表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/155

美濃の蝮

 天文十七年、斎藤山城守利政は、それまで昨年まで何度も合戦を繰り返していた、宿敵織田三河守信秀と和睦を行う事に成功し、和睦の条件に前妻小見の方の息女帰蝶を織田三州の嫡男三郎信長の正室として送った。


 そして織田三州への脅威が薄れた為、斎藤城州は美濃国内の敵を潰す為に軍勢を動かす事に決め、家臣達を稲葉山城に集めて、評定を行った。



「皆、集まったな。前年、織田三州を痛めつけてやった事で、土岐次郎頼純を(よう)して美濃を奪おうとした三州は、儂に頭を下げて和睦を望み、三州の嫡男三郎信長と婚姻を結んでやった。御蔭で今後は美濃統一に全力を注ぐ事が出来るようになった。そして最初に攻めようと思うのは、揖斐周防守光親と長屋大膳亮景興を討伐する。その次は、東美濃を木曽中務大輔から奪い返す。」



 すると日野根備中守弘就、常陸介盛就兄弟が名乗りを上げて、斎藤城州に願い出た。



「殿、揖斐防州は(それがし)等に先陣を御任せください。必ずや頸を持って帰ります。」


「おおっ、五郎左衛門に弥次右衛門、二人共頼もしき武者よ。是非、其方(そなた)等に御願いしようぞ。」



 斎藤城州は、膝を叩いて日野根兄弟は頼もしき(なり)と喜び、二人に兵二千を授けた。続いて、武井肥後守助直が長屋大膳亮を攻めるを希望して、それも斎藤城州は了承した。


 続いて揖斐防州や長屋大膳亮より、勢力が大きい東美濃攻めには、親族衆の井上忠左衛門尉道勝、長井隼人佐道利に命じた。



「武井肥州には兵二千、井上忠左衛門尉、長井隼人佐には兵六千を預けるので、美濃国内の敵を成敗せよ。また木曽家や岩村遠山家、苗木遠山家から援軍が来るかもしれん。その時は無理に明智城を落とさなくても良い、日野根兄弟や武井肥州の兵を集めて改めて攻める。」


「「「承知いたしました!!」」」



 最後に斉藤城州は堀田孫右衛門正定に銅銭千貫文と美濃の名産品を持たせて、木曽家と紛争してた飛騨国桜洞城の三木右兵衛督直頼に使者として派遣し、木曽攻めの依頼を命じた。


 このようにして美濃統一に向けて、各地へ軍勢を派遣した斎藤城州は稲葉山城にて、どこの場所にでも後詰に参られるように臨戦態勢を取って待機した。



 ____________________________________________________________




 斎藤勢の各派遣軍は三月七日に稲葉山城を出陣し、明智城には二日後の三月九日に到着した。井上忠左衛門尉は長井隼人佐に命じて、城の周辺の惣郷を燃やし尽くして、領民を明智城内に追い立てた。



「兄上、百姓の奴等を切り捨てなくていいんですか?」



 弟の長井隼人佐が井上忠左衛門尉に聞いてくると、弟の疑問に答えてやった。



「隼人佐、この戦いは木曽家や他の遠山家からの援軍が来るので、無理に足軽達を損耗したら、野戦を行う時に苦しい戦いになるだろう。我々は殿の御蔭で補給物資は豊富だから、もし半年間兵を動かしても斎藤家には、豊富な軍資金があるので持久戦に持ち込んだ方が良いと殿の御考えだ。」


「兄上は、敵将の頸を欲しくないんですか?」


「儂は隼人佐と違って、余り出世には興味ないな。出来れば儂は茶の湯をやりたいものだ。」



 明智城に追い立てられて周辺の民衆二千余りが、明智城に迎え入れられた事を確認した井上忠左衛門尉は、周囲の警戒、特に東方面を重視して斥候を出して、木曽勢や遠山勢の援軍を警戒しながら、明智城を包囲した。


 明智家家臣妻木藤右衛門広忠は、斎藤勢が力攻めを択ばず包囲して、籠城戦に持ち込まれた事での兵糧の減り方を気にして、明智兵庫頭に伝えてきた。



「殿、明智城に民衆を受け入れましたが、兵糧はこのままだと十日余りで切れてしまいます。」


「藤右衛門よ、援軍が来るまで食料が持たないのなら、皆に配る食料を半分にして持たせるしかない。それでも駄目なら、儂の頸を蝮にくれてやるわ。」



 明智兵庫頭光安の悲痛な発言は、家臣達は玉砕覚悟で行くしかないと腹を(くく)らせた。


 そして斎藤勢が包囲してから、八日経った三月十七日に岩村・苗木遠山家勢三千余りが恵那方面が進軍してきた。



「殿!御味方がやって来ましたぞ!!」


「おおっ、やっと来たか!!遠山勢が攻撃を仕掛けたら、こちらも出撃するから、皆準備しろ!!」



 しかし遠山家連合軍は兵力が不利なのを悟ってたのか、明智城を包囲している斎藤勢と距離を開けながら着陣して、その場から動かなかった。


 未だ傍観してた遠山連合軍に城を護る将兵達は動揺が起き始め、明智兵庫頭は苦悩が続いたが、その日の夜中、包囲してる敵勢の中で騒ぎが起きてるのを、城内から解った。


 だが遠山連合軍が夜襲している雰囲気ではなく、斉藤勢の一部のみが騒いでいたので、そのまま様子見していたら、明智兵庫頭の弟明智治右衛門光久が慌てて知らせにやってきた。



