けんとうのすえ1
外では鳥が鳴いている。水曜朝の9時。もうそんな時間になったのか。
ああ、今まで気付かなかった自分が愚かだった。
悪魔。僕にはあの悪魔をこの世から末梢する義務がある。
犠牲者は自分だけで終わらせなければならない。
悪魔を殺すにはどうすればいい?考える。あのインスタントカップをゴミ箱に直接捨て、収集してもらうのは?いや、他者が偶然にゴミを拾い上げ、被害に遭う可能性を捨てきれない。では、燃やすのはどうか?それは何日か前、悪魔に唆され実際に試してみたが、上手くいかなかった。石に火を付けているのと同じような感じだった。となると、多少遠回りでも悪魔の弱点とされるものを活用するしかないか。十字架、聖水…と考えて、いやそれは確か吸血鬼の弱点だと気付いて、しかし聖水は悪魔にもおそらく効くだろうと思いなおす。
特にこれといって打ち込んでいるいることもない自分が、大学の講義をさぼったのは久しぶりだった。
しかし、これで1日は自由に使える。
インターネットで調べると、やはり聖水は悪魔を滅するらしい。聖水の定義はよく分からない。
また、銀や聖なる光も悪魔を退散させるのに使える、と。聖なる光もなんだかよく分からないが。
ちょうど朝の日差しが出ているので、ひとまずインスタントカップを外に出してみる。が、あまり変化はない。日光は清い光ではないのだろうか。
聖水、聖水…家に辛うじてあるのは南アルプスの天然水くらいだが、果たしてこれは聖水なのか?
…迷ったが、当たって砕けろの精神でカップに天然水を注いでみることにした。
普段注ぐのを熱湯にさせる理由は鍋を再現するためだという話は聴いていたので、あえて冷水のまま、カップに天然水を注いだ。
カップの内側の線まで注ぎ切ると、派手ではないが目に見える変化が起こり出した。
デカデカと書かれていた「悪魔」の字がゆっくりとすうっと見えなくなっていく。それだけではなく、カップの模様は一通り、氷のように溶け消えていく。あとには無地の容器だけが残った。遠目から見ればほとんど紙コップのようだ。
と、印刷らしきものが全て消えた瞬間、ポンッという音とともに視界が一瞬にして遮られた。
僕は「しまった、これはいつもと同じ流れではないか」と後悔した。実際、そこからの流れは普段悪魔を召喚する時に体験する行程とほとんど同じだった。
しかし、二つだけ、いつもとはっきりと違うことがあった。
部屋に充満した煙が白かったこと、そして、
「やあ、ボックを呼べた君、なかなか運が良いよ!」
煙が晴れ、目の前に居たそいつは、いつもの悪魔とは別人の、小柄な子供の姿をした誰かだったことだ。
あとから分かったが、というより認識できた時点で薄々勘づいてはいたが、そいつは天使だった。