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女武者禰津里美

気分転換です。

 私は父上から命じられた訳でもなかった。


 しかし武家の生まれの私は武家の(たしな)みとして、身を護る武芸を教え込まれました。しかしその武芸において、兄勝直、弟政直、信忠よりも武芸が秀でてしまいました。


 私の兄上や弟達は、私より武芸が劣る事は悔しがっていましたが、皆が時間が経つに従って、政務や采配の事を傅役や師範から学び取り、個人の武術と言う物は左程重視しなくなりました。


 私が十二の時、信濃の隣国甲斐の武田家が信州小県郡滋野三家(海野家、禰津家、望月家)と海野合戦を起こし、我が禰津家は諏訪家が仲介に入り降伏し、海野家は滅亡、望月家は村上家に臣従した。


 そして武田家と禰津家との約束に私が十八になった時に、武田家当主晴信様へ嫁ぐ事が決められた。


 私は最初、敵国だった武田家への婚姻に反発した。


 私の武田家への反発は、自らが強くなって武田の思いのままにさせたくないと言う気持ちから始まり、次に武田家よりも禰津家の軍略が優れてる事を望み、仕舞には自ら抜擢した女将兵五百を編成し、調練を行い始めた。


 南北朝騒乱の昔から、滋野三家では男女で領土を守ると言う意識が強く、禰津家の親戚望月家では、孤児とかを集めて巫女に育て上げて、忍びにすると言う他では聞かない生業(なりわい)もあると言う。


 ただ私は、禰津家の中でも規格外だった。


 身長も男性並の五尺三寸(約159センチ)もあり大女でもあったが、自分でも意識しなかったが勝直兄上や弟達と武芸の鍛錬を行っても打ち負ける事が無かったからだ。


 当初は、兄弟だから私に手加減してるんだと思って、何度も手加減しないでと怒ったが、どうやら本当に手加減してる訳じゃないのが薄々分かってきた。


 未だ実戦もやった事ないし、人も殺した事がなかったが、ある日山内上杉家の細作方が禰津領に侵入し、父上に危害を加えようとしたが、咄嗟にその場に居た私が敵と刀を交えて討ち取ってしまう。


 この話は、(たちま)ち領内の評判になり、禰津の夜叉姫などと言う者もいた。


 この事で父上と母上からは、危険な真似を行うなと叱責受けたが、私の居ないところでは里美は男だったら、塚原新右衛門の所に弟子入りさせたであろうと嘆いてたのを耳に入った。


 こんな女猪を御屋形様に出せないと思い、父上は甲府へ出仕した時に私では無く、私の従姉を側室にと御屋形様に勧めたが、私の行跡(ぎょうせき)を父上から聞き出すと大いに笑い、武田に今巴(巴御前)の血が混じれば、きっと益荒男(ますらお)を産むことぞと言い、私の側室入りは決定する。


 そして私の側室入りは、十八になる正月に決まり、それまでに私は花嫁修業を行う。


 ただそれは当時十五となったばかりの私には、大変苦手な事ばかりだったので、時折慣れない馬に(またが)り、禰津領の端まで逃亡する事をやってたが、賊に出くわして戦闘も経験する事になった。


 そして馴れない乗馬も自分でも驚くぐらい才能があったみたいで、僅かの期間に両足のみで馬を操れるようになり、両手が渥うになったので長槍や弓を操る事も覚えてしまった。


 さらに私が十七歳の時、山内上杉勢二万が小田井原に来襲した時、禰津家始まって以来の大軍が禰津領が侵攻する事になり、領民を根こそぎ動員する事になった。


 その時、父上と勝直兄上、そして領内の足軽達は武田勢に従軍していたので、私と弟達が残った者共それに残った女子供年寄などの百姓達をかき集めて、禰津館に集めて即席の防衛軍五百人を編成を行った。


 弟政直が総大将、他に禰津家に残された者で腕が立つ者は私一人しかいないので、弟政直の陣代として傍に居てくれと弟達に嘆願されたので、私は陣代を引き受ける事にした。


 武田勢と山内上杉勢が戦った小田井原合戦では、決着は半日で着き武田勢の圧勝で終わったが、山上上杉勢残党が、禰津領を含む周辺地域に沢山逃亡していた為、私が率いる即席禰津勢は毎日捕虜を見つけては、捕らえたり討ち取ったりして、秋になる頃までに百人以上の山上上杉家の捕虜を得たので、父上にどうするべきか文を送って指示を仰いだ。


