燃料を調達しよう
明治以前の年齢の数え方は、出生時から一歳なので、零歳と言う概念は存在しません。
俺は反射炉を作るに当たって、耐火煉瓦を作り建築資材を確保しないといけないと解っていたが、耐火煉瓦を作るのには、日ノ本では蛙目粘土や木節粘土がよく使われてたらしい。
産地を調べたら尾張の瀬戸や美濃の多治見で取れるので、つくづく織田信長の運は豪運だな。
後は甲斐なら河口湖や西湖辺りの土壌や前世で、勝頼が普請した新府城の北に土があし、信濃なら北信濃松代や俺が相続する高遠、それに伊那郡飯田に耐火煉瓦の材料になる土があるみたいだ。
あと武蔵国の秩父鉱山は甲斐武田氏が発見し採掘とあるが、どうやら武田勝頼の命にて、北条家の領内にある秩父地方を侵略した際に、金堀衆も進出して秩父鉱山を発見し、採掘するようになったみたいだ。
しかし耐火煉瓦を焼く燃料がいるだろう。
昔、中国や中東などでは、鉄の精錬の為に森林伐採した為、元々降雨量が少ないのに森林が再生するスピードが間に合わなくなり、砂漠化を促進させたと言われてる。
森林は建築資材に使いたいから、出来る事なら石油石炭が無いか探してみら、記録の中に東美濃にどうやら数ヵ所炭鉱があるみたいだ。
しかし東美濃にあるなんて、嫌でも岩村城を巡って、戦わなければいけない運命なのかな?
当分石炭が手に入らないので、木炭で耐火煉瓦を作る燃料にするしかないか。
木曽家が武田家へ臣従するのが弘治元年(1555年)か、俺が十歳ぐらいなら出陣可能かな?
でも東美濃の遠山氏から1552年に支援要請が来てるんだから、本当ならそれぐらいに東美濃へ進出して欲しいけど、その頃はまだ北信濃にかかりっきりだからな。
北信濃と東美濃と西上野、どれも早く進出してくれるならば、色々できる事が増えるんだが、無い物強請りになってしまってるな。
燃料問題は当面木炭で、補うしかない。そして父上から、木炭の供給と木炭製造の許可を貰おうか。
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俺は、二歳になる直前ぐらいにやっと歩けるようになった。
母上や奥方様、乳母の比呂、それに禰々叔母上も御喜びになってくれており、俺自身はやっとかと言う感想なんだけど、周囲の者達の喜びを聞くと何か嬉しい。
あ、よく考えたら前世も含めて、俺は一人で自由に歩くのは初体験だったな。
もっと大喜びしても良いはずなんだが、いつも考えてたのは、人や物をどう作ったり、手に入れたりする事ぱかりなので、働き中毒になってるかもしれない。
そんな事を思っていたら、父上が奥御殿にやってきた。
「円姫、香姫、禰々に二郎、三郎、四郎、梅姫、見姫、それに寅王丸よ、皆息災か。」
代表して、奥方様が受け応える。
「はい、皆々が御屋形様の御陰様で、健やかに暮らしを過ごさせて頂いております。」
「有無、それは重々(じょうじょう)である。其方達には、まず今年は信州佐久を攻めるつもりじゃ、そして北信の村上義清を成敗する積もりである。」
さらに父上は言う。
「先程朝廷からの手紙が来た。今年、太郎の御座所の普請を行う。」
奥方様を始め、部屋にいた大人全員が驚き、そして皆が父上と兄上に祝義を述べ始めた。
「「「御屋形様、太郎様おめでとうございます。」」」
「「「おめでとうごじゃいましゅる、ちちうえ~あにうえ~」」」
「皆に言う、武田家は去年朝廷からの勅使を持て成し、勅使が帰洛後、天子様(帝)は武田の尊王の志を大いに御喜ばれたと書かれている。本来ならば太郎共々上洛して、天子様に拝謁を行いたいが、そのような願いも今の時勢が許さぬ故、朝廷からの勅使が来月訪れる。その時、儂と太郎に任官するので、勅使が甲州に来る前に太郎を元服させる。」
