コンタクトの葵
玲は、コンタクトにした葵を見て、心から綺麗だと思った。
葵は、後ろの席の愛とも仲良くなり、愛の友達と一緒にお弁当を食べるようになる。
愛の友人の静香が、玲の噂をみんなに話すが・・・
玲と葵はコンタクトレンズを受け取ると近くのファーストフード店に入った。
二人は、通路の一番奥の席に座った。
『玲君。本当に私こんな事してもらっちゃっていいのかな?結構高かったみたいだし、私何も玲君にお返しなんてできないんだけど・・・』
『もうその話はいいって。それよりさ、コンタクト。眼科で付け方とか教わっただろ。ちゃんと見えるかの確認もあるし、化粧室で今つけて来いよ。俺、それが楽しみで買ったんだから。』
『うん。そうだね。ちゃんと綺麗に見えるか、度が合ってるかも確認しとかなきゃだから付けてみるね。』
『うんうん。』
『じゃ 付けて来るからちょっと待っててね』
『うん。』
葵は、袋からコンタクトレンズを一つ取り出して、化粧室で付けてみた。
鏡を見て、驚いた。
「えっ。これ本当に私?」今まで裸眼でははっきり見えないので、いつも眼鏡をかけた自分しか鏡で見たことがなかった。 コンタクトレンズはぴったりと葵の目に調整されていてはっきりと見えた。鏡に映った眼鏡をかけてない自分を見た時、自分で言うのは変かもしれないが、かなり綺麗だと思った。
多分、玲と一緒に走るようになってから体重が落ちて、顔のラインが以前に比べてほっそりとしたせいもあって、自分でも驚くほど綺麗だと思った。
眼鏡をケースに入れ、葵は玲のいる席に戻った。
『玲君。どうかな?』
玲は、思わず『えええ~~~と言って立ち上がった。』
周りの客が、一斉に玲と葵の方を見た。
玲は、周りの客に『あっ すいません。なんでもないんで』と軽く会釈した。
そして、葵の両肩を掴んで『葵!メチャクチャいいよ!めっちゃ綺麗! いや~想像以上だわ。』
『玲君。離して。恥かしいよ。』
『あっ ごめんな。俺かなり興奮しちゃって』
そう言って、葵の肩から手を離して席に座った。
『葵は、自分で鏡で見てどう思った?』
『うん・・・ 私、目が凄く悪いから、鏡を見るときは今まで裸眼では見たことがないの。もし裸眼で鏡の前にたってもぼやけちゃってはっきりと見えないから。ちゃんと見るにはやっぱり眼鏡をかけて見てた。だから眼鏡のない自分を見るのは小学生以来かも。』
『で?見てどう思った?』
『自分で言うのはどうかと思うけど、思った以上にいいなと思った。』
『いや。いいなんてもんじゃない。他の人が振り返るくらい綺麗だって。俺さ~何か凄くうれしくてさ。俺の感じた事は間違いじゃなかった。 最初葵とぶつかって、眼鏡を落とした時、葵の瞳を見て、吸い込まれそうなくらい綺麗だと思ったんだ。けどさ~あの時の葵ってすっごい太ってたからさ~このままでコンタクトにしても感動しない気がしたんだよな~。けど今はかなり標準になって来てる。もしあと3kgくらい痩せたら女優だって敵わないくらい綺麗だって』
『そんな・・・そこまでじゃないと思うけど。私もほんと嬉しい。ありがとう玲君』
『今日は、もったいないから付けたまま帰れよな。それで約束したよな?俺の前だけコンタクト付ける。他の人には見せないって。その約束はちゃんと守れよ。』
『うん。わかってるよ。それがコンタクトをもらった条件だったから。約束は守るよ。学校には今まで通り眼鏡かけて行くよ。』
『なぁ葵 今からプリクラ撮りに行かない?』
『う~ん。恥かしいな~ でも記念だし行こうかな~』
『うんうん。行くぞ!』
コンタクトをして眼鏡を外した葵は、本当に綺麗だった。玲と歩けば誰もが美男美女のカップルだと疑わないほどに・・・。
