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四郎、上方へ三ツ目衆を派遣する

 年明け忙しい中、新たに父晴信から窪谷又五郎家房等甲州乱破を与えられた四郎は赤口関左衛門から、六人の異国人との面会を行い、その者は錬金術師なる異国の薬師なる職業を生業とする者を甲武屋に逗留(とうりゅう)させてると言う文が届いた。



 『・・・・・この事に直接錬金術師の原蹴煤(はらけるすす)殿と話して、欧羅巴(ヨーロッパ)なる場所から日ノ本へ己の仕事の研鑽(けんさん)の為に日ノ本を訪れて、日ノ本のみに存在する王水なる素材を求めてやって来たと語ってました。


 彼等は、王水なる水を採取出来る場所の条件が火山の麓の温泉沸く地獄谷の様な危険な場所にあると申していますので、武田領にはいくつも条件に該当する場所がありますと伝えたら是非訪ねたいと申しておりました。


 そこで四郎様の話を行って、我が武田家への仕官する事に前向きな雰囲気でしたので、御屋形様と四郎様の判断次第で、甲州へ原殿を案内しようと思います。』



 このような内容の文が、年明けに届いた為、四郎は父晴信に手紙を見せて、この原蹴煤(ぱらけるすす)一行を甲府に呼ぶかどうか、父晴信と太郎兄上と一緒に審議した。



「四郎よ、この原蹴煤(ぱらけるすす)一行はどの様な経緯と目的で日ノ本を選んだのか、四郎が持ってる未来からの視点で語れないか?」


「そうだ四郎。父上と(それがし)此度(こたび)原蹴煤(はらけるすす)殿が甲州に(おもむ)いたとして、彼等の目的と我等武田家への利害に沿った事になれるかどうかを吟味(ぎんみ)したい。」


「まず原蹴煤(はらけるすす)殿の知ってる限りの経歴と言えば、医師、化学者、錬金術師、神秘思想家、悪魔使いであったと伝承ではありますが、これらの事は多くの敵からの中傷で後世伝わってる話なので、本当の原蹴煤(ぱらけるすす)殿がどんな者なのか、直接会わないと分かりませぬ。間違った化学や医学知識も持ってましたが、薬品や金属の合成の知識などには長けていたと思いますので、間違った知識は俺の持ってる記憶を教えて修正させる事も可能だと思います。」


「それに原蹴煤殿は、悪魔使いと呼ばれてますが、実際は宗教よりも自然神秘学の方に心情が向いてましたので、我が日ノ本での八百万の神々の思想に大変親和性を持っていると思いますので、邪教崇拝と言った行動などは起こさぬと思います。また誤った薬の知識とか持ってましたが、薬の調合や今我々が求めてる金属やギヤマンの加工や製造知識などを持ってますので、我が武田領でも堺や国友村の様に鉄砲生産の拠点を作る事も可能かもしれません。」



 話を聞いてた父上と太郎兄上は何とも言えぬ難しい顔して、四郎に話してきた。



「これはまた海とも山ともつかぬような南蛮人が日ノ本に来たな。しかしその者が目端の利く他家に仕えて、実力を発揮するやもしれぬ、その時には後の祭りだ。だから我が家に出仕する気ならば、四郎の元に仕えさせよ。」


「四郎よ、(それがし)も父上と同じ考えだ。四郎は、もし我等が反対しても説得する積もりだっだろう。その者達が武田で暮らすならば、その土地にある風習を守り、日ノ本にある宗教と争わぬ事が条件であるな。」


「なるほど、太郎兄上。確かに要らぬ摩擦を起こして、領民や寺院などと争うハメになるならば、その者達を武田家に滞在させれませんな。判りました、その者達はまず高遠で預かって甲州にはなるべく影響及ぼさない様にしておきましょう。」


「四郎よ、其方(そなた)はまた一度も高遠の地に行ってないので、此度(こたび)高遠に赴くように。そして高遠の差配を宿老の保科弾正忠正俊に指示するように致せ。」


「承知しました、父上。近々高遠へ向かう事にします。」



 四郎と話した父晴信と太郎兄上は、四郎が部屋から退出した後、続いて情勢が落ち着いてる武田家の統治について、両職の甘利備前守虎泰を呼んで、三人で意見を交わしてた。



 ____________________________________________________________




 父晴信と太郎兄上との談義を終えた四郎は早速窪谷又五郎を呼び出して、堺にいる関左衛門との連絡用に二人、それとは別に関左衛門の元に二人を派遣出来ないか聞いてみた。



「又五郎よ、其方(そなた)に頼みがある。乱破を四人確保して、二人を絶えず堺の赤口関左衛門との連絡用に任じて、後の二人は堺での関左衛門の活動の支援を行う者達を人選出来ないか?」


「四郎様、では人選の方は拙者が行っても宜しいでしょうか?」


「それは構わない。関左衛門の傍に置く者は、人選の中で言葉が巧みで、忍びの技術も優れた者をつけて欲しい。また今の処、この四人が上方と甲州のやり取りする人員だが、将来的に人数拡大させるのは確実なので、その時指導者として動ける者を考えてもらいたい。」


「承知しました。では明日にでもその四人を選んで、四郎様の前に御挨拶させまする。」



 そう言うと又五郎は退出して、すぐに配下の甲州乱破を呼び出して人選に入った。



「皆の者、四郎様より大切な役目を仰せ使った。二人は上方にいる赤口関左衛門の傍にて補佐を行う。そしてもう二人は、上方と武田家との間を情報を連絡を司る者だ。特に上方にて働く者は、四郎様より重々に人を選ぶように仰せつかってる。」



 又五郎はそういうと、配下の乱破の皆の顔を見て決めた。



「まず上方組は、黒鴉(からす)の飛助に牡丹の志麻に行ってもらう。二人には、この場で夫婦となり赤口殿の傍で、乱破の正体を隠して任務に務めよとの四郎様の命である。」


「ははっ、拙者は承知しますが、志麻は如何(いか)に考えてるでしょうか。」


「又五郎様、私も飛助殿と夫婦(めおと)になるのは構いませぬ。乱破に生まれて夫を得るなんて夢にも思いませんでしたが、私めは武田の為、思惟(しい)ては高遠四郎様に尽くす所存でございます。」


「拙者も志麻を娶り、夫婦揃って四郎様に忠誠を捧げますので、この主命に逆らう積もりはありませぬ。」



 黒鴉(からす)の飛助と牡丹の志麻は揃って又五郎に平伏した為、又五郎は四郎から言われた事を二人に伝えた。



「飛助に志麻よ。四郎様は、二人を夫婦にするに当たり、二人には高遠から来た商人の振りをする様に言われておる。その際に伊那屋の屋号と黒松飛助・志麻と名乗るが良い。」


「「承知しました!! 例え武田より離れてても我等の忠誠は、四郎様に捧げておりまする!!」」



 続いて、上方と四郎の元を往復して情報を定期的に伝える者を選んで伝えた。



猫有光江(みょううこうこう)に田上心三郎よ、其方等(そなたら)二人には上方と四郎様との間の情報の往来の任務についてもらう。光江(こうこう)には白拍子の姿に、心三郎は馬喰(ばくろう)に扮して、任務に務めてもらう。」


「「ははっ!! 四郎様の為にも身命に尽くして、任務を果たします!!」」


「他の者共は、拙者と一緒に四郎様の身辺警護を務める故、抜かるでないぞ!!」


「「「ははっ!!!」」」



 又五郎から任務を受けた黒鴉の飛助ら四人は、その日の内に準備を行い、すぐに上方へ旅立っていった。

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