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親子の血戦

名前が伝わってない諸将は、独自に名付けてます。

 板垣駿州を睨みつけた禰津里美であったが、父禰津宮内大輔元直と兄禰津勝直から叱責を受ける。



「里美!駿州様に失礼だぞ!! 板垣駿州様、どうかこの愚かな娘を持った(それがし)が責任を持って連れ帰しますので、駿州様への御無礼をどうかお許しください。」


「里美、お前は増長しておる。その様な者は、ここにいては武田の結束を揺るがす(ゆえ)、早く禰津館に戻りなさい!」



 普段は温厚な二人は、里美の底知れぬ増長に怒りを見せて、初めて見せる姿に里美は衝撃を受けたが禰津家で一番武芸が優れてるのは(おのれ)だと分かってたので、ここは一旦引き上げる振りをして武田勢の後方に廻り、合戦途中から参加する事に決めた。



「分かりました父上、兄上。私は禰津館に戻りますので、どうか二人共御武運を。」



 里美は、板垣駿州には顔も向けずに早々に引き上げてしまった。


 その後、真田弾正忠幸綱が着陣の挨拶来るまで、板垣駿州と禰津親子の間には、言い知れぬ緊張感に満ちていて、内山城代の上原備中と板垣勢副将の荻原豊前守昌明が板垣駿州と禰津親子の間を取り持って、何とかお互いに自重した。


 そして出陣前に我の強い者同士の衝突が、後々戦の影響を与えてしまう。



「村上勢と当たるに先陣を真田弾正殿に任せたいのだが、宜しいか?」


「その先陣、(うけたまわ)りましょう。」


「続いて、右翼左翼の陣は、上原備中殿と禰津宮内殿に宜しくお願いします。」


「駿州殿、承知しました。」


(かしこ)まりました、駿州殿。」


「皆の将、この板垣駿河の采配に御任せしてもらいたい。そして村上防州には、砥石攻めの借りを返さないと儂の矜持は傷ついたままであるからにして、全力で挑む所存である。」



 こうして板垣駿州勢四千余は、各隊の配置を決めると村上勢のいる前山城へ向かって進軍を始めた。


 一方村上防州も諸将を集めて、軍議を行った。



「皆の者に言う。明日の野戦、相手は武田の両職板垣駿河守信方等が相手だ。その上で問うが明日の板垣勢は、どう崩してやろうかと意見のある将はおられるか?」



 薬師寺右近清安が意見を述べた。



「板垣勢を監視してた細作の情報によると、板垣駿州は諏訪から進軍してくる武田本隊と挟撃を狙うのではなく、一昨年の砥石城の雪辱を狙ってる節があるとの事。板垣勢が前屈(まえかが)みに軍勢を連れてくるなら、以前のような采配の冴えはあるとは思えず。何か策を講じれば、勝利は得られるでしょう。」