前世よりも六年も早く兄上は元服するのか。 朝廷への干し椎茸の献上は、黄金を渡した位効果があったみたいだな。
父上はさらに話を続ける。
「ところで四郎よ。 去年勅使が来甲した時、三条大納言様の荘園の年貢青苧・白苧の集まりが良くない事を憂いでいた。青苧・白苧を増産させて、大納言様を御喜びさせる事は可能か?」
「青苧・白苧は、僕の知識の中では、麻と同じで繊維を取って糸を紡ぎ、主に衣類や漁網を作る原料に使用するとありました。前世では、時代が暫く経ってから、新しい素材が発明されて、そちらが主軸になりました。」
「青苧・白苧の数量を年貢分に収穫が満たないなら、発想の転換で我が家が不足してる年貢分を補うのはどうでしょうか? 青苧・白苧自体が必要で年貢の催促なのでしょうか?」
父上は首を横に振る。
「いや違う。大納言様は年貢で資金を調達したいのだ。年貢の青苧・白苧を売却して、公家としての糧を得てるのだ。だから青苧・白苧に拘ってはいない。しかし大納言様の荘園の年貢の補填を我々が理由なく行う事が問題なのだ。」
三条西家出身の奥方様もその言葉に同意する。
「そうです、御屋形様の御考えの通りです。何も見返りもなく困窮してる私の実家へ支援を行うと、宮廷の権力争いに巻き込まれる事もありましょう。さらに武田家の財政を宛にする公家も続々現れる事でしょう。そうであるから、荘園の管理の代行してる我々は、荘園に対する管理は行いますが、不足分の年貢の補填はその荘園内で行う事になるのです。」
俺は、ふと思った。荘園の経済力を上げて施しではなく雇用してやる事で、利益を誘導したらよいのではないかと。
「もしかして大納言様は、今年の青苧・白苧の不作の状況を鑑み、補填ではなく荘園の経済力を上げて欲しいんじゃないかと。そうならば、我々が大納言様の荘園の民達を、青苧・白苧の栽培が無い冬の時期に賃金払って、雇用して上げると言うのはどうですか?」
「そうすると、我々も進めたかった計画も進むし、大納言様も施しを受けたのではなく、ちゃんとした労働で対価を払う訳ですから、朝廷内でも面目が立ちます。」
普段は、余り喋らない二郎兄上が、父上に向かって意見を述べる。
「父上、母上、御爺様(大納言)の荘園の民達には、どのような労役を依頼するのでしょうか?」
すると父上は俺の顔を見て、お前が話せと言う表情を見せた為、俺が話す事にした。
「父上、実は僕が行いたい事業に、新しい炉を作って諏訪の鉄鉱山の麓に大規模な鍛冶邑を将来は作りたいのですが、新しい炉造りには耐火煉瓦と言う、高熱でも壊れない成形石を作って、それを材料に新しい炉造りをやらないといけないのですが、耐火煉瓦を作る時、焼き窯に沢山の燃料が必要なのです。その燃料造りに、荘園の民達に木炭を作って貰えませんでしょうか?」
父上は、少し考えた後、俺の話を了承してくれた。
「基本、四郎が話した事を進めても構わないが、現実に即した計画変更が必要な時は、四郎が中心となって計画を進めろ。また二郎は、四郎の傍に居て四郎から計画を進める補佐を行うように。」
父上がそう二郎と四郎に伝えると二郎兄上は、初めて父上から一人前に扱われたような気持になって、大変喜んでいた。
三条公頼 1495年生まれ 官位は従一位左大臣 大納言 武田晴信の義理の父親で、
長女は管領細川晴元に嫁ぎ、次女は武田晴信の正室三条円姫、
三女は本願寺第十一世顕如の正室如春尼である。
太郎、二郎、三郎、梅姫、見姫の祖父に当たる。




