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越後の龍

 高梨摂津守政頼は、敗残兵を纏めて本拠地中野小館城に逃げ込んだが次は村上勢急接近の報を受け、守り切れないと思い高梨一門や家族を連れて、詰め城の鎌ヶ岳城まで落ちてった。


 村上周防守義清は、このまま高梨摂州の首を取ろうと追撃をしようとしたが、越後から来た騎馬のみの軍勢に気が付いて、そちらに使者を送って接触を果たした。



「殿、申し上げます。越後から来た軍勢は、石川三郎様が連れてきた援軍でありました!!」


「おおっ!! まさか上杉越州殿は高梨勢を破り、信濃まで援軍を寄越してくれるとは!!」



 村上防州は、この時初めて頼りになる味方を得た気がして、早速上杉勢に合流を申し付けると騎兵ばかりの上杉勢はすぐに村上勢に合流してきた。


 そこでお互い顔合わせを行うと、村上防州は上杉勢の大将は柿崎弥次郎景家と勘違いして話かけてきた。



「本当に助かった!!上杉越州殿がまさかこんなに早く進軍してくれるとは、しかもこの様な立派な侍大将を送ってくれるとは、実にありがたい!!」



 勘違いしてる村上防州に柿崎弥次郎は、本当の事を言い辛そうに話始めた。



「ああ、誠に済まないが(それがし)は柿崎弥次郎景家で、こちらにおられる御方こそが此度(こたび)の遠征軍の総大将、越後守護上杉越後守定美様の御嫡子で上杉弾正少弼景虎様である。」



 柿崎泉州から紹介された人物を見て、村上防州を始め村上家の諸将達は大変に驚いた。


 柿崎泉州の傍にいた細身の美少年が此度(こたび)の援軍の総大将と知り、この上杉弾正少弼の行ってきた行軍にまるで南朝の北畠顕家を彷彿させるかの様に思えてしまった。



「村上防州殿、本当に済まないが四つの事を謝らせてもらう。私は北畠右府様とは違って、そこまで優れた者ではない。後、大雪が積もるから、このまま長く信州には留まれぬ。そして越後は、義父上杉越州と我が兄長尾左衛門尉晴景との戦が続いて、越後は統一されておらぬ故、大軍を寄越せぬので騎兵のみでやって来た。だから武田家を追い払うまでの戦力は足りぬ。」



 景虎は、本当に無念そうに言うと村上防州を一時的に救う事は出来るが、村上家の領土を取り戻すのは難しいとの判断を示した。


 景虎から、話を聞いた村上防州は決意を露わにして、景虎と柿崎弥次郎に語をした。



「態々(わざわざ)栃尾城から駆けてきてくれた事に、誠に感謝いたします。上杉勢が長くとどまれないなら、我々は葛尾城へ戻り一族達と共に城を枕にして、討ち死しましょうぞ。」



 村上防州の覚悟を聞かされた景虎は、村上防州に出会うまで考えてた策を話す事にした。



「防州殿、私達がここにやってきたのは貴方を見捨てる訳ではありません。今、攻めてきてる武田勢を一時的に退かせ防州殿の一族を救い、一旦信濃から越後へ逃れて我々が態勢を整い次第、再びこの地を奪回しましょう。」


「上杉弾正少弼殿、本当に(かたじけな)い。」



 村上防州と家臣達は、上杉越州への援軍要請を行った際、このような事を言われると想定していたのか、景虎の言葉に素直に受け入れ、事前に別の館へ避難させてた一族や家臣達の家族へ連絡して、先に越後を目指す事に村上防州は決めた。