プリクラを撮った二人は、電車で家路に着いた。
電車の中で玲は言った。
『なぁ葵。 お前成績あまり良くないだろ?何が一番今困ってるんだ?』
『正直全部だよ・・・ でも一番は数学かな・・・』
『俺が葵に教えてやるよ。でも学校ではだめだ。 葵さえ嫌じゃなかったら俺んちに来ないか?休みの日教えてやるから。』
『ええ~ 教えてもらえるのはほんとに助かるけど、玲君ちお金持ちだし私着て行くような服もないもん。無理だよ~』
『じゃ 俺が葵んちで教えるのならどう? 葵の部屋で二人って言うのが嫌ならリビングのテーブルでいいじゃん。 どう?』
『う~ん。ちょっと考えさせて。来てもらうならおじいちゃんやおばあちゃんにも相談したいし。』
『わかった。でも早いほうがいいぞ。このままわからなくても授業はどんどん進んじゃうし、完全に置かれたら追いつくの無理だからな。うちの学校ただでさえペースが速いからさ。』
『私、ビリの方で入ったから最初からすごくきつくて・・・昼休みも図書館とかで勉強もしてがんばってるんだけど全然追いつけなくて・・・』
『多分、葵の場合要領が悪いと言うのと、ポイントを掴んでないんだよ。それを俺が教えたらもっと楽に付いて来れるようになるって。』
『わかった。私もすごく助かるし、玲君の家では難しいけど、うちでならお願いできるかも。とにかくおじいちゃん達に聞いてみるね』
電車は駅に着き、二人は歩いて葵の家に向かった。玲の家は葵の家のもう少し先にある。
『玲君。今日は本当にありがとうございました。』葵は丁寧に玲にお礼を言った。
『いやいや。俺のほうこそすごくいいものが見られて。俺の方がありがとうだよ。』玲はにこやかに葵に言った。
葵が家に帰ると、祖母の翔子は驚いた。 『葵ちゃん?葵ちゃんだよね?』祖母でさえ一瞬わからないほどコンタクトの葵は綺麗だった。『うん。葵だよ』葵は少し頬を赤らめながら返事をした。
翔子は、『葵ちゃん。ちょっと来て。』そう言って、荷物をまだ持ったままの葵の空いてるほうの手を握ってリビングに連れて行った。
リビングで祖父の純は、新聞を読んでいた。
入って来た翔子と葵の方を見て驚いた。『葵なのか?』
『そうよ!葵ちゃん!私も驚いたの。』翔子は純に向かって言った。
『眼鏡は、どうした?』
『今はコンタクトレンズはめてるの。 だから普通におじいちゃんもおばあちゃんも見えるよ』
『そうなのか。眼鏡かけた葵しか見たことがなかったから、驚いたよ。この頃運動して間食も減らして少し痩せてきて良かったな。って思ってたが、コンタクトにしたらこんなに美人だとは流石におじいちゃんもびっくりしたよ。』純は、うれしそうに声を立てて笑った。
翔子は、『でも葵ちゃん、それはあなたのお小遣いで買ったの?』と尋ねた。
葵は、どう話していいのかわからなくて一瞬戸惑った。「本当の事をちゃんと言った方がいいのかな~でも男の子からプレゼントされたなんて言っていいのかな?」
『おばあちゃん。ごめん。その話は後でいいかな?とりあえず荷物置いてきて着替えたいんだけど。』
『あぁ そうね。ごめんね。そうして』翔子は言った。
葵は、とりあえず何と説明していいか咄嗟には思いつかなくて、考える時間を稼いだ。
コンタクトの数は残り31個。 自分ではアルバイトもしていないのでそうそう買えるわけではない。
しかし、祖父母に買ってもらうのも継続的になれば負担が大きすぎる。
葵にとっては難題だった。
祖父母を、心配させずに済むなら嘘を付いても構わないと思ったが、上手い嘘も頭に浮かばなかった。
