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第35話

「次郎さ~ん」


「何?」


「私眠くなってきました……」


「じゃあ寝たら」


「……襲っても良いですよ?」


「誰が襲うか」


「えぇ~、今日は勝負下着なのにぃ~」


「要らない情報だな、ほれ」


「ども」


 俺は愛実ちゃんにお茶を差し出す。

 愛実ちゃんはベッドから起き上がって、受け取ったお茶を飲み始めた。


「ぶー……手を出しても良いって言ってるのに……」


「あのねぇ……物事には順序がだね……」


「またそれですか? はいはい分かりました~」


 愛実ちゃんはそう言うと、お茶をテーブルの上に置いて、またしても俺のベッドで眠り始めた。


「もう、そんな事言うと、次郎さんなんて放って私お昼寝しちゃいますから!」


「え、それはやめとけ」


「あれ? なんですかぁ~、やっぱりそれは寂しいんですかぁ?」


「いや、食ってすぐに寝ると太るって……いでっ!!」


 俺がそう言うと、愛実ちゃんは俺の枕を俺の顔めがけて投げつけてきた。


「次郎さんのばーか!! 知りません!!」


「イテテ……何なんだよ……」


 俺は枕を回収し、ベッドの脇に置く。

 愛実ちゃんは俺のベッドの横になり、少ししたら本当に眠ってしまった。

 きっと歩き疲れたのだろう。

 俺はそんな愛実ちゃんに布団を掛けてやり、ゲームをして時間を潰すことにした。


「ん……次郎さん……」


 俺がゲームをしていると、愛実ちゃんの寝言が聞こえてきた。

 寝ていれば可愛いのに……いや……普段から可愛いか……。

 俺は愛実ちゃんの寝顔を見てそんな事を思っていた。

 愛実ちゃん、今日は楽しんでくれただろうか?

 俺はそんな事を考えながら、愛実ちゃんの布団をかけ直す。


「ん……次郎さん……大好きです……」


「………何言ってんだか……」


 寝言を繰り返す愛実ちゃんに俺はそう呟き、愛実ちゃんの髪を撫でた。


「……俺も好きだよ」


 絶対に本人の前ではあまり言えない台詞を俺は寝ている愛実ちゃんに言った。

 聞かれていないとわかっているからこんなことを言えるが……もしも聞かれてたら……。 なんて事を思っていると、愛実ちゃんの顔がどんどん赤くなっていっていることに気がついた。


「ん?」


 しかもなんか、寝息も止まった気がする……こいつ……もしかして……。

 俺はもしかしてと思いながら、愛実ちゃんの脇をつつく。


「ん……」


 少し動いた……これは確実だな……。


「おい」


「……くーくー」


「寝たふりしてんじゃねぇ」


「あうっ! もう! 痛いじゃないですか!!」


 俺は寝ている愛実ちゃんにチョップをお見舞いする。

 愛実ちゃんは文句を言いながら起き上がった。


「寝たふりなんてするなよ!」


「か、勝手に『俺も好きだよ』って次郎さんが勝手に言ったんじゃないですか!」


「ぐぁぁ! や、やめろ! 恥ずかしくて死んでしまうぅぅ……」


「も、もう……次郎さん私の事好きすぎじゃないですかぁ……あ、ぎゅーします?」


「するか!」


「えぇ~! 私は次郎さんに始めて好きって言われて今すぐ抱きつきたいんです!! 良いからさっさとこっちに来て下さい!」


「知らん! そのまま寝てろ!」


「なんでですか!!」


 ワーワーと騒いだあと、愛実ちゃんと俺は二人並んでテレビを見ていた。

 愛実ちゃんは『もう我慢出来ない!』と言い、俺の腕に抱きついて離れようとしない。

 少し暑いので早く退いて欲しいのだが……。 まぁ……悪いことばっかりでも無いな……。 なんて事を腕に伝わってくる、柔らかい感触を感じながら俺は思っていた。


「次郎さん」


「なんだ?」


「このドラマ面白いですね」


「あぁ、俺もこのシリーズ好きでな……契約してたビデオオンデマンドのサービスで見れるようになって、見直してるんだよ」


「私はこの後輩社員の女の子に頑張って欲しいです」


「あぁ、この子か……」


「なんですか? その微妙な反応は?」


「まぁ……見てればわかるよ」


 俺たちはテレビにタブレットの画面を映して、ビデオオンデマンド内の恋愛ドラマを見ていた。

 会社内の恋愛模様を描いたドラマなのだが、このドラマのメインヒロインは上司の美人女性なのだ。

 愛実ちゃんの言っていた後輩の女性社員はサブヒロイン、つまりは振られてしまうのだ。

「えぇー絶対後輩の女の子の方が可愛いのにぃ~、そう思いません?」


「さぁな……俺はどっちかって言うと、行きつけの定食屋の娘さんが好き」


「えぇ~次郎さんってあぁ言う感じが良いんですか?」


「別にそう言う訳じゃねーよ」


 俺はドラマを見ながらスマホでゲームをしていた。

 愛実ちゃんは俺の腕に抱きつきながら、ドラマに夢中だ。


「次郎さん」


「なんだ?」


「キスシーンですね」


「……そうだな」


 ドラマは終盤に差し掛かり、主人公とヒロインのキスシーンに突入する。

 なんていうか……気まずい……。


「次郎さん……」


「なんだ?」


「次郎さんはしてくれないんですか?」


「何言ってんだよ」


 どうせいつもの冗談だろうと思い、俺は愛実ちゃんの言葉を流した。

 しかし、愛実ちゃんは俺の腕に抱きつく力を強めてもう一度言ってくる。


「……次郎さん……ちゅーしたいです」


「え……」


 そう言った愛実ちゃんはいつもと様子が違っていた。

 恥ずかしそうに顔を隠し、真っ赤な顔で俺にそう言っていた。

 

「だって……あの……初デートだったし……その……思い出が……欲しいです……」


「……」


 どうするべきか俺は悩んだ。

 彼女の思いに答えるべきかどうなのか。

 しかし、俺はそこでふと思った。

 俺はどうしたいのだろうか?

 愛実ちゃんは俺の事を好きだから、俺とキスをしたいのだ。

 俺は愛実ちゃんとキスしたいのだろうか?

 そう考えた時、俺は自分気持ちに気がついた。


「愛実ちゃん」


「はい?」


「顔上げて」


「はい……」


 愛実ちゃんは真っ赤な顔をゆっくりと上げ、俺の目を見つめてきた。


「あ、やっぱり。髪にゴミがついてる」


「え!? どこですか?」


「とってあげるからジッとしてて」


「は、はい……」


 俺はそう言い、愛実ちゃんの髪の毛に触れる。

 そして……。


「好きだよ……」


「え? ん……」


 俺は愛実ちゃんの顔を自分の方に抱き寄せ、自分の唇を重ねた。

  

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