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民俗

海女の祖母の話

作者: ごろり

私の亡くなった祖母は海女だった。

目鼻立ちのハッキリした、大正生まれにしては背の高いひとで、その美しさは近隣の村々にも知られ、祖父に嫁ぐ前は結婚の申し込みが引く手あまただったそうだ。

幼い頃、その祖母から聞いた話しをしようと思う。

祖母は、海辺で遊ぶのが好きだった私に、「あんまり海を覗き込んどると亡者に引っ張られるぞ」と脅す様によく言っていた。

「亡者ってなに?」私は聞いた。祖母は、「海で死んだ人間の亡霊とか妖怪の類いやな」と教えてくれた。

「婆ちゃんもな、海に潜るときは必ず気をつけとることがあるんや」と話し出した。

祖母曰く、曇天の日に海に潜って貝を探していると、あと少しで手が届きそうで届かない岩の間に、大きなアワビが見えることがあると言う。

どうしても獲りたい一心でそこまで手を伸ばすのだが、何故か獲ることが出来ない。

心残りではあるが、このままでは息が続かないと、諦めて水面へ泳ぎだす。すると、どこからともなく自分と似た年格好の海女が近づいてきて、さっき見た大きなアワビを差し出すのだと言う。

「それをもらったらいかん」と祖母は眉間に皺を寄せた。

そのアワビを受け取った瞬間、ガッチリと手を捕まれ、暗く深い海の底へと引き摺り込まれてしまうのだと言う。

この妖魔は「トモカズキ」と呼ばれ、これに出会わぬよう、海女はドーマン(格子状の印)セーマン(星の印)という二種類の魔除けの印を衣服や道具に描いて護符としていた。

祖母もまた、それを必ず身につけて海へ潜っていたことを思い出した。

その風習は、今も細々と残っているらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 海女さん、格好いいなぁと思います。普通の人からは覗けない特殊な世界。それだけに、海女さんの中でのルールとか、言い伝え、きっとたくさんあるのでしょうね。楽しく興味深く拝読しました♪ 有り難う…
[良い点] 民俗学的好奇心の刺激される、興味深いエッセイですね。 地球の7割を占める海には様々な謎や神秘が眠っていそうで、恐怖と同時にロマンを感じてしまいます。 [一言] 調べてみた所、「普通の海女さ…
[一言] どこぞのにんたまでも取り上げられた妖怪ですね!! 私はその詳細をぼぎ〇んの方で改めて知ったのですが怖いですよねぇ!! ある意味ではドッペルゲンガーに通じる!!
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