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四郎、徳本先生と知己になる

徳本先生が、四郎から医学知識を教わりたいが為に弟子入り宣言します。

 徳本先生と弟子の徳山は、俺からの話を聞いた後、医療従事者として、流民達の前に立って疱瘡がどのような病気なのか話して、徳本先生を探しにきた女性に対しては、丁寧に病気の対処療法を説明して、流民が集まってるこの場所は、環境が悪いから治療に向いた場所に移動しようと言って、近くの寺院を借り受ける交渉を行った。


 徳本先生は、今自分が持っていた漢方薬を疱瘡患者に遠慮なく使いまくって、足りなくなったら甲府の医療院に徳山を走らせて持ってきた。



「四郎様、釣閑斎様、彼等の治療を行うには、薬が足りませぬがこれ以上疱瘡の感染を広げる訳には、いけませぬ。(それがし)が思うに四郎様から教わった対処方法と(それがし)が学んだ李朱医学を組み合わせれば、多少は助けられる命があると思われまする。」



 徳本先生はそう言うと、借りた寺院に流民達を移動させ、感染者を御堂の中に横たわらせ、未だ感染症状出てない流民達は、寺院の境内に仮の居住地にした。


 俺は、寺院の住職に迷惑かける事を謝罪し、寺院に五貫文の御布施を後日届けると約束して、住職には感染を防ぐ為に、しばらく甲府の本寺院へ退避を御願いした。


 そして俺は躑躅ヶ崎館の母上に文を書き、館へ戻るのが遅れるが安心してくださいとの気休めの手紙を送った。



「新六郎、きっと母上は悲しむだろうが、武田の民の為に行う事なので、四郎の事を見守ってくださいと御伝えしてほしい。」


「判りました四郎様。四郎様、決して疱瘡患者の傍に近寄ってはなりませぬ。もし四郎様が疱瘡を患ったら、我々は責任を取って、腹を切ります。」


「新六郎よ、僕はお前達に腹なんて斬らせたくないよ。だから疱瘡になんて、患うつもりはない。」


「紀州、丹州、総州、角蔵、伴野宮内、八兵衛、雲州、それに源与斎殿、皆四郎様を頼んだぞ。」


「新六郎も御香様への説明で、気苦労かけるがこちらの事は我等に任せよ。」



 そういうと諏訪新六郎は、早速馬で甲府へ走って行った。


 俺は、元々の目的だった流民を耐火煉瓦の製造に雇おうと思ってた事から、随分と道が逸れた事に嘆息してると徳本先生が、俺が何をやろうとしてるのか聞いてきた。



「四郎様、四郎様がここに来た理由とは、流民を雇用して何かを作らせたかったんですか?」



 俺は、自分が考えてた計画が挫折しかかってたので、思わず愚痴ってしまった。



「徳本先生、僕は武田家を豊かにしたいが為、まず鉄とギヤマンと耐火煉瓦を沢山作りたかったのですよ。鉄が沢山あれば、武器はもちろん農具や生活道具などを民衆に与えれますし、ギヤマンを使って、様々な薬品や生活の為の器や家屋のギヤマン製の窓などに使えます。耐火煉瓦も今の様な火災に弱い家屋と違い、防火能力が高い建物に使えて、城の普請にも使えます。」


「それなのに疱瘡の流行で、人夫や職人の確保に苦労するとは・・・」



 意気消沈してる俺に対して、徳本先生は俺のやろうとしてた事に興味を覚えたらしい。



「四郎様、(それがし)は四郎様のやろうとしてる事に興味を持ったぞ。四郎様とは違う一面から言うと、ギヤマン製の器は王水を溶かさないと儂の師匠から教わった事がある。しかしギヤマンの器は、一部の豪商か大名にしか手に入らない舶来物の貴重品と思ってたが、四郎様は作り方を知っておられるのか?」



 医聖の徳本先生には、今まで薬の調法とかに以前から、喉から手が出る程欲しかったそうだ。



「はい、知識だけなら知っております。ただ僕が伝えようとしてる事を覚えてくれる職人と人夫が足りないのです。それで今回、武蔵国から戦乱の逃れてやってきた流民達を雇用をしたいと思ってたのです。」



 俺がそう答えると、徳本先生が喜び始めた。 俺が怪訝そうな顔をすると徳本先生は、これ以上ない笑顔でこう言った。



「四郎様、これは天命じゃ。 儂と四郎様が出会う為に用意された天命であると思われる。まさしくここでの不幸は、急がば廻れで不幸中の幸いじゃ。 四郎様と儂のお互い至らぬ所を合致する為だと思うぞ。」