「家に入る前にコンタクトを外して眼鏡に替えておけば良かった。ちょっとこのままでいたかったから後の事考えてなかった・・・」そう思うと葵は「失敗しちゃったなぁ~」と思うのであった。
葵は上手い言い訳が見つからず仕方なく玲に相談した。玲なら頭が良いから上手い言い訳見つけてくれるかも。 葵は、玲に現状を説明して何か良いいい訳がないかとメールした。
しばらくすると玲から、コンタクトレンズ店のキャンペーンで一つお試しでもらっただけだって言っておけよ。と返信が来た。
「さすが玲君だ。残りのコンタクト見られないようにしとけばいいんだ。」
葵は、祖父母に嘘を付くのは気が引けたが、それでもこの場を凌ぐにはこれしかないと思った。
リビングに戻った葵は、『このコンタクトレンズね。試供品なの。ちょっと用事があって隣町の駅前を歩いてたら、ちょうどコンタクトレンズのお店がキャンペーンをしてて、コンタクトが似合いそうだから一つ試供品作るから試して見てって、試供品で作ってくれただけ。鏡みたらいいかな~と思ったからつけてきちゃった。使い捨てだから今日だけだどね。』
『そうなのね。 でも本当にその方が凄く葵ちゃん綺麗よ。ねえおじいさん。』
『あぁ~ 見違えるほど綺麗で誰かと思うほどだったな。葵、コンタクトにしたらどうだ?』
『いいよ。コンタクト継続的に買わなきゃいけないし高いもん。私は眼鏡のままでいい。自分で働くようになってから考えるよ。』
『でも勿体無いわ。コンタクトにしたらすごく綺麗よ。』
『俺もそう思う。一度月にいくら位かかるのかだけでも調べてきなさい。』
『うん。おじいちゃんありがとう。また調べてみるね。』
何とかこの場は、凌ぎきった。葵は少しほっとした。
『そうだ。おじいちゃん、おばあちゃん。ちょっと相談があるんだけど』
『何?』翔子は尋ねた。
『私、高校に入ってから、結構勉強頑張っても付いて行けなくなってきてるの。それでね、隣の人が学年で5本の指に入るくらいの秀才で、私のダメっぷり見て、勉強を教えてくれるっていってくれたの。』
『そりゃぁ 有難いじゃないか。塾に通わせてあげたいけど中々難しいし、学校の友達で優秀な子なら学校で葵が足らないと思うところがわかって教えてくれるだろうしな。』
『そうね。私たちに反対する理由なんて全然ないわ』
『それがね、うちで教えてもらうかもしれないから・・・』
『うちで良ければ、うちで教えてもらえばいいじゃないか?』純は言った。
『そうなんだけど・・・』
『葵ちゃん。もしかしてそのお友達は男の子じゃないの?』翔子はさすがに葵の言動でわかった。
『うん・・・ そうなんだ。でもね部屋で二人が良くないっておじいちゃん達が言うならリビングでもいいって言ってくれたの。だからダメかな?』
『おばあちゃんは、いいと思うわ。その子が葵ちゃんの事をどう思ってるのかはわからないけど、葵ちゃんの為にうちまで来て教えてくれるって言う気持ちが嬉しいわ。それに私は葵ちゃんを信用してるもの』
『おじいちゃんもおばあちゃんの言う通りだと思う。葵が二人っきりの部屋では心配ならリビング使えばいいし、大丈夫と言うなら自分の部屋で勉強しなさい。』
『おじいちゃん、おばあちゃんありがとう。私頑張るね。』
葵は食事をしてお風呂に入ってから、玲に祖父母に了解を得たことをメールした。
玲からは、明日もう一日冬休みが残ってるから、明日はどう?と返信が来た。
もう一度祖父母に聞いてから、葵は、じゃ よろしくお願いします。と返信した。
翌日、朝10時玲は、葵の家のインターホンを鳴らした。
『はい。』
『中司 玲といいます。』
『はい。すぐ行きます。』インターホンに出たのは翔子だった。
