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七天紋章のシヴァ  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ
2章 再臨した海底都市
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2話 冒険者ギルド

「ほんとありえない! 馬鹿なんじゃないの!」


 パルティはお冠だった。

 原因は俺だった。

 早足で前を歩く彼女を追いかける。


「シヴァって貧乏じゃん! 風船を買う余裕なんてないじゃん! そんなにかわいいは正義!?」

「どーどー」


 そうなのだ。俺は押し売りに負けたのだ。

 興味深い話を聞かせてくれた相手だったし、人当たりの良い人だったし、ぞんざいに扱うのは気が引けたのだ。

 それがパルティには不満だったらしい。


 正直、彼女が怒ったところで可愛いなという感想が一番大きい。

 ぷんぷんと露骨に態度で示す様子が風流だ。

 ただ、そろそろ周りの目が痛い。

 カップル同士の喧嘩を眺める野次馬みたいな連中が、こちらを見ている。


「なあパルティ」

「何!」


 彼女は足を止め、振り返った。

 腕を組んで、頬を膨らませている。

 小動物か。


「これ」

「……え?」


 俺は手に持つ風船をプレゼントした。

 パルティは最初戸惑った。

 そのため彼女の手を取って、開いて、握らせる。


「私に?」

「お前が喜ぶかなと思って、でも、浅はかだったよ。ごめんな」

「……ううん。私こそ、言い過ぎた」


 彼女は小さくそう言うと、顔をうつ向かせた。

 それから、ぽつりと。


「……ありがと」


 そう呟いた。

 それから、また前を向いて歩きだした。

 分かりやすく上機嫌な歩みだ。

 ちょろいぜ。


 ちょうど風船持つのめんどくさかったしな。

 俺は荷物を押し付けられる。

 彼女はプレゼントをもらえる。

 たった一つの冴えた選択肢だった。


『君、本当は悪魔なんじゃないの?』


 うるせえ魔王。

 世の中にはな、大嫌いな事でもやらなきゃいけない時ってのがあるんだよ。


 『それ、絶対今じゃないよね』と言うディーチェに無視を決め込んで、俺たちは冒険者ギルドに向かった。

 ひときわ目立つ赤レンガ造りの建物だ。

 冒険者の証が描かれた大きな旗がはためいていた。

 扉は開け放たれており、自由に出入りできそうだ。

 まあ、その自由さが冒険者ギルドの売りなんだが。


 パルティは加入しているが、俺は未加入だ。

 まだ俺たちが剣を二人で習い始めた頃、とは言っても、既に実力差が目に見えてきた頃だが、彼女の父、つまり俺の叔父に連れられて、彼女の町のギルドで登録しようとしたことがあった。


