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俺、試される。

間違いとか気になった文章は、後日変更もあります。





 産まれてまだ一週間ほどの四郎が、何か得体の知れない事を喋った。それを生母の香姫が諏訪大明神が神童を使わせてくれたと言った事は、長坂釣閑斎と安倍加賀守の二人が早速報告してきた。


 その報告は、もうすぐ信州小県郡へ侵攻をする準備で対応に忙しかった父晴信の耳にも入った。最初の第一声はこう放った。



「神仏を信じるのは心の安寧を願う為であって、(あやかし)(たぐい)の妄言を信じる為ではないな。家臣が俺を喜ばせようと破邪顕正(はじゃけんしょう)を用意したみたいだが、例え凡人の息子でも俺は軽んじないから、香には安心しろと御伝えよ。」



 つまり父晴信は、迷信みたいな戯言じゃないかと胡散臭く思ってたらしい。その後、武田家当主となるもの、周囲の心地良い言葉で、心乱すなと嫡男太郎に言い聞かせたと言う。


 それに対して、太郎は父晴信にこう答えた。



「父上、武田の家臣にそのような妄言をする輩がいるとは思いません。もしいたとしたら父上が見抜いて、今度発布する甲州法度之次第に照らし合わせて、そのような不届き者の処罰を致置(いたし)まして御座いまする。」



「太郎よ、(おのれ)は何故妄言に耳を貸さないかわかるか。家臣の中には己の立身を望み、家中での混乱を巻き起こすからだ。だからって民衆の中で起こってる信仰などを大将(主君)の心情だけで、毒だと否定してはならない。(まつりごと)を司るというのは、大所高所の考えもって太郎も御意とするのだぞ。」


 父上畏まりましたと言った後、太郎は、(うやうや)しく頭を下げて、太郎の傅役飯富虎昌と一緒に御殿の方へと下がっていった。


「しかし・・・四郎が僅か生後一ヵ月なのに、言葉を口にするとは。単なる成熟が早い赤子なのか、本当に諏訪大明神が遣わされた神童なのか、それとも)胡乱者(うろんもの)なのか見極めに館へ行くか・・・」



 そう呟くと、近習衆の甘利藤蔵(のちの甘利信忠)と三枝宗四郎(昌貞)を連れて、奥御殿に向かっていった。



 ____________________________________________________________



 父上が俺に会う為にこちらへ向かってる頃、俺は少し前に喋っていた事が周囲にバレてしまったせいで、母香姫を始め乳母の比呂や侍女衆達が、俺に話かけながら忙しく世話をしていた。


 俺も喋れた事が知られてしまった為、無視する訳にもいかず出来る限り返答していたが、侍女衆が余りにはしゃいでいた為、乳母の比呂から叱責を受けていた。



「あなた達! そんなに騒いで御香様と四郎様に失礼ですよ。あなた達は四郎様の事を口外するのは厳禁です。もしこの事を口外したら、きっと重大なお叱りがあると思いなさい。」



 比呂は、侍女衆達に口止めを行った後、祖父諏訪頼重や香姫に今後の事を訪ねてみた。



「御香様、四郎様の事ですが御屋形様の御耳に入られた様子、私達は今後はどうしたらよいでしょうか?」



「分かりませんが、私は御屋形様が四郎の事を悪い様にはしないと思ってます。御屋形様は、実に聡明な方で、必ずや正しい御答えを下さるでしょう。」



 比呂が今後の不安を吐露した時に、母はまるで俺がどんだけ素晴らしい神童なのか、父晴信にわかってもらいたいと言わんばかりの喋りを比呂にしていた為、逆に俺は自分が異常に過大評価されてるなと思い始めて、心が怯えてきた。


 こんな状態にさせられた直後に、いきなりここに父上が訪問してきたと侍女から伝えられる。


 早っ!! 父上に何を伝えようか、まだ考えが纏まってなかった・・・・・


 前世の父上は、信心深きながら外連味(けれんみ)を嫌い、幻術を得意とした加藤段蔵を土屋昌継に粛清させた武田晴信は、自らの子息ながら転生してこの時代に知りえない知識を持った四郎を果たして受け入れるだろうか。