翔子は、葵に『お友達いらしたわよ。玄関葵ちゃん開けてあげて』と呼びかけた。
『今行きま~す。』葵は玄関のドアを開けた。
『今日はよろしくお願いします。おじいちゃんとおばあちゃんに紹介したいから、先にリビングまで来てもらっていい?』
『うん。わかった。 お邪魔します。』玲は靴を揃えて、葵が用意してくれたスリッパを履いて、葵に付いて行った。
『おじいちゃん。おばあちゃん。私の隣の席の中司 玲君。』
『今日はわざわざ葵の勉強を見てくれるそうでありがとう。葵の祖父です。』純は玲に頭を下げた。
『中司 玲です。こちらこそ突然お邪魔しちゃってすみません。よろしくお願いします。』
そう言って純と翔子の方に向かって頭を下げた。
『何分小さな家なので、狭いでしょうけど葵の事よろしくお願いしますね』翔子が挨拶した。 玲ももう一度軽く会釈した。
『じゃ、玲君私の部屋でお願いします。こっちです。』
『うん。わかった。』
『狭いけど、どうぞ。玲君はここに座ってもらっていい?』葵はリビングのテーブルにある椅子をあらかじめ、部屋に置いておいて言った。
『へぇ~ これが葵の部屋か~。女の子の部屋ってもっとなんかこう可愛いグッズとか置いてあるようなイメージだったんだけど、葵はすごくシンプルなんだな。』
『私友達少ないし、やっと後ろの席の愛ちゃんとかそのお友達の静香ちゃんと命ちゃんと少しだけ話せるようになったくらいだから他の女の子の部屋とか入った事ないんだよ。 だから他の子がどんな部屋なのかはわからないけど、やっぱり可愛くしてるんでしょうね。 私の部屋は良く言えばシンプルなんだけど結局何もないから。 ベットとか机とかスライドハンガーとかそういう必要最小限のものしかないもん。』
『いや。俺はこういうのも好きだよ。葵の部屋は掃除とか綺麗にしてあってすごく気持ちいいもん』
『そう?ありがとう。』
『時間も少ないから、とりあえず始めようぜ。数学から行こうか。』
『はい。お願いします。』
玲は葵にテキストを使いながら教え始めた。玲の教え方はとても上手くて、今まで詰まっていた所が嘘のようにスルスルと理解できて行った。
『葵、やっぱりお前やればできるわ。 要領悪いのと、ポイントが上手く掴めないってだけだわ。』
『ううん。 本当に玲君のおかげだよ。私、どんなに頑張ってもこんな風に理解できなかったもん。本当に教え方がいいんだよ。ありがとうね。』
『葵。もうすぐ12時だし、切りもいいから。俺ちょっと家に帰ってご飯食べてからもう一度来るよ。1時半くらいになるかもだけど』
『ねぇ 玲君。良かったら私何か作るから、うちでご飯食べない?本当に大したものは作れないけど。』
『いや。帰って食べるよ。悪いし。』
『全然わるくなんてないよ。私が教えてもらってるんだもん。でも玲君の家の方がきっとご馳走だから帰った方がいいかも・・・』
『うん? まてよ。葵が作るって言ったよな?』
『うん。そうだけど?』
『じゃあ 葵の手料理が食べれるって事か!? 』
『手料理と言うほど大したものじゃないとは思うけど・・・でも一生懸命は作るから。』
『うん。じゃご馳走になるよ』玲は爽やかに笑った。そして玲の母親に昼ご飯は外で食べるからと連絡を入れた。
『すぐに作るからリビングで待っててもらっていい?』
『OK わかった』
『椅子足りないから、玲君の座ってた椅子もって行くね』
『ああ じゃ 俺が持って行くよ。』
『ありがとう。じゃお願いします。』
葵と玲は、玲が座っていた椅子を持って、リビングに行った。
『玲君。その椅子空いてる所において座って待っててくれる?すぐに作るから』