 そして今、葛尾城にて決死の時間稼ぎを行ってる杵渕(きねぶち)左京亮国季を救出する為、上杉村上連合軍は、このまま葛尾城を目指して突き進んでいった。



 ____________________________________________________________




 十二月五日、武田大膳晴信は、北信濃で孤立させた村上周防守義清を成敗する為に、甲府から二万の軍勢を率いて出陣する事にした。


 しかし甲府に集めた武田勢二万がそのまま一丸となって出陣する訳ではない。


 先日の軍議において此度先陣を任せたのは、小山田出羽守信有。


 小山田家とは、晴信の父信虎の時代までは武田家と敵対していたが小山田羽州の父小山田越中守信有が信虎の妹を娶り、武田一門入りをした。


 武田一門衆となった小山田家は、数々の戦場において先陣や別動隊の大将を任される程、武門の家として武田家家中では有名だった。


 此度(こたび)の村上攻めでも先陣を任され、郡内衆二千五百余りを率いて十二月四日に出陣しており、村上家の主力が野戦を挑んできたら迎撃する役目を担った。


 また途中小山田羽州は、上原備中守昌辰と真田弾正忠幸綱の兵三千と合流する事で、兵五千五百となり迎撃に出てくると思われる村上防州の兵力を釘付けにして、村上勢の支城への救援を絶つ計画だった。


 続いて、馬場民部信房、山縣三郎兵衛尉昌景、工藤左衛門尉昌豊、春日弾正忠虎綱が第二陣として、其々(それぞれ)兵二千を率いて出陣していった。


 そして十二月五日に武田大膳大夫晴信と武田信濃守喜信が本隊一万を率いて、最初に有力支城の塩田城を攻め落としてから、葛尾城を攻める計画を立てた。


 十二月八日、先陣を務めてる小山田勢は、上原備中と真田弾正忠の軍勢三千と合流を果した後、村上家の本拠地葛尾城下まで進軍させた。


 斥候を送っているとはいえ、迎撃してくるであろう村上勢が籠城の構えを見せてるのに、小笠原勢の諸将達は(いささ)(いぶか)しめたが、高梨家と武田家に挟まれた村上家は国外からの援軍はとても望めない状況だったので、城を囮とした伏兵などを警戒しながら葛尾城を包囲した。


 この時村上勢本隊三千は、高梨摂州の中野小館城を襲撃して、高梨摂州を破り陥落させいており、敗れた高梨摂州は鎌ヶ岳城に敗走し、その後越後から来た上杉弾正少弼景虎と合流し、兵四千余りになって再びこちらに向かっていた。


 敗れた高梨家からの急使が届いていれば包囲など行わず、葛尾城から離れた場所で陣を張り、武田本隊を待っていたが、その様な情報は届いていなかった。


 十二月九日の朝から、小山田勢五千五百は真田弾正忠と上原備中の兵三千が、葛尾城を攻めながら小山田勢二千五百が二部隊を守る様に配置していた。


 葛尾城に籠った杵渕(きねぶち)左京亮は、少ない手勢ながら武田勢に怯む事なく抵抗しているので、武田勢も真田弾正忠が重傷を負うなど、死傷者が続出して一旦攻め上げる事を控えた。



「備中殿、真田弾正忠が投石に当たり大怪我負われ後方に下げたので、代わりに(それがし)の兵が入れ替わり城攻めに参加させてもらった。」



「承知しました。明日にでも馬場民部殿達八千がこちらに来られる予定ですので、真田勢を後方に下げても宜しいと思います。ただ後方の警戒を(おろそ)かに出来ませんので、真田の一部は残して貰いましょう。」


「うむ、そしたら真田弾正忠の弟君(おとうとぎみ)に残って貰おう。」



 小山田羽州と上原備中は、真田弾正忠の負傷した真田弾正忠の代わりに副将の矢沢源之助頼綱を真田勢の代将に任じて、負傷した真田弾正忠と負傷兵を伴野刑部少輔貞慶が守る前山城への後退を命じた。


 戸板に乗せられた真田弾正忠を見送りながら、夕方まで未だ頑強に抵抗してる葛尾城への城攻めを一旦止めて、明日早朝から再開する事に三人で決めた後、各々(おのおの)の隊にて野営の準備を行った時、真田勢を預かってた矢沢源之助から、小山田羽州と上原備中の元に急使がやってきた。