「薬師寺右近の板垣駿州の心境の読み、参考にする内容であった。儂も薬師寺右近と同意見だ、如何(いか)にしてどのような策で板垣勢を破るか?」



 村上防州の参謀格島津左京進規久が発言を求めた。



「殿、(それがし)の宗家に伝わる戦術釣り野伏をこの状況に行うのは、良い機会だと思いますが如何(いかが)でしょうか?」


「なるほどな、左京進。食い気味に進軍してくる板垣勢を()るには丁度良い、皆の将共その他に発言望む者はおるか?」


「皆の者達は、殿の下知に従うのみです。」


「宜しい、これから各配置を行う。」



 すると村上勢一の猛将楽厳寺雅方と光氏兄弟が先陣を賜りたいと申し出た。



「雅方、光氏よ先陣にはさほど将兵は預けられぬし、後退も許されぬ場所である。それでも先陣を望むか?」


「もちろんでございます。我等兄弟ここで討ち死しても本望でございますれば、何卒(なにとぞ)我等兄弟に先陣を申し付けてくださいませ。」



 村上防州は、しばらく考え込むと一番本気で戦ってくれる楽厳寺兄弟の命を惜しむ気持ちがあったが、やがて腹を決めて二人に頼んだ。



「済まない、雅方、光氏、ここで其方達は命を落としてくれまいか?」


「殿!我等兄弟はここで命を捨てますから、板垣駿州の頸を我等の墓に捧げてくれたら供養になります。」



 その後も村上勢の配置が決められて、もうすぐ行われる合戦を待ち受けていた。



 ____________________________________________________________



 内山城にて軍議を終えてから、前山城を包囲してる村上勢と衝突したのは昼頃になってしまった。


 今年の大雪は進軍すら困難にしてる為、一刻で村上勢と会戦が始まる予定が二刻以上の時間がかかっていた。


 板垣勢の先陣を命じられた真田勢兵八百は、村上勢先鋒楽厳寺雅方・光氏兄弟兵五百と激突を始めた。



「皆の者、真田の働きをここに示すぞ!」



 真田勢からは、六尺程の大柄な若武者が馬上槍を持って飛び出して、(たちま)ち数人の楽厳寺衆の足軽を突き刺していった。



「岳父殿! 真田弾正忠幸綱家臣相木盛之進幸雄が一騎打ちを所望する!」



 すると楽厳寺光氏が兄雅方に一声をかけて、馬を前進させた。



「兄上、我が自慢の義息子(むすこ)が儂を名指しで呼び出してきたわ。盛之進の望み通り一騎打ちをやってくる。」


「馬之介、お前の義息子(むすこ)の腕一本位圧し折って、あ奴に参ったと言わせてこい!」


「応っ!」



 真田家の若武者相木盛之進に挑発された楽厳寺勢副将楽厳寺馬之介光氏は、一間半(約2.7m)の六角杖を振り回し大声で吠えながら、六角杖を相木盛之進の頭に向けて叩きつけてくる。



「盛之進!挨拶がてらの一発だ!これ位見切れないと、更科姫と甚次郎を楽厳寺に貰い受けるぞ!」



 その六角杖を首を(ひね)って(かわ)すと同時に、馬上槍を盛之進の胴を薙ぎるように振ってきた。



「岳父殿、更科姫と甚次郎は渡せませぬ! それより(それがし)の槍の鋭さは如何(いかが)ですかな!」



 馬之介は、盛之進の馬上槍を六角杖を立てて受け止め、そのまま馬上槍を(から)め取ろうとした。



「儂の十人力の腕力に盛之進は勝てると思うてかっ!!」



 信州一の力自慢と(うた)われた馬之介が扱う六角杖の技量と力に、危うく馬上槍を落とす所だったが盛之進は、身体を素早く低くして馬之介の愛馬の脇腹を馬上槍の石突きで、思いっ切り引っ叩くと馬は突然の激痛で上体を反らして、馬之介を振り落としてしまった。


 そこに盛之進は、馬の上から振り落とされた馬之介の身体の上に飛び乗り、二人は肉弾戦に入った。



「岳父殿、(それがし)に降参してくださいませ!」



 乗りかかった盛之進は、馬之介を降伏させたいが為に首を絞めて気絶させようとするが、信州一の怪力自慢の馬之介は、逆に盛之進の身体を押し上げて、盛之進の両肩を締め付け上げた。



「盛之進よ!娘婿ながら、ここまでようやった。しかし組打ちで勝負を決めようとしたのは、誤ったな。儂が一番得意な力同士のぶつかり合いは未だ敗れた事は無いぞ!」


「ぐぐっ!がっ岳父殿、勝負はまだ着いておりませぬ。」



 馬之介が盛之進を拘束しようと盛之進の身体を抑え込もうとした瞬間、お互いの間に出来た隙間を見逃さなかった盛之進は、馬之介の顎を狙って膝を何度か打ち付けてやると、馬之介は昏倒し意識を失ってしまった。



此度(このたび)は武士の定めとして、岳父殿と組打ちを行い捕らえる事となった。だが岳父殿を捕虜の身に落とすのも忍びない。更科姫よ、(それがし)を赦してくれ・・・・」



 そう言うと岳父馬之介の頸を短刀で、切り落とした。 


 そして盛之進は名乗りを上げた。



「真田弾正忠幸綱家臣相木盛之進幸雄が、楽厳寺家武将楽厳寺馬之介光氏を討ち取ったり!!」



 その声が戦場へ響いて先陣の真田勢は勢いづき、一方楽厳寺は、大将楽厳寺雅方が後退を命じた。



「皆の者、後退せよ! 後退せよ!」



 楽厳寺勢は二百人以上の遺体を残して潰走気味になった為、本陣に居た板垣駿州は副将の荻原豊州にこのまま全軍進撃を命じて、大雪の中冷たい滑津川を渡河して追撃を行ってたら、板垣勢四千の左右から村上勢が出現した。



