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交易商人友野二郎兵衛

 春日大和と日吉丸は、駿府に着いた翌日から友野二郎兵衛を求めて、聞き込みを行い始めた。


 まず最初に聞いたのは、居酒屋いづみの主に友野二郎兵衛は何処等(どこら)で商売してるかと聞くと、駿河国では松木家と友野家は両方とも今川家から御用商人に任じられてるので、商売してる者にとっては知らぬ者はいないと言う事だった。


 しかし必ずしも会えるとは限らないぞと主から言われる。



「武田家の御武家様よ、友野家の若旦那に必ず会えるとは限らんぞ。今、今川家はどこかで大きな戦を行うと言うのが商人達の(もっば)らの噂だ。なんせ今川家は先日領内の大商人達を集めて、出兵時の小荷駄の用意を命じたと言う噂が出てて、その後、米や木綿などが値段が急騰してるからな。」


「なるほど、今川領内の商人達は商売の機会を逃さない為に必死なんだな。日吉丸よ、このままだと同盟国武田家の名前を出しても門前払い可能性があるな。」


「ええ、そうですね春日様。我らの商談ではそれ程魅力を感じないでしょうね、」


「日吉丸よ。我々は、全権委任されて交渉出来る訳ではないが、家畜が居る居ない位は、確認した方がよいだろうな。そうじゃないと、例え帰国しても四郎様への判断材料を伝える事が出来ない。」



 春日大和と日吉丸は、いづみ屋の主から友野屋の屋敷を構えてる場所を聞くと、二人が屋敷に近づくと友野屋が雇った浪人達が周囲を警護していて、春日大和と日吉丸は警護の者に止められて、その場で尋問を受けた。



「おい、お前等、ここから先は友野屋の敷地内に入るぞ。屋敷に入るのは、今川の御屋形様の許可状か旦那様が渡した紹介状を持たされてる者のみだ。」



 警備が二人を(さえぎ)るので、日吉丸が代表して説明し始めた。


「御武家様、我々は甲州武田家の者で拙者は木下日吉丸と言い、この方は春日大和守重慶様で、我々二人は高遠四郎様の家臣で、拙者が数年前に友野屋の若旦那二郎兵衛様に商売の事で御世話になりました。 この度、拙者は高遠四郎様の家臣となり、四郎様からの役目を(おお)せつかってた為、知己である若旦那二郎兵衛様に御相談を御伺(おうかが)いしたくて、駿府まで足を運びました。」



 すると警護の者は、同盟国の武田家の家臣と名乗る二人が来た事に判断に困って、判断は上司つまり若旦那の二郎兵衛に判断を任せる為、自分より年下の同僚に伝言してもらう事にした。



「お前等、本当に武田家所属なんだろうな?身分を表す物は持ってないのか?」



 そう言われるとあるとしたら、武田家の家紋が付いた太刀や脇差の鞘ぐらいしかないと、二人は気がついた。



「春日様、拙者は四郎様から受け取った刀の鞘にある武田菱と高遠梶の葉紋が付いています。」



 そう言って、日吉丸は警備の者に刀の鞘を見せる。



(それがし)も太刀と脇差に武田菱と高遠梶の葉紋が付いております。」



 春日大和も太刀と脇差の鞘を見せた。


 すると警備の者は自らが判断出来ないと思い、(しば)し待てと言われ待たされてる間、警備の者が傍から離れなかった。


 しばらくすると先程億に向かって行った者が戻ってきて、二人にこう伝えた。



「武田家の者達よ、若旦那様は少しの時間なら会ってくれるそうだ。これから連れて行くので、付いてきてくれ。」



 護衛の者達は、前後に二人を挟むように奥に連れていった。



「春日様、町での噂は本当みたいですね。」


「そうだな、どうやら今川家はどこかで(いくさ)を行う積もりみたいだな。」


「二人共、余り必要無い会話をしないでくれ。要らぬ疑惑をお前達に懸けないといけなくなる。」



 護衛の者が二人に警告した為、以後友野二郎兵衛に会うまで、二人共無口になった。


 すると屋敷から離れた東屋(あずまや)案内(あない)されて、護衛の者からここで若旦那が御待ちしてますので、中に入ってくださいと言われ、二人は入った。


 仲に入ると二十代前半位の書生風の若者が茶室の中で、お茶を立てていた。



「皆様、遠慮なく上がってください。」



 中から、入室を(うなが)す声が聞こえたので、春日大和と日吉丸は東屋(あずまや)の中に入った。



「初めまして、私は友野屋伝兵衛宗隆の長子二郎兵衛宗春でおります。態々(わざわざ)ここの東屋に失礼だと承知しながら、春日様と日吉丸を呼んだのは、貴方(あなた)達が武田家の家臣なので、この度今川家の出兵準備に緊張してる時期に私の所へ訪れた為、織田側からの細作が出入りしてると噂が立つ事を恐れた為でございます。」



 二郎兵衛はそう言うと深々と頭を下げて、二人に謝罪した。


 そして二人の目の前に、先程立ててた煎茶と傍に置いてた重箱から、御菓子を取り出し二人に勧めた。



「まずは、春日様も日吉丸も喉の渇きを(うるお)して、御菓子を食べて身体の疲れを癒してください。」



 目の前に出された御菓子は、きな粉と黒蜜のかかった餅のようで、二人は生まれて初めて見て、高級菓子に気持ちが高揚したが、そこはぐっと我慢して二人は自己紹介を始めた。



「友野二郎兵衛殿、初めましてでござる。(それがし)は、甲斐武田家高遠四郎の家臣、春日大和守重慶にござる。どうぞ良しなに。」


「友野二郎兵衛殿、久方ぶりでござる。拙者、木下日吉丸でござる。この度は武田家高遠四郎様に出仕し、高遠家家臣として主命を(うけたまわ)ったので、二郎兵衛殿り知己を頼って参られた。」


「そうですか、まずは御話を聞かせて貰う前にまずは遠州掛川の日坂で、今一番話題の御菓子くず餅を食してください。」



二人は、言われたままくず餅を食べてみると、目を丸くして驚愕し、そして笑顔なってあっという間に食べ終わってしまった。






友野二郎兵衛宗春 今川氏の御用商人。 友野座と言う座を駿河国内で開いて、今川義元から木綿、油、茜などが独占販売を許される特権を持つ商人。さらに米や酒、胡麻油に今川領内の伝馬の生業(なりわい)も行ってた。 (いみな)はオリジナルです。


書生 元々は漢語で勉学する余裕が者と言う意味だが、明治大正時代に、他人の家に居候しながら学問する苦学生と言うイメージになってしまった。

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