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第14話

「うーん……二人分は厳しいか……」


 当たり前のことだが、冷蔵庫の中には一人分の食材しか入っていない。

 お昼はパスタにしてしまったし、夜もパスタという訳にはいかない。

 どうしたものだろうか?


「これは買い物に行く必要がありますね」


「おわっ! 音も無く近づくのやめてくれない……」


 俺が冷蔵庫を覗いていると、いつの間にか隣に愛実ちゃんがいた。

 少しは気配を発して欲しい……。


「まぁ……でも愛実ちゃんの言うとおりか……買いものに行かないとな……」


「そうですね! じゃあ早速!」


「あ、愛実ちゃんは待ってて良いよ」


「なんでですか!!」


 コートを羽織ろうとする愛実ちゃんに、俺はそう言う。

 まぁ、一応お客様だし、外は雪も降ってきたし………というのは建前で、同じバイト先の人に一緒に買いものなんてして居るところを見られたら、色々と面倒な事になりそうな気がしたからだ。


「私も行きたいですぅ~!」


「いや……外は雪だし……」


「手袋にマフラーもあります!」


「お客さんだし……」


「泊めて貰うんですからお手伝いします」


「……お留守番してなさい」


「お留守番してたら一緒に寝てくれます?」


「よし、買いもの行くぞー!」


 そんな事を言われたら連れて行くしか無いだろう。

 俺は仕方なく愛実ちゃんと一緒に近くのスーパーに向かった。

 クリスマスの売れ残りのケーキやパーティー用のオードブルが大量に安売りされており、そう言えば昨日はクリスマスだったと思い出された。


「クリスマスケーキが半額ですって! クリスマスの一日後ってだけなのに……」


「まぁ、そんなもんだろ? それより、今日のおかずは何にするかなぁ……」


 俺は店の中を歩きながら、今日の晩飯を考えていた。

 愛実ちゃんも居るとなると、自信のある料理にしたい。

 人に料理を食べさせるなんてあまり経験も無いし……どうしたものだろうか?


「次郎さん、次郎さん」


「ん? どうした?」


「晩ご飯は私が作りますよ」


「え? そんな……」


「いえいえ、遠慮なさらずに!」


「愛実ちゃん……料理出来るの?」


「………えい」


「愛実ちゃん……足の踵でグリグリしないで……」


 俺の言葉がイラッときたのだろう、愛実ちゃんは笑顔のまま、俺の足を自分の踵でグリグリしてきた。


「もう! 私だって女の子ですよ? 料理くらい出来ます!」


「愛実ちゃん、カップ麺を料理とは言わないんだよ?」


「次郎さん、いい加減にしないとここでキスしますよ?」


「ごめんなさい」


「しかも唇に」


「だからごめんって!!」


 どんな脅迫の仕方だよ……。

 なんてことを思っていると、愛実ちゃんはポンポンとカゴの中に食材を入れ始めた。


「一体何をつくってくれるんだ?」


「うふふ~それは出来てからのお楽しみでーす!」


 一体何をつくってくれるのだろうか?

 まぁ、食える物なら何でも良いか。

 俺はそんな事を考えながら、愛実ちゃんの食材選びを見ていた。


「えっと……あとは薬局ですね」


「薬局?」


「はい、スッポンの生き血と赤マムシエキスを……」


「俺に何を食わせる気だ……」


 本当に大丈夫なのだろうか?

 俺は疑問と恐怖を抱えながら、レジを済ませてスーパーを後にした。

 

「次郎さん……」


「なんだ?」


「手が寒いです」


「手袋あるだろ?」


「忘れました」


「行くときつけてたろ?」


「………無くしました」


「嘘つくな!」


 ポケットからちらっと見えてるんだよ……なんでそんなわかりやすい嘘をつくんだか……。


「むー……次郎さん!」


「何?」


「手を繋ぎましょう!」


「嫌だよ、恥ずかしい」


「う~えい!!」


「よっと! 残念」


「う~!! 次郎さんの意地悪!」


 俺の開いている手を狙ってきた愛実ちゃん、しかし俺はさっと避けて逃げる。


「わがまま言ってないで早くかえ……」


「えい!」


 俺が早く帰ろうと提案した瞬間、愛実ちゃんは俺の背中に思いっきり抱きついてきた。

 

「な、ななな!! 何をしているんだ!!」


「次郎さんが意地悪するからです!」


「い、今すぐやめろ!! 誰かに見られたら!」


「私は良いも~ん! さぁ! 大人しく手を繋ぐか! このままでいるか選んで下さい!」


「ひ、卑怯だぞ!!」


「良いんですよ? 手を繋ぐのが嫌なら、私はずっとこのままでも」


「ぐっ……こいつ……」


 結局、俺は仕方なく愛実ちゃんと手を繋いで帰宅することになった。


「えへへ~あったか~い」


「はぁ……俺は何をしてるんだ……」


「次郎さん」


「なんだよ……」


「こうしてるとまるで夫婦みたいですね」


「何段階すっ飛ばしてるんだよ……」


 肩を落としながら、俺は愛実ちゃんにそう答える。

 

「次郎さん……」


「何?」


「好きですよ」


「い、いきなりなんだよ……」


 愛実ちゃんはそう言いながら、俺の肩に頭を乗せてくる。

 俺は思わず顔を赤くさせ、動揺しながら尋ねる。


「私は次郎さんを絶対彼氏にします、だから積極的に行きますからね」


「そ、そんな宣言されても……」


「良いです、いくら時間が掛かろうと絶対に次郎さんを落とします」


 うっとりとした視線を俺に向けながら、愛実ちゃんはそう言う。

 なんだかクリスマス前とは別人みたいだ。

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