 数日後、文の返信が届いて、足軽以下の小者は武器を没収した上で、上野国境まで連れていって解放せよと指示があり、数人の武士に関しては武田家へ引き渡すようにと書かれてあった。


 のちに聞いた話によると、捕虜の武士達に文を書かせて保釈金を払うか、労役を行い保釈金分を自ら稼ぐかのどちらかになったと耳にした。


 そしてこれらの保釈金で得た銭は、戦に参加した者共への報酬と、戦場になった志賀城と小田井原の領民達への戦災復興資金にされた為、規模が大きい戦なのに人々からの怨嗟の声が聞かれなかった。


 他にも出来事があり、父上と兄上が甲府へ論功行賞を受け取る為に出発しようとしたら、父上から御屋形様が、私にも褒美を渡すので甲府へ連れて来なさいと言われたらしく、一緒に行く事になった。


 私はこのまま甲府に行ったら、御屋形様の側室にそのままなされるんじゃないかと思っていたけど、実際逢うと御屋形様は、その様な事にしなかった。


 禰津家には今回の戦の手柄を認めて、過去の祢津領全てを返還する事になった。さらに滅亡して一族が国外に亡命してる滋野一族の海野家の再興を認めて、御屋形様の次男二郎様を海野家の棟梁を継承させる事を伝えられた。


 父上と兄上は、滋野三家の再興を御屋形様が前向きに御考えになられてた事を大いに喜び、改めて御屋形様に忠誠を誓った。


 その他にも御屋形様は私の武勇伝を気に入り、来年嫁ぐ時も其方(そなた)には、武田女武者の棟梁になってもらうと言われた。


 さらに褒美として、私の身体に合わせた武具と具足を製作するので、寸法図り終わるまでは甲府に留まりなさいと言われて、一週間余り留まった。


 その間に、私は御屋形様の家族を紹介してもらった。


 嫡男喜信様は僅か十歳で元服し、この前の小田井原合戦にて初陣したらしく、早くも捕虜を多数得る手柄を立てたと言う。


 御舎弟の二郎様、三郎様も聡明な感じを受けられるが、異才を放ってるのが四郎様でした。


 二歳ながら、他の人が考えつかない事を発送して、さらに御屋形様や嫡男喜信様が、それを認められて実現化してるので、家中での扱われ方も特異な感じだった。


 さらに甲府に滞在中に、御屋形様は其方(そなた)に家中の女武者を預けるので、能々(よくよく)女武者達に申し渡せと言われて、私と同年代の少女達三百人余りを遣わせてくれた。


 ここに集めた彼女達三百人と禰津にいる女武者を合わせると八百人余りになるので、部隊の実力はともかく立派な軍勢の数になってた。


 八百人の女武者を統率するには、一人では出来ないので、私は副将をこの中から決める。


 私は、二人選ぶ事にした。


 一人目は禰津家足軽大将日下甚五郎の妹、日下千鶴で彼女は弓を得意としており、数少ない騎射も行う事も出来た。


 二人目は、諏訪大社の神職守矢頼真の娘、守矢於鹿は諏訪神職の家系な為、よく本を読み通していたので、私が至らぬ知恵の部分を支えてくれると思い選抜する。


 こうして私と日下千鶴、守矢於鹿と共に禰津の地で女武者達の調練を始めた。


 調練を開始してから三ヶ月を過ぎ、天文十七年に入ると私は御屋形様との婚姻の準備の為、禰津領にて色々準備を行っていた。


そうした中で、佐久前山城に村上勢襲来の報が入り、父上と兄上は上原備中様のいる内山城に参陣せよとの早馬が届く。


慌てて禰津勢兵一千を率いて内山城に向かった後、私は女武者達を集めてこう言った。



「皆さん、此度(こたび)の戦、宿敵村上義清の軍勢です。私は武田の女武者の棟梁として、上原備中様の軍勢に参加しようと思います。もし戦いたくない御方がいるならば、ここで名乗り出てください。」



日下千鶴は皆を代表して、答えた。



「里美様、我等女武者に臆してる者は一人もおりませぬ。」


「分かりました。全員で出陣と行きたい所ですが、ここに守矢於鹿と女武者三百を残って、禰津館の守りに就いてもらいます。よろしいですか、於鹿様。」


「はい、承知しました里美様。」


「そしたら、これより出陣します。皆々方、よろしいですか。」



先に出陣した父上と兄上には内緒で、禰津里美の女武者衆五百が禰津館より出発したのは、日が沈んた後で、内山城に着いたのは明け方になっており、城兵達を驚かせてしまったが何とか入城させてくれた。







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