 そんな俺の心情も知らず、母上は自分と四郎に会いに来てくれた事を大喜びして、すぐに入室を望んだ。


 御料人様衆の緊張した面持ちと共に父上が訪問してきたとの報告が母上にあった。



「御屋形様、御成りでござる。」



 母上は嬉しそうに、祖父と寅王丸、乳母の比呂に部屋にいた侍女衆達は緊張して、皆少し顔が強張っていた。



「わかりました。ここに御屋形様をお入れください。」



 父上は、近習二人と共に入室してきて、まずは母上の御身体を気遣う。



「御香よ、失礼するぞ。御身の調子は如何(いかが)なものかな。」



「禰々様より御勧めされた牛の乳汁が、(わたくし)の身体に大変合うみたいで、このように身体を起こす事も出来るようになりましたわ。」



「して四郎は健やかにしているか。」



 父上は、母上を気遣った後、俺の顔をじーっと見ている。そんな父上を見た母上は、俺の事を父上が慈しんでると思ってるみたいだ。



「はい、四郎はたくさん比呂の乳をお飲みになられております。そういえば、御屋形様に四郎が諏訪大明神の加護を得たと伝えたくてお待ちしておりました。」



 母上、空気読んでくれ。 父上が俺を見てる視線、あれは前世で見たゴルゴさんが仕事をする時の視線だぞ。



「ほぉぅ、四郎に諏訪大明神が加護を与えてくれたのか。諏訪殿(祖父)も四郎に降りた加護を確認なされたのか?」



 もしかして父上は、俺が諏訪家独立の旗頭に利用される事を危惧してるんじゃないか? そうだとしたら、今の状況って、俺自身良くて出家か幽閉、最悪前世の太郎兄上みたいに死を賜る可能性も出てきた。


 そんな事を俺は焦りながら考えていたら、祖父が父上に返答していた。



「御屋形様、四郎様が諏訪大明神の加護を得たかと問われたとしたら、それは間違いなく加護を得たと断言します。」



 ギャー、祖父が父上にハッキリと言ってしまった!! 転生者と言う概念なんて、チベットの輪廻転生思想を知ってるか、サブカルオタじゃないと理解出来ないはず。



「諏訪殿は、四郎に諏訪大明神の加護を得て、神通力でも使えるようになったと言ってるのか。」



 すると祖父がそれを否定した。



「いいえ、四郎様が神通力が使えるようになったかと聞かれたら、いいえでしょう。しかし四郎様が加護を得たと感じたのは、産まれながらにして武田家への貢献を御考えになられている事を呟いていたのです。」



 父上は、祖父の言い分を聞きながら、一先(ひとま)ず話を聞こうじゃないと言う前世の刑事みたいな雰囲気を(かも)し出して、話の続きを促した。



「どうやら四郎殿は、我が細君禰々が小笠原源与斎から献上された、牛の乳汁の事とこのギヤマンの事を誰も教えてないのに即座に理解して、さらにこの世の事を戦国時代と言う言葉を発しておりました。確かに戦乱が日ノ本各地で起きてますが、大陸の大明帝国が存在する遥か過去に戦国時代と言うのがありましたが、日ノ本では戦国時代と言う言葉は聞いた事がありません。おそらくこの現状を第三者としての立場から発した言葉だと、(それがし)は思います。」



 父上は、信じ難いという感じで祖父の意見を聞きながら、他の周囲の者達の表情を見て、皆の心境を見透かすように言った。



「それで四郎は喋れるというが、今も喋れるのか?」



 誰に聞くという訳ではないが、父上はしっかりと皆に聞いてるように感じだ。その言葉は、俺の心の中でこのままだと皆が父上から責められるんじゃないかと言う焦りを感じてきた。



 ・・・・・本丸に攻めてきた、どうするか・・・・・  ええぃ、もう腹括れ! 自分が何故武田勝頼に転生してしまったのか、思いの丈をぶっつけるしかない!!



「父上、母上、祖父殿、僕は一連の流れの話を聞いて、自分の存在意義を伝える事に決めました。」



 俺が舌足らずな赤子の喋りであるが、父上を始め皆が驚愕して、俺の方を見ていた。



「元々僕は、この時代の人間の魂ではありません・・・・・」



 父上は俺の言葉をはっきりと聞いた上でこう言った。



「四郎、お前は(あやかし)(もの)()か。」












御料人様衆 正室や側室の住む奥御殿を警護する近侍。


甲州法度之次第 四郎勝頼が生まれた翌年に制定した武田家分国法。駿河の今川仮名目録を参考にして、足利幕府支配を否定する家法だが、最大の特徴は武田家当主すら法律の尊重が明記されていることで、最大権力者たる当主自身もその法の対象に含まれており、さらには法の不備あるいは法執行の適正に問題があれば貴賤を問わず申し出るように定めていることで、法の修正の意思すら示したことである。それによって、家中を一つに纒げて他国より国力が低い武田領を運用システムの近代化を行う事で補おうとした。後世になって、明治期の日本民法に影響を与えた。



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