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ゆめゆめ1


自分が果たしてどんな人間なのか、世界から少しでも必要とされていたりするのか、ふと分からなくなるような現象を、僕はしばしば経験する。

世界の大富豪、また、そうでない貧乏な人であっても自分が一番好きなこと、例えばバンド活動など、に生きる目的を見出している人はきっと、この嫌な感覚を味わったことはないのだろう。

いわゆるアイデンティティが確立している人間と、僕のように日々を惰性で生き、特に才能や目標もなく、ふわふわと綿埃のゴミみたいに世の中を彷徨う人間。


偉いのは間違いなく前者だろう。


とはいえ、僕は自分を変えようなどとは微塵も思わない。理由は…あえて言葉にしなくても伝わるだろうからここでは言わない。


生きる目的が見つからないことと、死にたいと感じることとは同義ではない。

自分のちっぽけさに感じる苦痛なんて、死の苦痛に比べたら断然軽い。自殺なんてするもんじゃない。いや、実際に死んだことがあるわけではないから死の苦痛が本当に重いものなのかどうかなどは神のみぞ知るところでしかないのか。

自分の主観で死の苦痛をどんな風に捉えるかによって自殺する・しないは変わってくる、ただそれだけなのかもしれない。


さて、今日は死ぬのが怖い僕の主観が主観的に否定した出来事の顛末。





休日にはいつも14時に起きる。


なので、日曜日であったその日もおそらくは14時頃に起床したのであろうが、それが真実かどうかは今となっては確認のしようがない。


なぜか?

僕が目覚めた時、部屋中の時計という時計が全て失われていたからだ。


それは壁掛け時計や腕時計だけでなく、スマホや、さらには風呂場の給湯器のリモコン、炊飯器についた時計機能の停止にまで及んでいた。


しかし僕は焦らない。どうせ、あの座敷童子のイタズラだろう、と考えたからだ。

あれが堂々と家に棲みつくようになってから、実にしょうもない、俗に言う"怪奇現象"が多発している。例えば、冷蔵庫の中身が驚くほどのハイペースで減るようになった。外出の時に切っていたはずのエアコンが帰ってきたらガンガンに点いていたことも一度や二度じゃない。

最近酷かったのは、帰宅してドアを開けたら、スーパーマリオでも引っかからないような分かりやすいバナナの皮トラップが、玄関と居間をつなぐ廊下に5つほど仕掛けてあったことだろうか。設置してしばらく時間が経っていたのか、バナナが乾燥して一部床にくっついてしまっていて、掃除も地味に大変だった。


わりとイラッとするが、居候を許可した自分が悪いといえば悪いので、あまり強く文句を言うことは出来ない。


さて、こんなときは、パン、パン、と2回手を叩いて

「座敷童子さん、いま出てきてくれたら麩菓子を用意しますよ。」


と声を張り上げる。


僕としては鯉に餌をあげるような感覚でこれをするのだが、座敷童子の感覚では、僕は彼(彼女?)に参拝をしているということになっているらしく、こうするといつも座敷童子はニコニコ顔で天井から偉そうに飛び出してくる。の、だが。


何も起きない。部屋はシン、と静まったままだ。ここで僕は初めて、この現象は「異常」であるということに気付かされた。



何が起きている?

とりあえず外に出てみようか、と思い家の扉を開けると、そこには真っ暗闇が広がっていた。それは夜とかいうレベルを遥かに超えて、自分が一歩でも先に踏み出せば吸い込まれてしまうんじゃないかと考えてしまうほどの、黒。地面一帯にブラックホールが敷かれている、というと、安っぽい言い方だが、それが僕の感じた感覚に一番近いだろう。


どうやら何者かの手によって、不思議な方法で監禁されてしまったようだ。


一体なぜ?誰が?悪魔の仕業か?疑問は尽きない。


とりあえず、僕は今できることだけでも精一杯にやって、この謎の状況から脱したいと考えた。


まずは…この闇の先に足を踏み出していいかどうか確かめる。そのためには、試しに、家にある、落として床にぶつかった時にハッキリと音が鳴るようなものを持ってきて、玄関先から落下させてみるか。


食器入れには幸いにして箸やら皿やらがみんな残っていたので、この間買った、やけに使い勝手が悪く処分しようと思っていた百均のガラスコップを選んで持ち出す。


玄関のドアを開け、闇の地面のギリギリ手前まで出て、それから、右手にコップを持って、片手だけで前ならえをするような位置にその腕を持ってくる。


そして、

3、2、1でコップをパッと離した。


結果は…


コップはすぐに闇に紛れ見えなくなったが、ガシャン、とか、パリン、といったガラスの割れる音はいつまでも聞こえてこなかった。


考えられるパターンは2つ。


①地面はフワフワの綿飴のようになっていて、落ちてもコップは割れないようになっている

②地面はずっと深く続いている、もしくは本当にブラックホールのようになっていて、一度入ったが最後戻ってこれなくなる


僕はギャンブラーではないので、パターン②の危険性を想定して仕方なく家にこもることにした。


では別の手立てを考えよう。


Q.外界と連絡を取る手段はないか?

A.当然のごとく電話は通じない、インターネットは圏外。もしかしたらアパートの隣の住人は居るのではと思って壁をドンドンと乱暴に叩いてみたが一切反応なし。


Q.では、せめて悪魔を召喚することはできないか?

A.あのインスタントカップはどこを探しても見つからなかった。ヤツが犯人の可能性は排除できない。むしろその可能性が高い。


Q.万が一、しばらく閉じ込められたとして、それにある程度耐えられるだけの設備はあるか?

水道は通じるので水不足・トイレ・風呂に悩むことはない。また、冷蔵庫・食料棚の中身はしっかり残っていたので5日くらい食料不安も起きないだろう。なぜかバナナが 5房追加されていた。未読の小説も全部残っていたので娯楽にも困らない.ただし、テレビ・ラジオは通じない。



とまあ、こんな感じか。


困った。自分に名探偵みたいな高い洞察力みたいなものがあればよかったが、残念なことに僕の知能は平凡だ。頑張って疑問点だけ列挙してみたはいいが、その先に進める気がしない。

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