第7話
*
クリスマス当日。
「いらっしゃいませー」
俺は昼間からバイトに入っていた。
店内の装飾もクリスマス仕様になり、店内もカップルがいつもより多い気がする。
「はぁ……クリスマスか……」
窓の外を見ながら俺はそんな言葉を呟く。 子供の頃はサンタさんが来るなんて喜んでいたが、成長するにつれてクリスマスなんて平日とあまり変わらない気がしてきていた。
「合コンか……」
あの日、友人から合コンをセッティングしてもらったが、俺はなんだかあまり乗り気には慣れなかった。
一応、衣服なんかを揃えては見たが合コンに行って、誰かとどうこうなろなんて思えなかった。
「はぁ……なんか面倒くさくなって来たなぁ……」
「何が面倒臭いんですか?」
「うぉ! ビックリしたなぁ……いやちょっとね……」
背後から声を掛けられ俺は驚いて思わず声を上げてしまう。
「ちょっと、バイトの後用事が出来てね……それが面倒で……」
「用事ですか? クリスマスに何の用事ですか?」
「いや……それは……」
なんか後輩の女の子に合コンに行くとは言いにくいなぁ……。
適当に嘘をついて濁すか……。
俺がそんな事を考えていると、レジにお客さんがやってきた。
「あ、お客さんだ愛実ちゃんお願い」
「わかりました」
愛実ちゃんはそう言うと小走りでレジの方に向かっていった。
しかし、レジに立ちお客さんに何かを言われ、直ぐに俺の方に戻ってきた。
一体どうしたのだろうか?
「次郎さん、お客様が呼んでますよ?」
「え? 俺?」
一体なんだろうか?
俺はそんな事を思いながら、レジの前に向かう。
「はい、お待たせいたし……ってなんだお前かよ……」
「何だよとはご挨拶だなぁ、友人が尋ねてきてやったってのに」
レジに立っていたのは、合コンをセッティングした張本人である俺の友人の尾道だった。 しかも彼女と一緒だ。
まぁ、今日はクリスマスだし不思議じゃないが……。
「なんだよ、冷やかしなら帰れよ」
「ちげーよ、今日の合コンの事だよ」
「あぁ、お前が無理矢理セッティングしたあれな」
「無理矢理じゃねーよ! この合コンでお前も彼女でも作れ、じゃないとお前の大学生活灰色のままだぞ」
「んな事言ってもなぁ……」
別に灰色のままでもそれはそれで楽しいのだが……。
「それで用事ってのがお前にこれを渡しに来たんだよ」
「なんだよこれ」
渡されたのはメモ用紙だった。
携帯の番号が書かれているが、一体誰のものだろうか?
「今回の合コンの幹事の連絡先、女の子なんだけど連絡取れるように電話番号渡しておくわ」
「あぁ、そう言うことか……それはどうも」
「ついでに言うと、幹事の女の子……」
「なんだよ」
「メチャクチャ可愛いぞ……いでっ!」
俺にそんな事を言った尾道の足を彼女さんが踏みつける。
クリスマスに彼女以外の女の話しなんてするからそうなるんだ。
「あっそ、まぁ確かに急に行けなくなったときに連絡出来るとありがたいしな……」
「イテテ……まぁ頑張れよ、俺はこれからデートだから」
「あぁそうかよ……」
尾道はその後、ホットドリンクをテイクアウトで注文して帰って行った。
まったく騒々しい奴だと思っていると、尾道以上に騒々しい奴が俺の事をジト目で見ていた。
「愛実ちゃん」
「はい?」
「聞こえたの?」
「はい、聞こえましたよごうk……次郎さん」
「俺の事をなんて言おうとしたのかは気になるけど、この際どうでもいいや……そうだよ、バイトの後合コンに行くんだ」
不服そうな表情の愛実ちゃんが俺の顔を見てそう行ってくる。
別に愛実ちゃんには関係無いと思うのだが……。
「楽しそうですねぇ~私とご飯に行くのは嫌がるのに」
「俺を財布としか思ってない女の子とは食事に行きたく無い」
「合コンだって同じような女性しかいませんよ」
「それは知らないが……まぁ正直面倒なんだよ……俺知らない女の子とかあんまり話せないし……」
「そんな事言って、どうせ楽しみなんですよね? あーやらしい!」
ぷいっとそっぽを向いてそんな事をいう愛実ちゃん。
俺に楽しい事があると、この子は不機嫌になるのだろうか?
「そんな事思ってないよ、バイト終わりで疲れるし……はぁ……」
「どうせあわよくばとか思ってくせに……薬局でアレは買いました?」
「君が言っている物が俺の想像通りだったら、余計なお世話だよ!」
「あ、今はホテルにもありますもんね」
「なんでそんな事を君は知ってるの? 女子高生だよね?」
「あ、でも一個じゃ足りないですか」
「愛実ちゃん……もしかして変なバイトとかしてないよね?」
なんで女子高生がそんなにホテル事情に詳しいんだよ。
俺は少し愛実ちゃんの事が心配になってきた。
そんな事をしている間にバイトも終わりの時間がやってきた。
「じゃあ、あとはお願いします」
「あいよ」
俺は引き継ぎを済ませ、休憩室に向かう。
「あーつかれたー」
「あ……お疲れさまです、合コンさん」
「まだ言ってるし……」
休憩室のドアを開けると、愛実ちゃんが嫌みったらしくそんな事を言ってきた。
こんな日に限って愛実ちゃんと上がりが一緒なんだもんなぁ……。
「今から合コンなんて楽しそうですね」
「はいはい、もうそれで良いですよ……」
仕事中もずっとその事を俺に言ってくるので、いい加減相手にするのも疲れてしまった。 俺は更衣室で着替えをし、荷物の整理を始めた。
すると、急に電話が掛かってきた。
「ん? 誰だ?」
知らない番号。
俺は誰からだろうと思いながら、電話に出た。
「もしもし?」
『あ、えっと……岬次郎さんの携帯ですか』
女性の声?
「はい、そうですけど……どなたでしょうか?」
『あぁよかった! あの私、丹澤茜って言います』
「丹澤さん? はぁ……」
『えっと、尾道さんから合コンの事って聞いてます?』
「あ、あぁ! もしかして幹事の人?」
『はい、そうです! あの……ちょっとトラブルがあって……』
「トラブル?」
『はい……実は合コンに来る予定だった子がいきなり「新しい恋をするために! 私これからアメリカに行ってくる」って言って……』
なぜアメリカ?
「行ったんですか?」
『行っちゃいました……』
すごいなその人、逆に会ってみたかった。
「なるほど……それで?」
『えっと……人数が会わなくなるので、今回の合コンなんですけど……』
あぁこれは中止になる流れだな、ラッキー家に帰ってゆっくりするか。
……でも、あれか……俺以外の奴らは合コンを楽しみにしてた訳だし……。
「あぁ、丁度良かった。俺も用事が出来て行けないって連絡しようと思ってたんです」
『え? 本当ですか?』
「はい、急にバイトで……」
まぁ、俺は行かなくて良いし、俺が居なくて人数が会うならこれが一番良いだろう。
『そうですか! よかったぁ……これで予約が無駄にならない』
「それじゃあ、そう言うことなんで」
『はい! それじゃあ失礼します!』
そう彼女が言い電話は切れた。