「兄上、誰か斉藤勢の包囲を破って明智城にやってきました!!」


「なんだと!! 岩村や苗木の者達は、儂等の事をまだ見捨てていなかったみたいなのか!!」


「突破した若侍は入場を求めてますが、入れて宜しいか?」


勿論(もちろん)だ!! すぐにその勇者を援護してやれ!!」


「承知しました!!」



 明智兵庫頭が了解するな否や明智治右衛門は、二十人ばかりの騎馬武者を選び城門の上には弓兵を配置して、遠山家からの使者を援護して迎い入れた。


 そして迎い入れた使者に早速明智兵庫頭は面会して、遠山連合軍からの(ことづけ)を聞く事にした。



「こんな危険な目に会ってまで、よくぞ明智城に来てくれた。籠城してる者達を代表して、本当に感謝したい。」



 そう言うと使者の両手を握って、明智兵庫頭の他家臣一同は嗚咽(おえつ)しながら、感謝の意を表した。



「明智兵庫頭殿、拙者は遠山民部景行家臣吉村太郎左衛門氏勝でござる。今岩村遠山家、苗木遠山家はもうすぐ到着する木曽家の援軍を待ってから、斉藤勢に一戦を挑もうと思う。しかるにそれまで明智兵庫頭殿には、奮闘していただきたい。」


「あい分かり申した。木曽勢との合流してから救援に来るならば、こちらも頼もしい。」



 籠城してた明智側は、吉村太郎左衛門が斉藤勢を虚を突き明智城へ入場した事で士気が上がったが、斉藤勢の方は井上忠左衛門尉と長井隼人佐は、油断した訳ではないが遠山方が送った使者が思いの外の驍勇を振るったので、あ奴は誰かと周囲の者に聞くとあれは茄子川惣郷の吉村源斎と言う豪勇の士だと知って者がいた。


 井上忠左衛門尉は嘆息して、弟の長井隼人佐に吉村源斎を羨んで言った。



「隼人佐、(それがし)もあれ位身体に恵まれて機知に富んでれば、明智城攻めももっと積極的にやってただろうよ・・・・」



 長井隼人佐は斉藤城州が無理する必要ないと言う意味が、あのような猛者達を幾人も遠山勢が抱えているのなら、力攻めは難しいと思うと同時に斉藤城州の洞察力に改めて、驚かされてしまうのだった。









吉村太郎左衛門氏勝 吉村源斎とも呼ばれる。 美濃国恵那郡坂本の茄子川畔の惣郷生まれで、誕生時体重が四貫匁(約15㎏)あったと言われる。生まれた瞬間にオギャーと鳴いたらすぐに走り出して、親が抱き止める前に木曽川の断崖から飛び込んで、十町(約1㎞)を泳いで魚を捕まえ、悠々と戻ったと言う伝承を持つ。


十三の時、武者修行で西国に行き各国の様子を見聞してきた。見聞から戻る直前に、家の者に土産を買う事を忘れた事に気づき思案してたら、ふと木曽川の水辺の淵を覗いたら体長六尺(1.8m)の鯉が泳いでるのが見えたので、着物を脱いで褌一丁になると源斎は傍にあった三十貫(約120㎏)の大石を持ち上げて、水流が激しい木曽川に飛び込み、大石を掴んで重し替わりにして流されぬようにしながら、足で踏ん張りながら上流に歩き鯉を浅瀬に追い込んでいった。鯉は勢いよく暴れたが源斎に掴まれて生け捕りにされ、意気揚々と帰宅した。


十六の時には身長六尺(約180㎝)を越えた。ある時、隣の婆が買い物に行くので源斎に留守番を頼むと、出かける前に空腹になったら、そこに置いてある餅を食べなさいと言われてたので、多めにして突立ての餅二升分が全て食べられて無くなってた。


婆は大食いに驚き腰を抜かし、そんなに大食いなら力も並はずれだろうから一度見せてくれと言うと源斎は快く傍にあった庭石に向かってボコボコ殴ると拳と同じ大きさの穴が殴った分だけ開いたので、再び驚愕したという。


大人になると源斎は多くの武士を家臣とし、坂本一帯の国人衆となる。源斎はただ力が強いだけでなく家臣や百姓達と一緒に野山を開墾し、水路や農具を作り領地を豊かにする統治で、武田信玄の耳にも源斎の名が届き、出仕を望まれたと言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