高遠家家臣に仕事を任せよう
高遠家臣団の諱は、オリジナルのもいます。
しばらく太郎兄上と戦術談義を語った後、これらの軍備を揃えるのに元手がいるよなって言う話題になった。
俺は太郎兄上に、高遠家家臣の掌握と義父殿を後見役として、高遠領の統治を手伝ってもらう事にしたと話すと太郎兄上は褒めてくれた。
その上でやっと出来るようになったギヤマン製作の話を行うと、武田領でそんな物が作れるのかと驚かれた。
「太郎兄上、我が高遠領の中に、塩が湧き出る温泉の地があるんですよ。その地の周辺の草木は土地に塩分が含まれてる為、その塩気で育った草木を燃やした灰がギヤマン作りの材料の一つになるのです。」
後は、珪砂と石灰石は豊富にあるから、ギヤマン職人を育成するか。
「太郎兄上、近いうちにギヤマンを試しに作ってみます。恐らく全ての材料は、伊那郡の中にあると思いますので、高遠城の城下町で作らせてみようと思います。」
「そうか、またこれで武田の富を豊かにする手段が増えたと思って良いんだな。」
「しばらくは出来損ないのばかり出来ると思いますが、精進したら他国へ売れる物も出てくるでしょう。」
さてガラス製作を担当を誰にしようかな。
ある意味利権になりそうだから、皆やりたがるかもしれんな。
それに耐火煉瓦が出来たから、石灰窯で石灰石を焼いて生石灰も作って,百姓に配って畑に撒いたり、建築資材のモルタルを作るのにも必要だし、石鹸を作る材料の一つにもなるな。
石鹸を作るなら油脂鹸化法で牛脂がいるけど、畜産を高遠領で行わせるか。
「そういえば太郎兄上、父上は新しき側室を迎えると聞きましたが、それは本当ですか?」
「ああ、本当だ。禰津家の里美様を来年早々迎えると言ってたな。」
「里美様は、いくつになられてるのでしょうか?」
「確か僕より五歳年上だから、来年で十六だな。」
「そうなんですか、そう思うと太郎兄上も奥方を迎えるのも近いですね。」
「結婚か、そんな事も意識したこともなかったな。四郎は知ってるんだろ、僕の嫁を。」
「文献の記録でしか知りませんよ。だからどのような御仁なのかは、太郎兄上じゃないと知りませんから。」
太郎府に飢えは、自分の結婚話に照れて、話題を別な事にすり替えた。
「ところで四郎、徳本先生の事を聞いたか?」
「いえしばらく話を耳にしてませんね。」
「徳本先生は、四郎から聞いたと言う疱瘡を治す治療方法の開発を今夢中となってるそうだ。」
ああ。確かにあの時口頭で徳本先生に言ったけど、あの後どうやら種痘に挑戦してるのか。
「太郎兄上、治すと言うのは語弊ですね。あれは予防治療と言って、疱瘡に対して発病しにくくする治療法なので、疱瘡にかかると別の手段が必要になります。」
「へぇー、そうなんだ。でその方法って、すぐ出来るのか?」
「いやかなり時間がかかります。薬品を作るには、色々な物が足りなくて、それらを入手しないといけないんです。」
太郎兄上は、どうやら医学の事にも為政者目線で気になり始めたのか?
「もし武田家が海外と貿易出来る様になるなら、一気に解決する事が増えます。」
武田が海を持つとしたら、それは北か南への侵攻が進むと言う事になるから、前世の路線を進む事になる。
「四郎よ、今川とは縁戚だな。俺から言うのもなんだが、今川の湊を借り受けて、そこから輸入するのはどうだろう?」
ああ、こうやって話をすると太郎兄上は今川家の妻と結婚するしない関係なく、領土拡大の方針は余り好まれてないみたいだな。
「それは出来る可能性はあるでしょう。しかし我々が利益を得てるのに、黙って湊を貸すでしょうか。今川家も湊を使わせるのだから、我々に分け前を寄越せと言うでしょう。」
俺もそこは考えてるんだけど、桶狭間の戦いで今川義元が命落したら、今川氏真を支援して湊を借り受けると言う手段も考えてみた。
しかしそうなると善徳寺同盟(甲相駿三国同盟)と清州同盟(尾張三河同盟)が争う状況になるし、いっその事今川義元が織田家を倒してくれたのなら、父上も天下への夢を捨てて、現実路線を歩めそうな気がする。
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あの後俺は、高遠家臣にこれから何人かに仕事を与える為に奥御殿に呼んだ。
呼ばれた家臣一同、緊張した面持ちで俺からの言葉を待っている。
