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義父の取り扱い

 俺は渋面で、これから俺の手足になろうとしてる高遠家の家臣達を話を聞いていた。


 俺は思わず傍にいる跡部攀桂斎にどうしたら良いと思わず聞いてしまった。



「四郎様、御屋形様からは高遠家の事は、全て四郎様の匙加減で行うようにと命じられております。なれば、義父殿の処遇も四郎様がお決めになってください。」



 なんと! 俺は父上からそんな事は一切聞かされてないぞ。と言うより、高遠家の事は、一切聞いてなかったな。


 史実で高遠家を継ぐのは、確か永禄五年(1562年)だったはずなので、まさか俺が誕生したのと同時期に高遠家を継がせられてると思ってなかった。


 これって、つまり祖父諏訪頼重生存と諏訪寅王丸が廃嫡されず諏訪家督を相続した影響なのかも。


 後考えられるのは、高遠領内のトラブルの責任は、もしかして俺が取らされる可能性が出てるのかもな。


 ヤバイ・・・ヤバ過ぎるぞ・・・・・


 確かこの先、伊那郡では大規模な反乱が起きて、結構国人衆が敗れて粛清されてるはず。


 その時、義父殿は責任を取られてなのか、武田への反抗を目的で叛乱を主導したからなのか、分からないが自害させられてる。


 どんだけの人なのかは前世の記録上解らないけど、あんだけ大規模な反乱が起きたんだから、人望があったんだろう。


 つまり暴走族の総長タイプで、イケイケの性格が諏訪宗家とか武田家との協定を破って戦いを挑んだんだな。


 なんか信州って、小笠原と言い村上と言い武闘派が跳梁跋扈して、皆纏(まと)まりがないな。


 つまり高遠家家臣団達も俺を当主に認める代わりに前当主を世話しろってか。



「皆が言いたい事は理解した。僕としても義父殿を粗相に扱うつもりがない。ただ一度も言葉を交わした事も無いし、以前武田家との盟約を破って、諏訪を奪おうとした行動が武田家から危険視されてるのを義父殿は、何とお考えだろうか。その辺りの御心次第では、僕も厳しく事をしなければいけなくなるだろう。』



 俺は一気に高遠家臣団を目の前にして、言いたい事を吐露してやった。


 すると高遠家臣団の皆が平伏したまま頭を上げず、代表者として上林上野介が口を開く。



「四郎様、いえ殿と呼ばせて戴(いただ)きたい。然(しか)らば、殿いや頼継様と会談をしてくれますか?」



 俺は、一呼吸置いてから、勿論それは構わないと返事してやった。



「上林上野介よ、ここに義父殿を呼んで欲しい。僕は義父殿と話を交してみたいのだ。」


「承知しました。只今御連れしますので、しばしお待ちを。」



 暫(しばら)くすると上林上野介に連れられて、見た目はかなり年寄だが眼光鋭い爺さん、俺とは六十以上離れてると思われる男、俺が初めて見た高遠家前当主高遠頼継の姿であった。


 高遠頼継は。部屋に入るとムスっとして、挨拶も無しに座り、四郎に膝間付(ひざまつ)かなかった。


 その姿を見た長坂釣閑斎が、頼継に怒鳴る。



「無礼者、高遠家当主四郎様の御前(おんまえ)になるぞ!」



 すると吉次は、すぐさま反論する。



「其方(そなた)こそ、何を言っておる。儂は四郎の義父だぞ、親が何故子に頭を下げる必要がある?」



 そう言うと不遜にも踏ん反り返る態度を見せたので、釣閑斎は激怒して太刀に手をかけようとしてた。



「このっ、ぶっ無礼者めっ!」



 やべぇ、剛の者の釣閑斎を頼継は怒らせてしまったぞ!


 俺がここで釣閑斎に対して、止めに入る。



「釣閑斎、太刀を抜くのは止めよ!」



 俺の声がかろうじて耳に届いたのか、釣閑斎は何とか自重した。


 しかし高遠頼継も肝っ玉が大きいのか、釣閑斎の限度もさほど気にせず俺の前に座った。



「して、儂の義息子(むすこ)四郎よ、お初に御目(おめ)にかかる。儂が其方(そなた)の義父高遠紀伊守頼継じゃ、今後は其方(そなた)に御世話になるから宜しく頼むぞ。」



