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臆病者、四郎に命を救われる

赤口関左衛門(あかくちせきえもん) 実際に寺川四郎右衛門と喧嘩を起こして、脇差を抜けず醜態を晒した事で、武田晴信から武士として有るまじき者として、切腹ではなく雁坂峠下で斬首された可哀想な人。同じく臆病者ながら、公事奉行衆に任じられた、岩間大蔵左衛門との待遇の差は違い過ぎると思う。

 ・・・・・(それがし)は、赤口関左衛門と言う臆病者の武士だ。・・・・・


 数日前に(それがし)は、寺川四郎右衛門と喧嘩したとき脇差しも抜かず、奴に急所を蹴られ気絶した為、周りから臆病な武士と言われ、御屋形様の耳に入り召し捕られて、相手に立ち向かう事も出来ぬ武士は要らぬと言われて、斬首のに処すと裁きを受けて、これから処刑場に連れていかれるはずだった。


 しかし、偶然四郎様と出会い、役人に(それがし)が受ける刑の内容を聞き、暫し待てと役人に伝えると近習衆を走らせて、しばらくすると四郎様は役人と話した後、俺は解放された。


 (それがし)は、四郎様に感謝すると四郎様は、(それがし)に言ったんだ。



「赤口関左衛門、其方(そなた)は今日から僕の家臣だ。これから、よろしく頼むね。」



 俺は思った。臆病な奴は慎重で警戒心が強い、しかも関左衛門は相手より先に脇差を抜かなかったと言う事は、最後まで力による問題解決を望まない性格だと前世の記録に乗ってたな。


 こいつなら、暴力を嫌う僧侶や神官、公家や商人と円滑にコミュニケーションを作るのに使えそうだ。三つ者とは違う、交渉人的な使い方が出来そうな感じだな。



 そんな事を四郎様が考えてるとは思っていない(それがし)は、この時四郎様を地獄に仏様と言うのは、この事だと思って大変感謝した。


 そしてこの人の命なら、誠心誠意御仕えしようとおもった。


 数日後、四郎様に呼ばれた(それがし)は、四郎様より、新たな任務を与えられた。



「関左衛門よ、和泉国堺にいる商人武野紹鴎と高遠領の特産物の事で取引したいので、誼を結んできて貰いたい。それで其方(そなた)に茶道を学んできて貰いたい。」


「へっ? (それがし)が茶道とな。」


「そうだ。其方(そなた)は、武野紹鴎の弟子として入門し、京や堺での武田家の窓口になって欲しい。その際、去年収穫した干し椎茸を商品として持たせるので、これらの販売して宜しい。」



 そして(それがし)の前にドンっと背負い籠に五つばかり近習達が運んできた。



「これらは、恐らく一籠重さ十貫分の椎茸の価格は、金十両の値するだろう。そしてこの椎茸の製造法は、武田家しか知らぬので、絶対に椎茸の秘密を口に割らないように。」


「こっこんなに貴重な物を扱えと、(それがし)に商人になれと言われるのか?」


「いや商人ならば、自らの利益を追求する事が生業(なりわい)だが其方(そなた)はあくまで高遠四郎に仕える武士。我が武田家の為の優位になれる情報や物品を入手する、御納戸役だと思って欲しい。」


「武田家には、海が無く他家の様な貿易湊が無いので、其方(そなた)を上方に派遣して、武田家の必要になる物資を得る窓口にしたいのだ。」



 四郎様は、(それがし)の臆病な性格を鑑みて、武士だけど斬り合いから縁遠い御納戸役にして、武田家に残る立場を与えてくれるんだと思った。



「分かりました。一度四郎様に救われた命、四郎様の為に上方へ上り武野紹鴎の茶の湯に入門してきましょう。」


 帰り際、四郎様がそうだ、言い忘れてたと言って、(それがし)を引き留めた。



「関左衛門には確か男子(おのこ)が二人、女子(おなご)が二人いると聞いたが、確かなのか?」


「はい、そうです。嫡男辰丸十歳、長女八重八歳、次男兎丸(とまる)五歳、次女佐知二歳です。」


「そうか、そしたら関左衛門の次男兎丸を僕の小姓として、傍に仕えさせる気はないか?」



 いきなり四郎様から、兎丸(とまる)傍仕(そばつか)えとして、出仕させないかと言われた時、一瞬真っ白になったが、これは慶事だと思い、喜んで答えた。



(それがし)、ついこの間まで御屋形様から、不興(ふきょう)を買って、危うく命を落とす所でした。四郎様に救われた命に対しての御恩をまだ返してないばかりか、兎丸(とまる)を小姓に引き立ててくれるとは、感謝の念が絶えません。」


「関左衛門、そしたら近日中に兎丸(とまる)を躑躅ヶ崎館へ連れてきなさい。」


「ははっ、承知しました。」



 こうして家に戻った後、今までの経緯(いきさつ)を家族に伝えて、四郎様から上方へ御納戸役として、物資の取り引きを行う役を仰せつかったと伝えた。


妻の志乃に話すと志乃は、驚きながらも四郎の心遣いに感謝した。



「旦那様が御無事で本当に良かった。旦那様が、御屋形様より御不興を買って死罪を申し渡された時は、頭の中が真っ白になりましたわ。四郎様に救われたのですから、御命掛けて、四郎様から授かった御役は必ず果たしましょう。」



志乃は、関左衛門が無事なのを泣いて喜び、子供達も母が何故泣いたのか長男の辰丸以外は、理由が分からずにいたが目出度(めでた)い事が起きたと言うのだけは、理解出来たみたいだった。


「父上、誠に祝着至極に御座います。」


「「「ちちうえ、誠におめでとうございます。」」」



子供達も関左衛門の自宅への生還を喜んでくれたので、もう一つの話をする事にした。



「それで、実はもう一つ四郎様から御願いされたので、その場で承諾した事があるんだ。」


「旦那様、その御願いとはなんでしょうか?」


兎丸(とまる)を四郎様の小姓として、出仕する事になった。」



またもや志乃は驚いたが、夫の判断に賛成の意を見せて、四郎様に尽くすしかないと答えた。



「旦那様、四郎様は今年で三歳で御座います。そして兎丸も今年で五歳、四郎様の周りに年が近き子供達が少ないのでしょう。だから兎丸を求められたのでございます。」


「なるほどな、そしたら兎丸にとって良い事だな。」



赤口関左衛門の家族にとって、四郎に救われた事により二重の慶事が訪れたのであった。


赤口関左衛門は、本当は天文十六年に斬首されてますが、ここでは生きていてる事にしてます。

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