「いっ板垣様、左右から敵襲です!!」


「敵襲だと! そんな傍にまで近づいてる敵を見落としたのか!!」



 荻原豊州が状況を説明した。



「駿州様、村上勢はどうやら我等が追撃を見越して、両脇に伏兵を行ってたようです。我等の斥候は、村上勢の足軽達が白い布を被って、身を隠してた事をこの大雪もあり察知出来なかったようです。」


「しからば、両脇の祢津宮内殿と上原備中殿に敵勢を排除せよと伝えよ。また前山城の伴野刑部殿に、村上勢の後背から牽制するように伝えよ。」


「承知しました。」



 奇襲を受けてとは言え、板垣駿河守信方は冷静な采配によって、両脇から攻撃してきた村上勢に対応すると、戦局の流れを読みながら、劣勢な箇所には本陣から旗本衆を送って、戦線の崩壊を上手く阻止していた。


 しかし、村上防州と島津左京介は戦機を呼んで、雨宮刑部正利、小島権兵衛重成、屋代源五郎基綱、赤池修理亮和満を呼び、薄くなった板垣勢中央を突破して、板垣駿州の頸を持ってこいと指示した。



「皆の者、再び板垣駿州を喰らう時が来た!一昨年は、駿州の命を取りそこなったが、今度は貰うぞ。板垣駿州の頸を取った者は、城を一つ与える!」



 その事を聞いた各将兵は、士気が高揚して、即座に突撃を開始した。


 馬之介の頸を討ち取った盛之進は、真田弾正忠と共に前線で戦っていたが、村上勢の反転攻勢が始まって、勢いづいた事を感じて、傍にいる真田弾正忠にこのままでは敵中に孤立しますと伝えた。



「分かった、盛之進。其方(そなた)が駿州殿に伝えよ。村上勢の反撃を耐える事叶わず、至急援軍を要請すると。」


「弾正忠様も御気を付けてください。村上勢の勢いは、尋常ではありませぬ。」


有無(うむ)、承知した。しかしここから戦局をひっくり返すのは並大抵な事ではないな。」



 真田弾正忠は、まずは浮足立つ味方には、集結して村上勢の攻勢を凌ぐようにと足軽達に伝える。


 そして敵の攻撃を受け流しつつ、徐々に後退せよと指示し、村上勢の圧力を横に反らしていった。


 一方、最初に村上勢の反撃を受けた禰津勢は、大変な苦境陥った。


 最初の奇襲で、運悪く禰津宮内が敵襲を受けた時に数本矢を受けて、これ以上の采配が取れなくなる。



「勝直はいるか、其方(そなた)に禰津勢を任せる。決して皆を見捨てるな、一人でも多く生かせ。」



 嫡男勝直にそう伝えると、矢を受けた痛みで昏倒してしまった。



「皆の者、これより父元直に代わり元直長子勝直が指揮を執る。皆、生き残る為に全力を尽くせ!」



 父元直の代わりに指揮を執る事になった禰津勝直は、禰津勢に伏兵として攻撃を仕掛けてきてた、足軽大将原田十郎左衛門に見つかり狙われる事になる。



「どうやら幸運が俺にもやってきたみたいだ。禰津勢の大将頸を見つけたぞ・・・・」



 そう言って、名乗りを上げずに笑いながら長槍を振り回して、勝直の近習達を次々と切り倒していく。



其方(そなた)、名を上げずに我との闘いを望むとは、下種なり!!」



 勝直は、すぐに太刀を抜き、原田十郎左衛門の長槍を受け止める。しかし妹の里美に比べたら、武芸が長じてない勝直は、十郎左衛門の技量に圧倒され始めた。



「くっ、くそぅ、ここまでかっ!」


「お前はまだまだ洟垂(はなた)れ小僧だな。しかししっかり武芸を学ぶ時間があれば、俺と戦えるたげに育つかもしれんのぅ。まあ、そんな事はありないがな!」



 そういうと、原田十郎左衛門は、勝直の頸を狙い長槍を突いた。



「兄上!!」













禰津里美のイメージは、水滸伝の瓊英です。

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