魂の器
父晴信相手に自分の存在意義を語りますが、ご都合主義の内容です。
父上が眼光鋭く俺を睨みつけると、母上以外を全員部屋から出るようにと言って外に出すと、俺はビビりながらも前世の事を語る事にした。
「僕の前世は、今いる時代から五百年先の時代に生まれました。そしてその時代と言うのは、今の時代と違い、日ノ本に戦乱無き時代で人々の暮らしも全く違っていました。」
俺は続けて言う。
「前世の僕は、産まれながら五体が不自由で、寝台に寝かせられながら治療を受ける日々を続けました。その時代の日ノ本には、身体を横になりながら色々な情報を手に入れる器具がありまして、時間があれば日々興味がある事を一杯調べていまして、戦記物語とかが好きだった僕は後世から言われるこの時代(戦国時代)に関する文章をたくさん読み漁りました。」
父上は、自分の赤子の形をした化物か何かを見てるような視線を続けながらも俺に話を続けさせる。
「不治の病のせいで、満足に学校も通った事のない僕はたくさんの情報を知る事が楽しみでしたが、不幸にも病気が進行して命を落として、気が付いたら父上と母上の子息として誕生した次第です。」
父上は、いつの間にか俺が一杯情報を知りえた環境を羨んでいるような表情となり、母上は前世の俺が不具者で若くして亡くなった事に悲しみのあまり涙を流して、赤子の俺をぎゅーっと抱きしめていた。
「御香よ、あまり強く四郎を抱きしめるな。四郎が苦しがってるぞ。」
母上は、四郎を強く抱きしめた事に恥じいり、耳まで顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「四郎よ、我々の子として誕生して、お前が前世で得た知識はどこまでわかるのだ。」
「正直、産まれて一週間の僕に前世とこの世の違いは全く分かりません。しかし一つ言えた事は、僕の知ってる祖父諏訪頼重は、前世では武田家へ裏切りを行ったとの疑惑によって、天文十一年七月に甲府にて自刃しており、禰々叔母上も祖父が自刃した半年後の天文十二年一月に憔悴して亡くなっております。さらに寅王丸も僕が誕生した事によって、一部の者共に担がれて謀反が起きてしまい、その後の寅王丸は歴史の記録からは消えております。」
母上は俺の言葉を聞いて、顔を真っ青にして父上の顔をずーっと見てたので、父上はそっと母上の肩に手を乗せて安心させてた。
「御香よ、心配するな。四郎が言う話は、どうやら今の状況とは微妙に違う。それで、四郎が知ってる世界の武田家の行く末をこのまま語るんだ。」
そういうと涙目の母上の気持ちを落ち着けさせた。俺は母上の様子を見ながら再び語り始めた。
「様々な事がありますが近年の話でありますと、僕が誕生した天文十六年五月に父上が佐久郡へ出兵してる最中、武蔵国河越城にて北条氏と関東諸連合軍が合戦を起こして、北条氏康は劣勢の中夜襲で連合軍を破り、扇谷上杉朝定他、有力武将が討ち取られてしまい扇谷上杉氏が滅びます。」
それを聞いた父上は驚愕していた。武田家にも以前から関東管領から、北条家の相模足柄郡を餌に出兵を請われていたのだから。出兵する気は無かったが、生まれたばかりの赤子がこんな軍事機密を知る訳ないので、神妙な顔つきになって俺の話に飲み込まれていった。
「続けて武田家への重要な出来事はありますが、実は僕が四郎になって誕生した理由は僕の暮らしていた世界の歴史に関係があるのではないかと思いました。」
「四郎よ、その歴史とはなんだ?」
俺は覚悟を決めて父上に言う事にした。
「武田家の試練は沢山ありましたが、最初の試練は北信濃の村上義清と争い、上田原と砥石城の戦いで、二度敗北しました。しかし武田家に仕官してきた真田幸綱が幾度も活躍して、村上氏を越後へ追いました。」