『うん。わかった。』
純と翔子は、リビングの横にある和室にいた。
リビングと和室の間はチャコールグレーのアルミ製の障子で仕切られていた。
玲は、立ち上がって葵のいるキッチンの方に歩いて行った。
『なぁ 葵』
『何?』
『葵の料理する所、見てていいか?』
『ええ~ 恥かしいよ。』
『邪魔しないようにここで見てるからいいだろ?俺、なんかさ~女の子が料理してる姿っていいなぁ~と思ってさ。そういうの見る機会なんて中々ないからさ』
『まぁ 玲君が見たいなら別にいいけど・・・』
葵は、冷蔵庫にある食材を出して、調理していた。
玲は、しばらく葵の料理をする姿を黙って見ていた。
包丁捌きも手馴れたもので、自分の母よりもむしろ器用かもしれないと思うほど速かった。
野菜や肉がどんどん刻まれていって、準備が整っていく。
『葵。何作ってるの?』
『ごめんね。本当に有り合わせなの。チャーハンだよ。でもね、私、料理は好きだから結構ネットとかで研究して作ってて、チャーハンには少しだけ自信があるの。フライパンもちゃんと振れるようにお米入れて振る練習もしたんだよ。』
『へぇ~ すごいな。』
『でしょ。』葵は、くすっと笑った。
材料を炒め、ご飯を炒めて最後に溶き卵を入れて葵は器用にフライパンを振った。
『4人分は一度に作れないから、おじいちゃんと玲君さきに食べて。』
『おじいちゃ~ん。お昼できたから先に玲君と食べてて。すぐにおばあちゃんと私の分も作るから。』
和室のほうから純の『わかった~すぐ行く。』と言う声が聞こえた。
玲は純と翔子に、『僕は葵さんと後で一緒に頂くので、お二人で先に頂いてください。』と言った。
翔子は、『お客様なんだから、玲さんがお先に食べて』と言ったが、玲は、『葵さんの料理してる所もう少し見たいんです。僕は葵さんと一緒に後で頂きます。』と言った。
葵は、『じゃぁ おじいちゃんとおばあちゃんで冷めないうちにどうぞ。私と玲君は後で二人でゆっくり食べるから』と言った。
翔子は、『そう?じゃぁお先に頂くわ。葵も玲さんと二人で食べたそうだから。』とにっこり笑った。
『おばあちゃん!もう・・・そんなんじゃないから。もう早く食べてよ。』
玲と葵の分もすぐに出来上がり、少し純達と遅れて4人で食べ始めた。
純は、玲に『玲君の家は葵が、わりとここから近いと言ってたけど葵とは中学も同じだったのかな?』と尋ねた。
『いえ。家は歩いて5分くらいですけど、中学は葵さんとは学区が違うので同じじゃありませんでした。』
『そうか。葵は学校ではどんな感じなのかな?』
『そうですね~ すごく大人しいです。余り人と関わらないというか。』
『家では、結構明るいところもあるんだけどな~』純は言った。
『僕も最初は、正直話し辛い感じもあったんですけど、今は普通に話してくれるし、僕の前ではそんなに暗くないです。ただ学校では、こんな明るくは話してくれないんですけどね』
『だって、玲君は学校では人気がすごくあって、いつも周りにたくさん人がいるから話しかけ辛いんだよ・・・』
『でも僕は、本当の葵さんをこの頃わかってきて、優しくて良い人だなぁ~って思いますよ。それに料理も上手いし。 すごく美味しいです。』
『今度もし玲君が来てくれた時は、もっとちゃんとしたの作るよ。』
『いいよ。これで十分美味しいから。いつも作って食べてるようなの作ってよ。』
そんな話をしながら、昼食を済ませた。
『ご馳走様でした。食器は台所に持って行けばいいですか?』玲は尋ねた。
翔子は、『片付けは私がするからこのままにしておいて。勉強教えてくださる時間がもったいないわ。』と言った。
