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異世界はきっと隣  作者: 明日の空
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先輩と俺

契約するときは、よく注意しなくては。




普段は仕事のため家にいなかった。しかし、コロナウィルスのせいで自粛だなんだと結局うちの会社も自宅業務に切り替わった。今まで休日も家にいなかったような俺には最近悩み事がある。


きっかけは、一本のクレームの電話。マンションの管理会社から「お隣さんや上階、下の階の方から騒音がするという話を受けました。トラブルの原因にもなりますので、今後そのようなことはお控えください」との連絡が入った。だがしかし、心当たりが一つもない。なにせ昼間はパソコンを前に仕事をし、休憩時間や退社時間後はゲームをして過ごしている。運動不足過ぎて太ったくらいである。




強いて言うのであれば、上階の人の騒音がなかなかであることだ。もしかして、上階の人が俺に騒音の罪を擦り付けようと企てているのだろうか。そんなことを考えながら俺は三日ぶりに食料の買い物に出かけた。


マンションへ戻ってくると、俺の部屋の前に神経質そうな奥さんがいる。しかも鬼の形相だ。

「あの、うちに何か用でしょうか・・・」

俺が声をかけると奥さんはあれっという顔をし、

「あなた、いつごろお出かけになったのかしら」

と尋ねてきた。

「え、〇スーパーまで車で行ったので、三十分以上前ですよ?」

俺がそう答えると、奥さんはスーパーの袋をみて納得したようなそうでないような微妙な顔をする。

「あなた、ひとり暮らしなのよね。今日はお友達でもいらっしゃるのかしら?」

「え? うちには誰もいないはずですよ」

奥さんはますます不可解な顔になった。

「大型犬とかは飼ってないのよね?」

「動物アレルギーなんですよ、俺。なんで、ペットは無理ですね」

まさか、そんな話をするためだけに俺の部屋の前に鬼の形相で待ち構えていたわけではあるまい。俺は、なぜそのような質問を? と、奥さんに聞いた。

「・・・何でもないわ」

奥さんは何やらぶつぶつ言って立ち去っていく。どうやら上の階の人だったらしい。




次の日、俺はオンラインで会議をした。自分のカメラをオンにしながらの会議であったが、どうも画面が固まってしまう。音声なんかも、機械的な音になったり、ハウリングしたりとところどころ聞き取りにくい。おまけにパソコンのカメラに傷がついているのか、俺のところには一本線が入ってしまっている。あの時落としたせいだろうか。まあ、ノートパソコンにしてはだいぶ年季の入ったものなので仕方がないとあきらめるしかないだろう。


その会議の後、仲良くしている先輩から電話が来た。

「どうしました?」

「あ、いやぁ、そのさ、体調とか大丈夫?」

「大丈夫ですよ。聞いての通りピンピンしてます」

「う、うん。そのさ、君ってなんかこうお寺の出身だったりする?」

「突然ですね。まあ、そうですよ」

「だからか・・・。最近気身の回りで物音がしない?」

「よくわかりましたね。そうなんですよ。上の人がうるさくて・・・」

言った瞬間、あれっと思った。上の奥さんが昨日訪ねてきたが、どちらかというとクレームを言いに来たような顔だった。それならば、俺が家を空けていたことが分かって不可解そうな顔をしたのも頷ける。誰もいないはずの家で物音がしたのだから・・・。

少し、ヒヤッとした。

「その部屋、長い時間いちゃだめだよ」

どうして。そう聞くことができない。この手の世界へ無防備に足を踏み込んだらいけない気がした。

「事情はあとで説明してあげるけど、うん。今日はぼくの家に来て。出来る限り買い物に出かけるぐらいの身軽さで、普通に」

普通。普通ってなんだよ。言われると余計にわからない。でも、俺はこの家が急に恐ろしく感じるようになった。すぐに支度をしようとするが、手が震える。ガラスや鏡などに何かが映っている心霊写真をよく見かけるので出来るだけ見ないようにした。