父上は、元々読書好きなので、俺が話す内容に興味を持たれたようだ。
「だけど越後に逃亡した国人の中で、北信濃の高梨氏は越後の長尾氏と姻戚関係であり、長尾氏の本拠地春日山城に近づいてくる武田の勢力圏が長尾氏の脅威になり、長尾景虎が信濃国人衆救援を名目に、北信濃へ侵入します。この長尾景虎はのちに関東管領職と山内上杉家家督を譲られて、関東管領上杉氏を名乗り、武田家とは北信濃川中島を中心に十二年間も戦い続け、信繁叔父上を始め山本勘助他沢山の重臣や武将が命を落とします。」
俺は続けて、前世の武田家を語って言った。
「その間、上方では尾張国の織田信長が上洛を行った今川義元を討ち取り、その後美濃国を制圧して流浪してた足利将軍を奉じて上洛しました。武田家は今川義元を失った駿河国を攻めましたが、嫡男太郎義信と対立して、義信は自刃。その事が北条家や今川家から独立した徳川家等と戦う事となり、一時期同盟国は、上洛した織田家のみになりましたが、織田家と将軍足利家の関係に亀裂が生じて足利家が打倒織田家の書状を各大名に送り、父上は織田家と縁切りをし、将軍家の意向に沿いました。」
父上は、ぼそりと言った。
「某は、嫡男を殺してしまったのか・・・ 父信虎と争った時は父を追放したが、次は息子を殺したのか。酷い父親だな・・・・」
「父上、その後の武田家の話をしましょう。ここから先が僕に関係があるのです。」
父上は、嫡男太郎を殺したと言う前世の話を聞いて、ショックを隠し切れない感じだったが、話を続けよと言った。
「僕の知ってる歴史では、父上は上洛を志向し始めましたが強国に囲まれた武田家では、上洛への道に障害が多くて、元々労咳を患ってる父上は道半ばにして、遠江国にて命を落とします。その頃の武田家は、日ノ本最強と呼ばれておりましたが、父上の後を継いだ武田勝頼が三河国長篠にて、織田徳川連合軍に敗れて武田勢が壊滅します。」
長篠合戦の件になると、俺も自然と言葉に悔しさが滲み出ていたみたいで、母上が俺を落ち着かせようと頭を撫でていた。
「某は道半ばにして、病にて倒れてしまうのか。して嫡男の太郎が勝頼なのか?」
父上は、もう俺の事を妖の類などと思うような態度では無くなっていた。
「武田四郎勝頼。前世の四郎が太郎兄上が亡くなった後に武田軍を率いて、長篠合戦にて大敗をさせた張本人です。そして父上の死後十年後に織田家に武田家を滅ぼされた原因作った当主が四郎勝頼であり。そしてここでは産まれたばかりの僕です。」
「父上、母上、おそらく僕は四郎と言う器に入り込んだ、漂流してた魂なんだと思います。」
父上母上は、もう黙って俺の言葉を聞いてくれた。俺は自分が四郎と言う人物の魂を消して、この夫婦が大切にしてた赤子を俺の魂の器にしてしまった。
このままでは、俺の人生は終われない。何とか自分の生きた爪痕を残して死んでやる・・・・
「父上母上、僕はこの先の武田家の出来事を知っていますがそれは前世の話です。このまま僕が語る通りになるとは思ってないし、現に祖父や叔母様が生きてる時点で違ってますが、このままの環境だと畿内を統一する勢力に滅ぼされる流れになると思います。だから武田家を全力で護りたい。その為には僕が知識を出すだけでは、武田家に未来は訪れない。」
「だから父上母上、僕に協力してください。僕は親族同士の相克の争いは嫌だ、太郎兄上を中心の次世代の武田家を創り上げる為の協力をお願いします。」
赤子なので、土下座はできないが父上母上に俺の意気込みは伝わったようだった。
「四郎よ、お前は何をやりたいのだ・・・・」
見落としも多いので、時々修正しております。