葵は、『じゃあ、おばあちゃんお願いします。』と言い、玲も、『ではよろしくお願いします』と言って、リビングの椅子をまた一つ持って、葵の部屋に戻った。
『葵。』
『何?』
『なんかさ~ 俺、葵の料理してる姿いいなぁ~って思ったわ。それに本当に美味しかったよ。なぁ~今度さぁ~ 一度でいいから俺に弁当とか作って来てくれるって無理か?』
『無理じゃないけど、うちそんなに食材がいいのないから普通のしか作れないよ。それでもいい?』
『全然いいよ!まじ作ってくれるの!?』
『うん。いいけど・・・でもどうやって渡せばいいの?みんなに見られるのは絶対やだよ。恥かしいし何を言われるか怖いもん。』
『じゃあさ 机の横に引っ掛けるのついてるじゃない? あそこに紙袋に入れて掛けて置くと言うのはどう?こっそり掛ければわからないでしょ?』
『うん。 それなら出来るかも・・・』
『じゃあさ。作ってきてくれる前の夜にメールしてくれる?俺も母さんに弁当明日はいらないって伝えとかなきゃいけないからさ。』
『うん。 わかった。そうする。』
『なんか楽しみが増えたな~。』玲はにこにこしていた。
会話が終って、午後の勉強が始まった。4時くらいまで勉強して、玲は家に帰って行った。
葵は、玲は自分の事を今どう思っているんだろうと思った。
女の子が、男の子の為にお弁当を作るなんて、普通は彼女でもなければ、するような事でもないような気がした。玲に母親がいないとか、作れない特別な理由があればともかく、そんな理由は何もない。
でも、勉強を教えてもらってるお礼だと考えれば、説明もつくような気がした。
そして、うちに来てまで教えてくれる玲に、葵は、今までとは違う感情を、知らないうちに少しずつ持って行った。
3学期に入ってからも、土曜か日曜に度々玲は、葵の勉強を見てくれた。
ジョギングも続けていた。
3学期は期間が短いせいか、席替えは行われなかった。最近では愛とも以前より話すようになり、愛と静香、命と一緒に4人でお弁当を食べるようになった。
愛は、父親がIT企業の社長で、一人っ子というお嬢さんだったが、大人しく控えめな性格で、その柔和な人柄に惹かれて、静香や、命が愛と仲良くなりたいと近づいて来た。
静香は活動的で、お寺や、神社を周る事を趣味にしていて、そういう所にいっては写真を撮ってきてみんなに見せて説明してくれた。
命は、神社の神主の娘で、巫女装束が似合いそうな綺麗な顔立ちで、男の子にも人気があった。性格は美人なのにきつくはなく、清楚なイメージだが、話してみると結構面白い事を言う子だった。
葵を含めた4人の中では、静香が一番話す方で、話題は静香がいつも提供してくれた。
ある日、4人でお弁当を食べていると、静香が『葵ちゃん。愛ちゃんとも話してたんだけど、すっごく細くなったよね? 入学した時と比べて何キロくらい痩せたの?』と聞いてきた。
葵は、『入学した時は66kgで、今は54kgだから1年で12kgかなぁ~』と言った。
『凄いよね~ ダイエット辛くなかった?』静香が聞いた。
『私、元々食べる量が多すぎて、その上間食も多かったから、普通の人程度に減らしただけで、みんなが思うほどは大変でもなかったよ。お菓子止めるのはちょっと辛かったけどね。朝少しジョギングも続けてるけど、物凄く長い時間走ってないし。そこまで大変でもなかったかなぁ~。ご飯の量は減らしたよ。でもきっと減らしたっていってもみんなが普通に食べてる量だと思う。とにかく間食かなぁ~問題は・・・』
『私もお菓子は中々やめられないからな~』命が言うと、『命ちゃんはスタイルいいから全然関係ないよ。私も少し減らしたけど全然体重へらなくて・・・』愛が言った。