俺の傍には、後見役の義父殿、傅役の跡部攀桂斎、安倍加州、防諜役小笠原源与斎、それに近習衆の中で、小原兄弟と秋山紀州、それに隅の方に日吉丸を場違いな感じで、座っていた。
「今回、高遠の者達に来てもらったのには、御役目を与える為です。」
俺はそう言うと、まず座光寺左近進頼近、座光寺越後守貞信親子に声をかける。
「座光寺左京進、座光寺越後に命ずる。其の方等には諏訪殿(諏訪寅王丸)から、耐火煉瓦を購入して貰い、それを持って高遠城下で、鉄炉と石灰窯を製作して貰いたい。土窯は工藤源左衛門尉と工藤玄喜斎が、去年三条様の荘園の民達の力を借りて製作してるので、彼等に指南してもらうと良い。」
「「殿、承知しました。」」
座光寺親子は、返事して後ろへ下がる。
次に珪砂を集めたい為、溝口民部少輔正慶と黒河内隼人丞政信に声をかける。
「溝口民部、黒河内隼人、これに前へ。其方達は、高遠領内にある珪砂を集めて、高遠城下の指定した場所に貯蔵するのを指揮して貰いたい。この珪砂はギヤマンの原材料の一つなので、沢山ある事に越したことはない。」
「承知しました。我等必ず使命を果たします。」
その次に、山田伯耆守頼実、山田弥助親子に声をかけた。
「山田伯州、山田弥助よ。其方達は、伊那郡大鹿郷鹿塩にて塩の生産を行い、出来た塩を高遠城に送って欲しい。この塩は、様々な物を作るのに必要になるので、沢山作るのに越した事ないが近隣の木を伐採したら、必ず植林を行って欲しい。」
「殿、塩釜は増やせるなら、増やして宜しいでしょうか?」
「いくらでも構わないが、燃料となる木炭や薪には、限度があるので、余り環境破壊すると災害の元になるので、頃合い見ながらやるように。」
「「承知しました、殿。」」
次に声かけたのは、白鳥四郎重継、桜井源之助重久に石灰石を集めさせる。
「白鳥四郎、桜井源之助、其方達は、石灰石を沢山集めて、座光寺親子の元に届けよ。窯で焼いた石灰は、今後建築に新式漆喰として使えるので、いくらあっても困らないので、どんどん運ぶようにに。」
「承知しました。」
続いて、春日大和守重慶に家畜の購入を命じる。
「春日大和、其方には高遠領で畜産振興の為、商人から牛、豚、鶏、羊等が売買されてたなら、二十貫の予算を渡すので、購入してきた欲しい。」
「了解しました。」
俺はふと思った。 日吉丸を春日大和に付けたら、商人目線で値切りをしてくれるんじゃないかと・・・
「日吉丸」
「はっ、ハイっ!」
突然、日吉丸の名前を俺が呼んだ為、吃驚して声が裏返って、返事した。
「日吉丸よ、武士として初仕事に任じる。其方の商人としての経験を活かし、高遠領で行う畜産に必要な家畜達を購入する春日大和の補佐役に任ずる。」
それを聞いて、日吉丸はポカーンと一瞬していたが、我に返って厳かに補佐役を受け入れた。
「臣、木下日吉丸は、謹んで四郎様より与えられた、役職に邁進する事を誓いまする。」
日吉丸は、そういって低頭平身にして、地べたに頭を付けながら、役職に就く事を受け入れた。
「日吉丸よ、そこまで大袈裟な態度をしなくても宜しい。そういえば其方への知行はまだ決めてなかったな。上林上野介よ、高遠家家臣として、日吉丸への家禄はどれ位が相応しいだろうか?」
俺がそう言うと上林上野介宗俊に確認を行った。
「殿、某が考えるに足軽ならば、年一貫ほどの家禄なので、新参者で未だ功無き日吉丸には、足軽と同等の年一貫で宜しいでしょう。」
「そうか、上野介承知したぞ。なら木下日吉丸、其方の家禄は年一貫だな。但し、武家としての身支度や準備を整えるのに、支度代二貫を別途に受け渡す。これ位はやって良いかな?上野介よ。」
すると上林上野介は、恭しく答えた。
「武家としての身形を整える事は、絶対に要りましょう。日吉丸には、高遠家が侮られぬような姿と作法を身に付けてもらいます。」
上林上野介がそう言ったので、俺はしばらく日吉丸を上林上野介等に預けて、役目や俺からの呼び出しが無い時は、上野介から教育を受けさせる事にした。
「後、今回役職を与えてない上林上野介宗俊には、俺と家臣達との調整役として、俺の身の回りに居て貰う事になる。上野介、宜しいかな?」
「殿、承知しました。」
「ならば甲府在住組の役職を任じ、これより仕事に取り掛かる事にする。尚、高遠領残留組については、新たな指示が無い限り、現状の仕事に遂行するようにと伝えよ。」
さて今度は鹿塩周辺の草木を燃やして作った灰汁と狩った猪や鹿などから獣脂を使って、石鹸でも作りたいな。




