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取り引き

 春日大和守重慶と木下日吉丸は、友野二郎兵衛が勧めてくれたぐず餅を食べて満足しながら、友野二郎兵衛は、普段からこのような贅沢をしてるのか聞いてみた。



「普段から、このような御菓子は食べてる訳ではありませんが、京の都で流行してたくず餅って言うか、都ではわらび餅なんですけど、これらの御菓子は贅沢品と映るでしょうが、人々は贅沢品と見えてる間は日ノ本の天下泰平が訪れないんですかね。ところで私に何か要件があって訪ねてきたのでしょう?」



 春日大和が駿府に家畜を求めてやって来た事を話すと、二郎兵衛は思案顔になりながら語り始めた。



「牛の購入は、現状難しいでしょう。 実は今年に入って今川勢は動員がかかりまして、物資を運ぶ小荷駄の為、牛は集められてる最中なのです。」


「それでは、他の家畜の方はどうですか?」



 牛を今川領内での購入が難しい事が分かった春日大和は、次に豚の事を聞いてみた。



「豚?ですか。豚は確か近年日ノ本に訪れる南蛮人達が、堺とかに持ち込んで肉食してるのは聞いた事ありますが、まさか武田家でも豚を食してるのですか?」



 二郎兵衛は、顔を(しか)めて、豚を食してると言う話に嫌悪感をちらりと見せてた。


 すると日吉丸が家畜を探す理由を語り始めた。



「二郎兵衛様、武田家では豚は食していません。しかし武田家では天文八年(1539年)から、天文十一年にかけての大飢饉の苦い思いがありますので、もっか御屋形様の命の元に食料の増産と新たに食べれる作物や家畜を探してる状況なのです。 東海道にも餓死者がバタバタとおり、中には亡くなられた者を食らう奴もいたと言う噂が立つぐらいなのですから、二郎兵衛様も飢饉への対策として、家畜を飼う事は理解してくれると思いまして話ました。」


「春日様、日吉丸よ、駿府に豚を取り引きしてる商人はいないな。今現在いる豚は、南蛮人や明人が持ち込んだ豚が大半なので、恐らく入手は難しいだろう。噂では、薩摩や琉球では豚を食らう習慣があると聞いた事があるので、それらの商人達にあったのなら購入も可能かもしれん。」



 二人は落胆して、次に鶏は買えるか聞いてみる事にした。



「そしたら次は、鶏の方は購入出来そうか?」


「大昔は鶏は時告げ鳥と言われて、天朝(朝廷)が食するのを禁止を布告しておりました。しかし近年は足利将軍が闘鶏に夢中になったり、海の向こうから船に乗って駿府にやって来る南蛮人が欲しがり、ここ駿府にも鶏を増やして南蛮人相手の商売行ってる商人や百姓もいますので、鶏ならば恐らく購入は可能でしょう。」



 春日大和と日吉丸はやっと胸を撫で下ろすと、次に価格の事を聞いてみた。



雄鶏(おんどり)なら銅銭五十文、雌鶏(めんどり)なら銅銭百文位でしょうな。問題はそれ程数が集まらない可能性が大きいんじゃないかと。」


「なるほど、雌鶏(めんどり)銅銭百文は高いな。確かに多くの数を飼ってる者がいたら、とっくの間に有名になってますな。」


「春日様、それでも何とか銭でも出せば、購入は可能でしょうな。」



 取り合えず購入出来そうだと思った春日大和は、緬羊(めんよう)の購入も聞いてみる。



「それでは最後に緬羊(めんよう)は購入が出来そうかな?」


「緬羊?おそらく堺の町でも売っておりませんでしょう。聞いた話によると、緬羊(めんよう)は体中が毛に覆われて、蒸し暑くい土地が飼育に不向きだとか。寒い地域の生き物なので、寒さの御蔭で作物が育ちにくい土地がある信州辺りなら、もしかすると飼育が可能かもしれません。」



 春日大和と日吉丸は、二人共思ったよりも成果が上がらぬので、難しい顔をしてた時に二郎兵衛の方から、声をかけられた。



「ところで春日様、日吉丸、今度は私等の悩みに乗ってくれませんかね?」


「はぁっ?」 「ふぇ?」



 二郎兵衛からの質問に虚を突かれた二人は、思わず変な声をだした。



「いえいえ春日様と日吉丸を困らそうとは思ってません。ただ去年上方に上った時に変な噂を聞きましてね、どうやら甲斐武田家で椎茸を栽培する技術を得て、朝廷に献上した事が武田家への官位を賜る理由になったとかと。」


「なぬっ!」



 その話を聞いた二人は飛び上がる様に驚愕した。なんせ最近の武田家の財政が好転してる理由の一つにあったので、いきなり武田家の機密に触れてきた感じだったので、どう返答していいか春日大和は困惑してしまった。


 一方日吉丸の方は、二郎兵衛がしっかり友野屋の利益を確保しようとしてきた事に、上方で武田の椎茸栽培の話が広まりつつあるのなら、これを利用して利益を(むし)り取ってやろうかと頭の回転を上げ始めた。


 日吉丸は、見るからにしどろもどろになった春日大和を尻目に見て、二郎兵衛との話を行う事にした。



「二郎兵衛様、確かに我が武田家は家中の秘である椎茸を朝廷に献上しました。しかし何故武田家が椎茸栽培を行ったと言う事を決め付けられるので? 我が武田家には、今川家の様な海は無くとも沢山の山林に囲まれてるでござる。それらの山中で探索を行えば、朝廷に献上した椎茸の量を確保するのは、造作もない事である。」



 日吉丸は、二郎兵衛が疑念に思った椎茸の収穫量を山中にあると、ハッタリをかまして返答した事に余り武田側の機密に深く切り込むと椎茸入手の目的自体破綻すると思い、態度を軟化した。



「日吉丸よ、誠に失言した。誠にすまなかった。私が椎茸の話を上方で聞いた事は本当だけど、栽培技術の件は、私の下種の勘繰りだった。ただ私等の事情を二人共聞いてくれぬか。」



 二郎兵衛側にも何か事情があっての事だと思い、二人共話を聞いてからこの先の判断を行う事にした。



「二郎兵衛殿よ、いかなる話なのかな。」


「実は、近年駿河に下向してくる公家が多々いて、御屋形様が公家様の為に京風の文化に駿河を変えよと我々御用商人達に命じなられた。屋敷や衣装などは何とか作り出せそうだが、食事に関してはどうも食材が足りない。その中で椎茸の入手は至上課題だったのだが、まさか隣国の甲斐で大量に入手する可能性が出てきた事で、私も都に父を残して去年末に帰国したばかりなんだよ。」



 日吉丸は、二郎兵衛が主君今川義元からの無理難題で苦しんでると理解すると、四郎様が求めてる物と交換出来るのではないかと思考してた。



「二郎兵衛様、そっちが入手したい物は公家様達を持て成す為に必要なのですね。それなら我々が欲しい物とお互いに交換する形で、お互いの使命を果たしませんか?」


「なるほどな、日吉丸。武田家は家畜購入して領土を豊かにするのが使命、今川家は公家様への接待を行い、朝廷を篤く(たてまつ)る事が使命となっておる。お互い足りぬ部分を補う事が同盟国としての意義にも沿う事にもなるし、我々としても新たな商取引の筋も見つかる事に大変喜ばしい話だ。」



 その話に春日大和も日吉丸も納得し、お互いの欲しい物への条件を数日かけて擦り合わせた後に、早飛脚に手紙を持たせて四郎からの返信が来るまで、春日大和と日吉丸は友野屋の屋敷に逗留(とうりゅう)する事になった。

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