「四郎様よ、誰も苦しむ者を見捨てたい訳ではない、しかし手の施しようも無い者に対しては、儂はその者の痛みを緩和させてあげ、少しでも来世に気持ち良く迎えて欲しいと願って、患者を手当てしておる。その願いは、儂と四郎様の出会いを導いたと今思っておるぞ。」


「四郎様が知りえる医療知識を儂に授けてください。そして儂が四郎様の代わりに民衆の命を救います。」



 徳本先生は、俺に真摯な顔でそう言うと、俺の事をまるで師匠であるかの様に膝間付(ひざま)いた。



「止めてください、徳本先生。僕は、知識に伝えるだけで、その知識の正しい使い方を知りません。徳本先生なら、知識を正しく御使いになられるので、僕になど膝間付かないでください。」



 俺はそう言うと、徳本先生の腕を取り、頭を上げてくれるよう御願いをした。



「四郎様、儂は弟子達が五十人おるんで、ここに常時十人滞在させて、疱瘡患者の看病を行うので、儂」に今から疱瘡の対処を書に(したた)める事を御許しください。」


「徳本先生、判りました。今から徳本先生に疱瘡患者を御任せします。」



 その後、徳本先生が筆記しながら、四郎から教えられた疱瘡の処置を行う手筈(てはず)を甲府の治療院から戻ってきた弟子達と共にここの寺院に臨時治療院を設置して、患者達を治療する事になった。


 俺は、まだ疱瘡が発病してない流民達を集めて、今後の話を行う事にした。



「皆の者達よ、今後の其方(そなた)達の話を行いたい。其方(そなた)達は、関東管領家と北条家の戦争で、田畑(でんばた)を失ったそうだが、今後はどうするつもりでいたのか教えて欲しい。」



 すると流民の中の一人で、初老ぐらいの男が代表して話始めた。



「えっと武田の四郎様で宜しいのでしょうか? 私は、武蔵国入間郡植木郷の三木兵衛門でございます。我々の郷は、去年起きた戦いにおいて、関東管領勢に焼き討ちにあって、郷の裏山の避難砦に皆逃げ込みました。幸い、戦いは北条様の勝利で戦が終わったものの本来田植えの時期だったが、郷の田畑は破壊尽くされた為、我々は去年の収穫を諦める事になりました。そして商人から、借金をして皆が来年まで喰い繋ぐ為の食糧を買ったのですが、関東管領勢の残党崩れが再び我が郷を襲い、来年まで生きる食料を奪われた為、仕方なく植木郷を捨てざる得なかったのです。」



 俺は、関東管領上杉憲政って、この頃から統治能力が無かったんだなと思いながら、聞いてた。



「甲州まで辿(たど)りつくまでに、郷人に次々と食料不足と疱瘡の流行で亡くなっていき、今は健常者七十名と疱瘡患者が四十名ばかりが、数日前にここに着きました。先程、四郎様は健常者の我々に今後どうしたいかと御聞きになされましたが、我々は今は銭も食料も上杉勢残党に取られてしまったので、郷人全員生きてく術を失いました。なので生きる見込みがある郷人達は、河原者か山家者になって生きる他ないでしょう。」



 そういうと三木兵衛門や他の郷人達も大声で泣き始めた。


 俺はそんな流民達を何とか救えないか、提案してみた。



「僕から言うのもなんだが、疱瘡の病気の事もあり感染拡大を警戒して、今すぐとは言えないが、四月になるまで疱瘡を発病しない郷人は、僕が雇用しても良いけどどうする?」


「雇用とは? どのような御仕事で。」


「信州諏訪にて、新しい炉普請を行う人夫を集めたいと思ってた。さらに意欲ある者達には、職人への道も用意しよう。」



 三木兵衛門は、ただちに平伏して、大声で泣きながらその仕事よろしくお願いしますと叫んだ。



「四郎様っ!!こんな我々に、生活の糧を得る道を提供してくれて、誠に有難うございますうっうっっ!!」



 三木兵衛門等植木郷の者達は、皆平伏して四郎の出した取引を受け入れて、四月に疱瘡が治まってから、信州諏訪へ向かう事になった。


 四郎は、三木兵衛門等の事を心配なり、ここに秋山紀伊守光次に命じて、彼等の滞在の世話ともし疱瘡の患者が増大した時は、四郎に即座に知らせるようにと命じられた。








植木三木兵衛門 武蔵国入間郡植木郷の郷人。煉瓦職人 関東の戦乱により、故郷植木郷を郷民約三百名

        と共に捨てざるえなくなる。目的地も無いまま、多数の郷民を失い、四郎や徳本先生と

        出会うまでに百名余りまで数を減らしたが、奇跡的に四郎に雇われ煉瓦職人として

        四郎の無茶振りを叶える伝説の煉瓦職人と後世に言われるようになる。

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