 冒険者ギルドでは、本人のスキルを確認できる。

 その時だったな。

 俺が【徒花(あだばな)の呪い】を知ったのは。


 徒花というのは実を結ばない花の事だ。

 要するに、俺がどれだけ努力をしても成長しないのは、このスキルのせいだったという訳だ。

 それ以来、俺は夢に蓋をして、閉じこもった。


 だが、今は力を手に入れた。

 再び歩き出すにはいい機会とも言える。


 ギルドに入ると、酒気を帯びた匂いが鼻を刺した。

 慣れない香りに上体を反らしたが、息を整えて心を落ち着かせる。

 それから、受付窓口に足を向けた。


「すみません、冒険者登録をしたいのですが」

「はい。新規登録ですね。2名様でしょうか?」

「あ、私は登録済みです」

「かしこまりました。1名様ですね。では、こちらの用紙の太枠内をご記入ください」


 冒険者の登録をしに来た理由は単純だ。

 その方が安くダンジョンに潜れるから。


 そう。ここはダンジョンを中心に栄えた都市。

 金を稼ごうとするやつはいくらでもいる。

 商売になる物なら、なんだって金銭が発生する。


 先にも述べた通り、アトランティスは海中にある。

 建物そのものはシャボンで覆われていて、内側には空気があるとは聞くがそこに至るまでが問題だ。

 泳いで潜るには少し厳しい。


 賢いやつらは気付いた。

 潜水艇を提供すれば、一儲けできるぞと。

 ダンジョンに潜る手段はもっぱらそれだ。

 ディーチェの時は彼女が海原を一度凍らせて、それから大賢者が灼熱魔法で海を燃やして水かさを下げたとか言っていたが、俺達にそんな芸当はできない。

 ましてこのように町が栄えてしまえばなおさらだ。


「はい。シヴァルス様ですね。では、スキルの確認に移りますので、こちらの水晶に手を翳してください」

「……はい」


 来た。

 分かっていた。

 もう一度目にする必要があると。

 かつてのトラウマと対峙する時が来たのだと。


 【徒花の呪い】は俺から希望を奪った。

 それを今、改めて見せられるのだ。

 手も、震えるというものだ。


「シヴァ」


 かけられた声にハッとさせられる。

 見ると左手を、パルティが握っていた。


「大丈夫。シヴァは一人じゃないよ」


 こてっと首をかしげてそういう彼女。

 俺は緊張がほぐれるのを感じた。

 そうだな。大丈夫さ。


 俺は水晶に手を翳した。

 震えは止まっていた。


「こ、これは!?」


 水晶を覗き込んだ受付嬢が、そう言った。

 【徒花の呪い】はうちの一族専用だからな。

 ユニークスキルに目を丸くするのも納得できる。


 俺の理解は半分正しく、半分間違っていた。


「【七天紋章Lv1】! 初めて見るスキルです!」

「……七天紋章? 【徒花の呪い】ではなく?」

「徒花の呪い、ですか? いえ、このスキルの他にあるのは【魔力暴走】だけですね。こちらもレアスキルです!」

「魔力暴走……?」


 どういうことだ?

 俺が子供の頃把握したスキルと全然違うぞ。


『【七天紋章】は私のスキル、【魔力暴走】は賢者のスキルだね。ペンダントと日記の封印を解いたために発現したスキルだろうさ』


 そうか。

 【徒花の呪い】はディーチェを封印した代償だ。

 封印が解除されたことで、呪いも解けたのか。

 ……ん?


(封印を二つ解いたなら、七天紋章はLv2じゃないのか?)


 そう、心に問いかけた。

 心に巣食うディーチェが答えを寄越す。


『七天紋章はLv0から始まるのさ』


 ……なるほど。

 そもそもレベル表記のあるスキルを見たことが無いから何とも言えん。嘘とも本当とも。


「シヴァ! やったじゃん!」


 パルティが目をキラキラと輝かせている。

 本当に、冒険に対して貪欲な奴だよな。

 いや、それは俺も同じか。

 少なからず、わくわくしている。


「おう! そうだな!」


 下手くそに笑って、俺はそう返した。

 胸に刺さっていた杭が、抜けるようだった。

 淀んでいた流れが、正しく動き出した。

 そんな、感じだ。


「ギルド組合員である証明書です。再発行は有料ですので紛失しないようご注意ください」


 ギルドの組合員である証書を受け取る。

 なんだろう。受付嬢がうずうずしている。

 ん? 他に何かあったっけ?


 疑問に思い、パルティの方を向いてみる。

 パルティもよく分かってなさそうだ。

 んー?

 分からん。いいか。


「ありがとうございました」


 そう言って、立ち去る。

 否、立ち去ろうとした。


「え!?」

「え?」


 受付嬢が大きな声を上げた。

 え、何? チップ的なものが必要なの?

 ローカルルール的な奴?

 お金ないよ?


「あ、あの、素材の買取などもギルドでは行っております」

「はい。知ってます」


 パルティは冒険者だしな。

 受付嬢は一層目を押し広げた。


「実は北の山脈にドラゴンの発見報告があるのです! 調査の手が足りないんですよねー。あわよくば討伐してくださる冒険者さんはいないですかね!?」

「人手不足なんですね……」

「なぁっ!?」


 合掌してお祈りする。

 なんだなんだ。

 俺に何を期待してるって言うんだ。


 パルティと二人で首をかしげていると、背後で大男が立ち上がり、俺達に歩み寄ってくるのが分かった。


「おい坊主! 冒険者なめてんのか? お前みたいな軟弱そうな奴がいると迷惑なんだよ!」

「あ、お構いなく。すぐ出ていくので」

「え゛?!」


 本当に、何なんだこいつら。

 宗教か新聞の勧誘かよ。

 関わらんとこ。


「行くぞパルティ」

「ん」


 パルティの手を引き、その場を後にした。


 ◇◇◇


「……あ、あれ? 固有スキルを持ってる人は『俺TUEEE!』するんじゃ……」


 ギルドには、受付嬢のそんな声が零れたという。

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