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村上勢、襲来

 一月の半ば、父上は家臣一同を集めて、信濃統一を果たした時には、皆に恩賞を与えると朱印状を発給した。


 それに伴い、二月に婚約同盟を果たした高梨家と共に村上攻めを行うと家臣達の前で、宣言を行った。


 その後、武田家では家臣を集めて酒宴を行い、皆が盛り上がっていた。


 その中には二年前に村上勢との戦で、重傷を負った板垣駿河守信方の姿も久しぶりに表して、今度の出征に並々ならぬ意気込みを周囲に語っていた。



「御屋形様、是非今度の村上攻めに(それがし)の汚名を(そそ)ぎたくでございます。是非先陣を命じてください。」



 酒が入った板垣駿州は、前回増長した事が砥石城攻めの失敗に繋がった事を父上は懸念してか、色良い返事が出来ない状態でいた。



「板垣駿州よ、一昨年の砥石城攻めの時、戦場において其方(そなた)は戦場で論功行賞を行った為、自ら重傷負う敗北を喫してるな。それ故、其方(そなた)の采配は正しいが戦場での状況判断に疑問を持った。もし先陣を請け賜りたいのなら、まず誓詞を出すのだ。そして副将に諏訪刑部大輔頼重を任ずる。」



 晴信は,板垣駿州を統制を行う為に、前年大いに手柄を上げ信頼を勝ち取った義弟諏訪刑部を副将兼目付として付ける事を条件を受けるならば、軍務への復帰を赦すと言った訳である。


 宿老で武田の両職と言われてる板垣駿州の矜持を刺激する言われ方だったが、実際に己がやった論功行賞のせいで、不覚を取ったので甘んじて受け入れる事にした。


 そして二月一日に甲府を出発すると言う事で話が付いた時、佐久郡内山城を護る上原備中守昌辰から伝令がやって来た。



「去る先日、村上勢五千が佐久へ侵入、只今伴野刑部少輔貞慶殿が守る前山城を村上勢が、包囲攻撃中の事。至急援兵を求むとの伴野刑部殿からの(ことづけ)です。」


「早田久右衛門よ、村上勢侵攻の事は承知した。久右衛門は湯漬けを食べて、身体を緩るりと休むが良い。」


「拙者にお水を一口貰えませんか? 飲んだ後は、至急上原備中様の元に戻らないといけません。」



 軍議の途中だったが、村上勢の侵攻の報告に一気に緊張感が漂った。


 晴信は、疲労困憊の早田久右衛門では前山城を取り囲んだ村上勢を突破して、城内へ潜り込む事が難しいと思い、武田家の甲州三ツ目衆の頭領富田郷左衛門を呼んだ。



「早田久右衛門を休ませて、誰か代わりに前山城まで伝令を送れ。」


「承知しました、御屋形様。」



 そういう富田郷左衛門の傍にいた忍衆へ、郷左衛門は命令を伝えた。



「鳶介、配下の者数人と共に前山城へ入場し、伴野刑部殿に御屋形様からの文を渡すように。」


「はっ、承知しました。」



 鳶介は、短く答えると文を受け取り、すぐに出立した。


 そして軍議を解散する直前に村上勢侵攻の報が届いた為に、改めて急ぎ先陣を内山城の上原備中守と合流させて、包囲する村上勢を追い払うかと言う談合になった。



「御屋形様、(それがし)の兵達は、出兵準備がすでに整ってます。どうか(それがし)に下知を。」 



 先程の軍議で先陣を望んだ板垣駿州が再び先陣を希望した。


 すると晴信は、短い時間思考して、板垣駿州に声をかけた。



「駿州よ、武田本隊が佐久に辿り着く三日の間に、内山城の上原備前と前山城の伴野刑部と協力して、村上勢相手に時間を稼げ。」


「はっ、承知しました。」



 次に、板垣駿州の副将に付けるはずだった、諏訪刑部大輔頼重を呼ぶ。



「諏訪刑部は、ここに前へ。」


「本来は、一旦諏訪に戻って動員をかけてから、板垣駿州と合流させる予定だったが、それでは村上勢が待ってくれん。なので諏訪に戻ったら諏訪衆を臨戦態勢にして、上原城代長坂釣閑斎光堅等と共に小県郡の長窪城まで、兵を進めよ。但し小笠原勢が諏訪を(うかが)う兆候があるならば、塩尻峠に進出して、先に峠を抑えよ。」


「御屋形様、承知しました。」


「続いて伊那高遠城代秋山伯耆守虎繁は、木曽中務大輔義康と連携して、小笠原勢が出兵するならば伊那衆と春近衆と共に小笠原領を伺う姿勢を見せよ。」


「はっ、承知しました。」


「日向大和守昌時よ、ここに前へ。」


「日向大和は、高梨家に(おもむ)き、村上勢が佐久へ出兵するので、村上義清から奪われた地への奪回の機会が訪れたと伝えて、我ら武田が村上勢を釘付けにするので、その間に取り返すが良いと伝えよ。」


「承知しました、御屋形様。」



日向大和は晴信への命を承諾すると、すぐに甲府へ経ち、北信濃へ向かっ行った。


続いて、呼んだのは現在武田家の筆頭軍配者の加藤駿河守虎景に声をかける。



「加藤駿州よ、この度の村上勢、関東管領上杉憲政が連携して、西上毛らに失地回復へ動くと思われるか?」


「それは十分ありましょうが、昨年武田との合戦で四千以上の兵を失い、さらに多くの上野国の国人が武田に(なび)いており、最後に長野信濃守業正が未だ憲政との確執が解消されておりませぬ、動員されても四~五千程度の軍勢でしょう。」



続いて、高遠城の普請を行ってたが、軍議に参加する為に呼ばれていた山本勘助晴幸が発言を求めた。



「御屋形様、この度の村上勢の動きは武田家が高梨家、木曽家との婚約が成立したことによる焦りから動き出して小笠原家と和議を成立させ、数年前より同盟国の山内上杉家との連携を行う事で、村上家が武田家の軍門に降る事を良しとしない動きだと思います。ここで村上勢を破る事に成功したら、北信濃の国人達は、村上義清に頼み甲斐無しと烙印を押されて、領国の維持が困難になる事でしょう。」



勘助が語った話が晴信の気持ちと合致して、満足そうに頷いた。



「勘助の考え、我が意を得たり。村上義清にとっては後が無い、恐らく乾坤一擲の勝負に出た感じだろう。村上義清は豪勇であっても知恵が足りぬ、昨年山内上杉勢二万が小田井原に来襲した時、無理してでも滋賀城に後詰を送らなかったことが、あ奴を窮地に陥れている。」


家臣の前で、そう言うと次弟の吉田典厩信繁に声をかけて、指示を与える。



「典厩よ、其方(そなた)は碓氷峠に陣を張り、もし西上毛に上杉勢が来襲するならば、小幡尾張守憲重ら西上野衆と共に迎撃せよ。」


「承知しました、兄上。もし長野信州が出馬しても一歩も後ろに引かぬ事を誓いましょう。」


「うむ、誠に頼んだぞ典厩。」



こうして、村上勢の迎撃に対する采配を決めて、各武将達は晴信の指示に従い、兵を動かし始めた。

富田郷左衛門 甲州三ツ目衆の頭領。 武田家配下の忍び衆の一つを(まとめ)め、武田家の情報収集や戦場での後方撹乱などを主に行っていた。 武田家には、他に歩き巫女衆や戸隠・吾妻衆などが所属している。

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