「村上勢から、真田隊の備えに強襲をかけてきました!!一部見た事ない旗印の騎兵達が、真田隊を突き抜け、物凄い勢いでこちらへやってきます!!」



 急使から報告受けてる間にも真田勢を突破して、小山田勢に突入してきた騎兵の一団を見て、小山田羽州は驚愕した。



「おっおい!! あの旗印は越後上杉家の物。上杉越州は、村上家に加担したのか!!」



 驚いてる小山田羽州の本陣へ、十数騎の黒装束の騎兵が突入してきて、(たちまち)ち混戦に陥った。


 すると小山田羽州の近習達を次々と馬上槍で討ち果たして、小山田羽州の前までやってくる黒甲冑の大武士(もののふ)がいた。



「貴公がここの大将であるか? (それがし)上杉弾正少櫃景虎が家臣柿崎弥次郎景家なるぞ。いざ尋常に勝負を御願い申すぞ!!」



 両足のみで馬を操り、一間二尺(3.6m)の馬上槍を軽々の振り回しながら、小山田羽州と一騎討ちを所望すると、小山田羽州も傍にいる小姓に命じて、愛槍を受け取り柿崎弥次郎へ名乗りを上げた。



其方(そなた)、あの越後で有名な越州七郡に敵う者無しと言われた柿崎弥次郎殿であるかっ!! (それがし)甲州武田大膳太夫晴信家臣小山田出羽守信有なりっ!! 越州一の其方(そなた)と相対する事は、武士の誉なり!!」



 大声を上げて長槍を振るう小山田羽州は、柿崎弥次郎の強くて重い槍勢を受け止めながらも何合も反撃を繰り出す小山田羽州を見て、流石近年稀に見る強さを誇る武田家を支える武将かと思った。


 一方、何合も柿崎弥次郎の重くて鋭い槍裁きは、小山田羽州の舌を巻いた。



「くっ、流石越後に敵う者無しの槍裁きかっ!!  まるで三国志の物語にいる張飛の豪槍を受け止めてる様に感じるぞ!!」



 この様子を見ていた小山田家の家人達は、我が殿が危ないと思い横合いから長槍で柿崎弥次郎の馬を突き刺そうとすると、突然法衣を被った騎士が小山田家の家人の頸を馬上槍を突き刺した。



「無粋なっ!! 大武士(もののふ)同士の立ち合いを横合いから邪魔をするとはっ!! 」



 法衣を被った騎士は、柿崎弥次郎の主君上杉弾正少弼景虎であり、僅かな時間ながらも小山田隊をズタズタに引き裂いて、小山田羽州以外の近習達を打倒して、目前の状況を作り上げた。


 そうしてる間にも小山田羽州の身体は、柿崎弥次郎の槍を八十合余り受けてるうちに数度当てられており、もはや槍を振るう腕力すら無くなっていた。


 覚悟を決めた小山田羽州は、腹を決めて柿崎弥次郎へ手柄を与えようと言葉をかけようとした時、突如陣幕の裏から喚声が聞こえてきたと同時に、数発の鉄砲の破裂音が傍で聞こえてくると、小山田家家臣小林和泉守昌喜が数十人の足軽達と共に救援にやって来た。



「殿っ!! 御救いに参りましたぞっ!!」



 小林泉州は、瀕死になってる小山田羽州を救い出して、柿崎弥次郎や景虎達の間に入り込んで、主君を守る為の壁となった。


 それらの武士や足軽達の壁を軽々と槍で刺したりして、小山田羽州に近づこうとしたら、景虎が止めた。



「弥次郎よ、小山田家家人達の忠義に免じて、ここは見逃してやれ。我らは武田勢を葛尾城の包囲を解かせるのが今回の目的である。夢中になり過ぎるな。」



 景虎がそう言うと、小林泉州達が小山田羽州を連れ出して戦場から離脱するのを見逃してやり、村上防州の軍勢と戦い、未だ退かずに抵抗している上原備中の軍勢へと矛先を変えた。



















村上防州や村上家家臣達は、法衣を被った景虎の事を女性だとは、全く気が付いておりません。

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