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信濃府中を望む

2020 3/27誤字修正

 勝鶴峠の砦の武田勢との睨み合いが続いてた小笠原勢だったが、塩尻峠方面部隊の撤退と離反した国人衆が多数出たとの事で、小笠原左衛門尉は主君で甥の小笠原右馬助長時に今後の方針伺(ほうしんうかが)いをの伝令を立てた。


 その間、小笠原勢は速戦で勝鶴峠を抜ける予定だったのが砦の前で立ち往生状態に陥り、春の雪解け時期ながら、寒さと少なくなった食料のせいで攻め手側なのに飢餓に苦しむ事態に陥ってた。



「左衛門尉殿、小荷駄に残されてる食べ物は、それほど多く残ってる訳ではありませぬぞ。どんなに粘っても後一週間の食糧ですぞ。殿に補給の要請をお願いします。」



 日岐丹州が小笠原勢に随行している小荷駄の状況を伝え、この状況の打破する判断を小笠原左衛門尉に求めた。


 また離反した国人衆。特に問題なのが、ここ塩尻領の主三村駿州が離反した事で、敵地のど真ん中に残された事で、補給も宛に出来ないし場合によっては武田方として敵対する事も考えないといけなくなった。


 小笠原左衛門尉は短く考えた後決断し、小笠原勢の諸将に伝える。



「このままでは、全員討ち死か餓死を迎えてしまうだろう。だから此度(このたび)の戦は残念ながら負けじゃ。しかし負けを認めてもこのまま武田に降る訳にはいかぬ。明日を生きる為に撤退を行う。」


「殿からの命令を待つと武田方の逆襲に巻き込まれるの可能性は大きい。だから儂一人の考えを持って退却を行う。其方(そなた)達は、儂に命じられた事なので、退却した事情を知らないと殿に伝えよ。」



 そう言うと諸将から、悲痛な声を上げた。耳塚作左衛門は、小笠原左衛門尉が一人で責任を負う事に俄然(がぜん)反発した。



「左衛門尉殿!拙者は左衛門尉殿一人に罪を被せる気はありません。拙者も殿に謝罪します!!」



 そして甥の小笠原彦七郎も叔父左衛門尉の考えに不承知して、叔父の考えを改める様に迫った。



「叔父上、出陣した国人衆の中で離反した者達もいますが、ここに残った者達は叔父上と共に最後まで一緒に運命を過ごしたい者達ばかりです。だから決して自分一人で責を被(お)う事を考えないでください。」


「皆の気持ち、よく解った。ここで儂が責任問題を語るよりも、いち早く全員を殿の傍に連れ帰り、再び小笠原家の力とする様に導くつもりだ。」



 その後、素早く撤退準備を行うと小笠原本隊へ合流する為、小笠原左衛門尉の軍勢兵三千は北西へと引き上げて行った。


 堂々と明るいうちに撤退して行く武田勢の諸将は、追撃を行おうと言う者もいたが小笠原左衛門尉の統率を見た馬場民部、春日弾正忠、諏訪刑部らは、意気込む配下を宥(なだ)めて、小笠原左衛門尉の手腕を褒め称えた。



「民部殿、小笠原左衛門尉は誠に名将の器ですね。」


「ああ、小笠原右馬助の配下には勿体無い。きっと御屋形様は、かの御仁を召し抱えたがるだろうよ。」


「民部殿、弾正忠殿、我々も御屋形様からの指示を仰ぎましょう。諏訪への侵攻は頓挫(とんざ)させましたので、今度は我々が小笠原を攻める番でしょうな。」



 それからすぐに御屋形様から、塩尻峠の砦へ諸将に召集をかけたので、三人はそれぞれの副将達に勝鶴峠を任せて、すぐに塩尻峠まで向かった。


 塩尻峠の砦に向かうとすでに武田本隊が辿り着いていて、入りきれない将兵達が砦の周りで野営の準備を行い、それらの将兵達には塩尻領の百姓達が大量の作物を持ち込み売りさばいていた為、臨時の市場が開かれてるようだった。


 馬場民部等三人が本陣に入ると、御屋形様と喜信様と諸将が三人の来るのを待っていた。



「御屋形様、喜信様、御待たせしてすみません。春先の泥濘(ぬかるみ)で、馬が足を取られて速度が上がりませんでした。」



 馬場民部は、本陣に入るなり謝罪したが、御屋形様は鷹揚(おうよう)に気にするでないと言われた。


 そして両職の甘利備前守虎泰が、三人が着座すると軍議を始めると宣言し、最初に武田晴信から語り始めた。


「皆の者、村上防州との連戦で大変疲れてると思うが、此度(このたび)の塩尻峠の戦では、武田方に多数の国人衆の寝返りを成功させた。武田に合力すると文を寄越した国人衆は、仁科氏、三村氏、二木氏、西牧氏、山家氏から届いてる。儂はこれらの国人衆をここに集めて、誓詞を交わしてから林城へ向かおうと思う。これらの方針に何か意見がある者はいないか?」



 すると原美濃守虎胤が意見を言う。



「御屋形様、小笠原家の武田へ味方する諸将を待つと小笠原右馬助の守りの時間を与えてしまうし、村上防州に助けを求める事ありませんか?」



 鬼美濃からの質問に、晴信は軍配者の加藤駿河守虎景に説明させる。



「加藤駿州よ、鬼美濃に説明してやるが良い。」


「ははっ。まず村上防州からの増援は限りなく低いでしょう。二月の時、村上防州が我等と戦ってた時に小笠原右馬助は、漁夫の利を狙い傍観していた節があります。今回、小笠原勢だけで村上勢の二倍以上動員しながら、諏訪へ侵攻をしませんでした。つまり我々武田方を苦しめようとする智謀が働かず、己(おのれ)の欲望や信濃守護職と言う傲慢な心が戦機を逃したのです。」


「また小笠原方の防備の事ですが、小笠原右馬助は武田勢の備えの他にも離反したした国人衆の相手も必要になります。そうしないと我々ばかりに注目しても右馬助の天領が離反した国人衆に切り取られて行くのです。我々に味方してくれる国人衆だけでも四千余りの軍勢になりますので、これらの離反者を潰すとなれば、短期間では終わらないと思います。」



 次に質問してきたのは、小山田出羽守信有が聞いて来た。



「小笠原勢が引いたのは輜重の不安があっての事で引いたと考えるが、我々武田勢も足軽達は早く惣郷へ戻り、農作業をやりたがっておる。此度の出兵は、いつまでを目途に行うかと考えられてるのか?」


「此度(このたび)は、二月から行われてる出兵が長期に亘(わた)って行われてますが、武田方に離反してきた国人衆を遣えば、三月末までに動員解除が可能になられるかと試算しております。ただ戦は想定外の事が多く起きるので、もし小笠原右馬助を倒せなくても、小県・佐久の時の様に離反した国人衆の領地だけでも最低限確保しようと思ってます。」



 甘利備州は、他に意見がある者はいないかと諸将に問うとこれ以上の意見が出なかったので、陣立ての割り振りを決める事にした。


 そして此度(このたび)小笠原方から武田方に離反した国人衆を集めた後、府中に侵攻する事に軍議で決められた。


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