 頼継はいけしゃあしゃあと俺の前で自己紹介を行った。なんか引退した暴走族の総長って感じで、破天荒な雰囲気だな。



「初めまして義父殿、僕は高遠四郎と言います。この度(たび)は、義父殿と御話しをしたくて、ここに来てもらいました。」



 すると義父頼継は、そんな形式ぶったやり取りが嫌らしく、俺の挨拶をたいして聞いてない感じだった。



「四郎よ、お前は俺と何を話したかったのだ?」



 ストレートに聞いてきやがった。



「義父殿、僕の噂を知ってますよね。僕にも理由が分かりませんが、産まれた時から諏訪大明神の加護を受けてるのか、民衆が困難に陥ってる時、その困難を打ち勝つ知識がふと脳裏に沸くのです。しかしその知識は、人々を瞬時に助けるのではなく、知識を受ける人々も努力を怠らない様にしないと困難を助ける事は神様は行わないと啓示を受けました。そして・・・・」



 俺は、義父殿が俺の話を聞いて、面妖だと拒否反応を起こして、会談が破綻するかと思ってた。


 しかし実際の義父殿は、二年間の甲府の生活のせいかそれとも本当に諏訪の血筋に神童が現れたと言わんばかりに、俺の語りを良く聞いてくれた。



「・・・・でして、僕は義父殿の考えを知りたくて、僕等の会談を望んだのです。」



 長い俺の語りを聞いた義父殿は、深い瞑想から覚めるように目を開けてから、俺に向かって話始めた。



「なるほど、四郎の考えは、儂には理解しがたい事が多かったが民衆を救い、そしてこの戦国の世に真の極楽浄土を創り上げたいと言うのが伝わったぞ。しかし儂は高遠家の中でも一番の俗人で、諏訪家惣領を狙った欲深き者なるぞ。四郎が望む事を行うには、儂は足を引っ張るだけだから、隠居させて欲しい。」


「ただ知って欲しい事は、高遠家は南北朝時代までは諏訪宗家であったが、我が祖大祝諏訪直頼は朝敵とされた為、大祝(おおほうり)と惣領職を弟に譲った為、諏訪頼重の系統が惣領になったのだ。だから儂は、諏訪頼重から、惣領を取り戻さんと動いたが、武運拙(ぶうんつたな)く敗れた。しかし四郎、其方(そなた)を高遠家の名跡を継ぐと決められた時、儂は其方(そなた)と其方の父をとても恨んだ。」



 義父殿は、思いの丈を俺に向かって言い続け、まだまだ言葉を紡ぐのを止めない。



「しかしこの二年間、四郎の噂を武田家中で耳にした。朝廷に献上した干し椎茸を栽培可能にしたとか、保坂惣郷に新しい農機具への助言を喜信様に伝えたとか、僅か二歳の子供の発案とはとても思えなかった。しかし四郎が同時に何故、儂ら高遠家に頼らないのかと忸怩(じくじ)たる思いも出て来てた。儂らがいれば、四郎お前がやってる事をもっと高遠家に還元出来たのではないかと。」


「そして頼重系に諏訪惣領は奪われたままだが、四郎が高遠家を栄えさせてくれるのなら、儂が感じてる無念が解消できるんじゃないかと思ったのだ。だから儂からの条件は、四郎お前が高遠家を大きくしろと言いたい。」



 義父殿は、そう一気に語ると、再び厳(いか)つい表情で俺を睨(にら)んだ。


 俺は、義父殿の評価を変える事にした。こんだけ高遠家への思いがあるのなら勿体(もったい)ない。


 義父殿には、相談役を務めて貰おう。



「義父殿の思いは、四郎の心に伝わりました。僕は、当初義父殿が僕に家督を奪われた為、家督奪取の機会を伺(うかが)ってると考えてましたし、事実義父殿の考えもその様な方向へ向いてたのも、先程義父殿が語ってくれました。」


「しかし僕は、今の義父殿と言葉を交わす事で高遠家への隆盛を願った上での気持ちを知りました。義父殿は、僕に全てを任せて隠居と考えてるようですが、僕には領主としての実地経験がありません。だから義父殿を僕は隠居させません。僕の傍で後見役として御力を御貸し下さい。」



 すると義父殿は、顔を天井を見上げて、泣くのを堪えながら言葉をポツリと言う。



「四郎よ、儂は武田家を恨んでる男だぞ。いずれ其方(そなた)を斬るかもしれないのだぞ・・・・」


「義父殿、僕は貴方(あなた)が不器用ながら、とても真っ直ぐに生きてる事を知りました。そして義父殿を慕ってる家臣領民は、沢山いる事も知ってます。僕は皆の為にも僕の後見役としていてください。」



 すると今までのやり取りを一通り見ていた上林上野介等高遠家家臣達は、一斉に俺と義父殿に感謝の意を表(あらわ)した。



「四郎様、我々の素懐(そかい)が叶(かな)う事、誠に祝着至極で御座います。我々、高遠家臣皆改めて四郎様を当主と認めて忠誠を誓いますれば、ここに起請文を交します。」



 ふぅ、これでやっと高遠家を統制出来そうだな、あとは伊那郡内の国人達へ同じような文(ふみ)を書いて送るかな・・・・










素懐(そかい) かねてからの願い

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