俺、言いたい事を言ってしまう
なんか支離滅裂です。
「父上、恐乍言います。僕は・・・命ある限り生きたいです。前世では、生きてる証はたくさんの知識を得る事でしかなく、前世で得た記憶が実際正しいのかも知らない。だが本当の人生は、四郎が初めてなんだ。 そして僕しか知らない事は、僕の大切な人達や家族を護る為に使いたいんです・・・・」
父上は、俺の前世の身の上話と己の死後の武田家の行く末を聞いた後、暫く長考して、俺が武田家へ害する存在になるのか判断しかねていた。
「四郎よ、儂が今から言う事を聞け。 最初に言うが四郎には武田家の家督を譲る事はあり得ない。諏訪家の家督も寅王丸の物で、其方に渡す事も出来ない。したがって高遠頼継の名跡を継いでもらう事に決めた。それで其方は進んだ知識を記憶してるが、戦国の習いを知らぬ。したがって四郎が持つ知識の危険度が測れないので、必ず武田家当主(現状は父上)の認可を貰わなくては使用する事を厳禁とする。もしそれを破った場合に、武田家への謀反と見なす。」
中々厳しい事を言われたが、当面は殺される可能性は低くなったと思った。そして当面は、俺に監視を付けて四郎の行動が武田家への仇になるかどうか見極める事にしたみたいだ。
「御屋形様、四郎が高遠様の継子になるのならば、伊那高遠城へ移住しなければいけないのでしょうか・・・」
父上からの沙汰を聞いた母上は、産まれたばかりの俺が取り上げられて、高遠頼継の養子へ送られるんじゃないかと不安になって考えたようだ。すると父上は、母上の不安を和らげるように言った。
「四郎を高遠家の養子に送り家督を継がせるが、元服するまでは高遠頼継共々甲府にて止めおく。」
そう父上が母上に伝えると安堵して、再び俺の言葉を聴こうとした。俺は今後のやってみたい事を伝えた。
「父上母上、我々が暮らしている甲斐信濃は、貧しい上に沢山の国人衆が分かれて争ってるので、より貧しさに拍車かかっています。今、僕が伝えられる事は、常に不足してる食料増産の為の農業を知識で得ました。もし何人かの専門家を僕の元にて知識を伝えて、僕の代わりに実戦してもらいたいと思います。」
さらに俺は言葉を続けて言う。
「三月より田植えが始まりますので、僕が口伝にて言う道具を製作して、百姓に渡してください。おそらく天災が無ければ、秋には米の収穫量を増産できると思います。米が不向きな時には、飢饉に強い麦や蕎麦、稗、粟を作り、収穫後は大豆を植えて、さらに大豆収穫後は明渡来の野菜ホウレンソウや家畜の飼料用のカブ等を植えてください。実物、根物、葉物を各一年毎に廻して作付けしたら作物の病気や収穫量低下を防ぎ、土地の荒廃を防ぎつつ収穫量を増やせます。そういえば甲州八珍果も作ってみたいし、椎茸の栽培を行いたいし、是非作物以外も桑を増やして、蚕絹を生産もいずれやってみたいし。」
「あと武田軍将兵を頑健にする為に豚を飼育したいです。豚は一度に子豚を10頭産み、妊娠期間は約四か月、年に二度出産して八ヶ月で出産出来る成豚になります。そして豚を食するのは、人間の病気の予防(体力回復)となり、病にかかる民衆が減ります。また鶏も将兵や民衆を頑健にする為に欲しいです。鶏は生後六ヶ月で産卵可能で、年間約250個産んでくれます。鶏は雄無しで卵を産む為に仏教の殺生の禁忌に触れないので、この教えが広まれば僧侶も卵を食する事が可能で、寺院仏閣でも養鶏をやらせる事が可能だと思います。」
「続いて、農耕牛の普及に搾乳牛の普及もいずれやってみたいし、作物生産に不向きな高原で羊毛を得るのに羊を飼育したいです。あと百姓の負荷を減らす為の道具がいくつかありますが、それは職人に指示しないと伝わらないかと思います。」
「四郎よ、こんなに甲斐に生産できるのか?こんなにたくさん作るとしたら武田家の資産じゃ足りないぞ。」
「父上は、このほかにも南蛮商人を通じて、飢饉に強い作物をいくつも入手してほしいのですよ。この時代飢饉にて、土地を捨てる流民がたくさんおり、河原者や山家者も甲斐や信濃には多いです。彼等を味方に引き入れて、新たな産業の従事者にも育てたいのですよ。」
すると父上は、余りの数に驚愕しながらも頷いて、後で役人に用意させると承知してくれた。さらに父上にお願いしてみる。
「父上、甲斐国で取れる金の産出量を増やす方法があり西国の方では行われておりますが、未だ武田家中では行われておりません。誰か西国に人を派遣して、合吹きや灰吹法を身に付けてもらいましょう。さらに南蛮人は、南蛮吹きと言う技術を持ち、粗銅や鐚銭の中から金銀を取り出す技術も知っております。本来なら、今から四十五年後に和泉国の蘇我理右衛門と言う銅商が南蛮人の技を教わって、その技術を元に南蛮吹きと言う精錬技術を身に付けます。」
「この技術を元に銅や鐚銭を再精錬して、金銀を入手して精錬された銅は再び銅銭へと作り替えられました。この技術は古くから明や朝鮮で知られていた技術であり、大陸出身国商人が日ノ本の粗銅を買い漁る理由であり、日ノ本商人が大損してました。さらに今から300年後の時代には、日ノ本を統治してたその頃の政府が諸外国の圧力により、不平等条約によって格安の値段で海外流出し、我が日ノ本は長きに渡り条約改正するのに五十年近くかかりました。」
「四郎よ、その時の天下人は誰だったのだ。」
「今は、今川家に従属してる三河国の松平氏で御座います。松平氏はのちに徳川氏と改名し、我が武田家と敵対して、織田家と共同に武田家を滅ぼしました。そののち織田家も謀反で滅び、さらに織田家家臣の羽柴秀吉が日ノ本最大勢力となって天下人になりましたが、初代秀吉が亡くなると徳川氏が豊臣氏(羽柴氏)を滅ぼし、250年に渡る幕府を作り、その幕末に諸外国と交渉したのが徳川幕府と言う僕の時代の歴史でした。」
「なんと!遥か先の話ながら、日ノ本がそのような困難に陥ろうとは。」
「父上、まだまだ日ノ本の苦難の歴史は、序の口です。その後日ノ本は何度も諸外国と戦争が起きます。そして国家の限界まで戦い続けて、最後には日本全土が焼け野原となり300万人が戦争が原因で亡くなりました。」
余りの規模が大きい話なので、父上母上は絶句してた。
「しかし現状武田家に関わる話ではありませんので、そんなに気にしないでください。僕が武田家に産まれた事自体、本来あり得ない事。だから未来の日ノ本を考えるなどと烏滸がましいです。だから今は家を護る事に専念したいです。」
その後も話が続けられたが、正式に俺を護る為の傅役と近習を付けると言い父は退出した。
甲州八珍果 葡萄、梨、桃、柿、栗、林檎、柘榴、胡桃
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