々と遠くなる雲の間から手を振るゾイを眺めて俺は思う。


 とんでもない落ちぶれ女神の聖騎士になってしまったと。


 「ゾイおまえぇぇぇぇ!」


 俺は【只野(ただの) 義信(よしのぶ)】。

 平凡な25歳の会社員だったが、どういうわけか異世界の創造主に気に入られて聖騎士になったようだ。 

 これから俺の聖騎士ライフが始まる。

 もしかしたらこのまま死んじゃうかもだけど。



 

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