「せ、先輩・・・」

何度かお邪魔しただけの先輩の家だが、今は唯一安心できる居場所のように感じる。

「いらっしゃい」

先輩の柔和な笑みに安心した。こんなコロナが流行っている時期にお邪魔するなんてとんでもないことだとはわかっているが、今は藁にでもすがりたい気持ちなのだ。そんな中、先輩はリビングの椅子に座るように勧めてくれた。

「お茶でも飲んで落ち着いて」

「ありがとうございます」

一息ついたところで本題に入る。

「先輩、うちの部屋どうなっているんですか」

「簡単に言うと、怨霊フィーバー」

「パワーワードぉ」

「冗談はさておいて、霊の密集地帯であることに変わりはない。会議で映っていた君の部屋の天井に梁があるでしょ。そこから一本のロープが垂れていたよ」

「え、それって、カメラの傷なんじゃ・・・」

「まさか。しっかり男性が宙ぶらりんになってたよ」

先輩が自分の首を絞めつける真似をする。

「ぽたぽたといろんな液体が滴って、その中で平然と会議する君。地獄絵図というかシュールというか」

首つり自殺では死んで筋肉が緩んだ拍子に、汚物なんかが垂れ流しになるという話を耳にしたことがある。

「・・・その部屋に落ちないシミがあるんですけど・・・」

「ああうん。お察しの通りだよ」

ぜひとも否定してほしかった。だって、つまり、知りもしない人のしかも幽霊の汚物を拭いていたってことだろう? 最悪だ。


「でも、今までは何も起こらなかったのになんで急に・・・」

「それは、その霊の念がほとんど消えかかってたからだよ」

「じゃあ、なおさらおかしいですよね?」

「君、前まではほとんど家に帰らなかっただろ? せいぜい寝るくらい」

「はあ」

「それが、今この社会情勢になって家にいる時間が以前とは比較にならないほど増えた。つまり、霊と一緒に過ごす時間が増えたということ。霊っていうのは生きている人間からエネルギーを吸うんだ」

「だから、急に活性化した・・・そういうことですか?」

「うん。それに加えて、君の家系お寺って言ってたよね」

「俺は霊感とかそういうのほとんどないですよ?」

「そうだろうね。ぼくなら、あの家に住むなんて考えられないし、入りたくもないよ。少なくとも、今の状態でちょっと霊感がある人なら体調が悪くなるだろうし」

先輩はちょっとあきれたように笑う。

「でも、君は家系が特殊だから他の人とエネルギーの質が違う。今回は特に波長が合っていたみたいで、あの霊は生き生きしてたよ。それにつられたのか、浮遊霊が集合してまさに幽霊の三蜜。あのままじゃ何も気づかないうちにエネルギーを吸い取られるだけ吸い取られて衰弱死・・・なんてこともありえたからね」

「ひっ」

「とにかく、君は自分が特殊であることを自覚すること。見えないなら余計に心霊スポットとか行っちゃだめだからね!」

先輩はびしっと注意し、マグカップを口に運んだ。




先輩の家に避難している間も騒音は続いていたようで近隣の住民が警察を呼んだらしくスマホに連絡が来た。俺はしばらく自宅に帰宅しないことと、気になるようであれば家の中を確認しても構わないと告げ丸投げした。その後の連絡では、部屋の中を調べたらしいが何も出で来なかったうえに、なぜか体調不良者が出たらしくみんな揃って首をかしげたとのこと。




それから一週間、俺はマンションを解約する手続きを始めた。先輩に相談した結果、しばらくは先輩の家でお世話になることになりとりあえず一安心だ。



後から聞いた話だと、その部屋ではやはり男性社員が亡くなっていたとのこと。また、俺の前に二人ほど入居者がいてその時に特に支障がなかったため、俺には特に何も言わなかったという。調べたら、事故が起きた後にある一定期間他の入居者がいた後は事故物件であると説明する義務がなくなるのだとか。





契約するときは、よく注意しなくては、ね。

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