『私は、お菓子だけは完全にやめたよ。前に愛ちゃんにも言ったけど、毎日体重計に乗ってるの。そうすると自分の体重の変化もわかるし、増えすぎたら怖くなる。だから結構頑張れたよ。』葵が言うと、静香は『私もそれ今日からやって見る! 自分の事毎日自分が見ないと意識できないもんね。それ絶対良いと思う』と言った。
愛は、葵から前にそういう話を聞いて、やっていたが、お菓子やデザートの誘惑にいつも負けて、中々思うように体重が減らず、ほぼ同じ状態だった。
静香は、また次の話題を出した。
『葵ちゃんの隣の玲君ってさ、彼女いないっていってるらしいけど、冬休みに隣町のお店ですっごい美人と一緒だったって噂があってね。どこの高校か知らないけどその子が彼女じゃないかって噂が今流れてるらしいよ』
葵は、ドキッとした。自分は美人なんて思わないけど、コンタクトレンズを買ってもらった時、隣町のお店の中でコンタクトレンズをつけた。もしかしてそれを誰か知ってる人に見られたのかも知れない。
けど静香は、すっごい美人という噂と言ったので、私じゃなくて他の誰か女の子だと思った。
「玲君。素敵だし、そういう子がいても全然不思議じゃないよね」葵は、そう思うことにした。
命は、『玲君、このごろなんか少し変わったような気がしたんだよね~。』
『変わったってどんな風に?』愛が尋ねると、『前はさ~確かに玲君かっこよかったし、頭もいいけど、柔らかいって感じはしなかったんだ~。私が思うによ。でもこの頃の玲君は、余裕がどこかにある感じで、男の子にも女の子にも少し気遣いできるようになった気がするの。』
愛は、『命ちゃんは鋭いからね~ よ~く人間観察してるから。』
『そんな、観察なんてしてないよ・・・ そんな風になんとなく見えるだけよ』
静香は、『玲君、女の子達に結構人気あるからさ~彼女が本当にいたらがっくりする子多いだろうな~』と言った。
葵は、玲に彼女がいるなんて聞いたこともなかったけど、本当にいるなら今、玲にしてもらってる事は彼女にとても悪い事をしてるような気がした。
次の日のジョギングの時、葵は玲に尋ねた。『ねぇ 玲君は彼女っているの?』
『なんだよ。いきなり。なんでそんな事急に聞くんだよ?』
『昨日さ~愛ちゃん達と話してたら、隣町のお店で玲君が凄い美人と一緒にいたのを見たって言う子がいたらしくてね。玲君は他の高校に彼女がいるんじゃないかって・・・ それで、もしそうなら私、玲君に今してもらってる事彼女さんに申し訳ないなと思って・・・』
そう言うと、玲は、思い切り大笑いした。『あはははは お前まじで言ってるの?』『なんでそんな笑うの?私なりに考えて玲君や彼女さんに迷惑かけないようにと思って言ってるのに!』温厚な葵も少し腹が立った。
玲は、今度は真剣な顔をして言った。『気になってるやつはいるよ。でも俺に彼女はいない。だから葵がそんな気を使う必要はないんだよ。』
『本当?』
『本当』
『そっか~ じゃその美人の子って言うのも玲君は覚えがないの?』
『それはあるよ』
『じゃ その子が玲君の気になってる子なの?』
『なぁ葵。お前まだ気づかないの?』
『えっ 何のこと?全然わからないよ・・・教えてよ』
『その噂になってる美人と言うのは葵のことだよ』
葵は、きょとんとして、そして我に返り『ええ~~~~』と大きな声で言った。
『声が大きいって、まだ5時15分だぞ』
『あっ ごめん。私、そんな美人じゃないもん。遠くから見て間違えたのかな?』
『葵が自分の事どう思ってるか知らないけど、普通の人から見たら、コンタクトにした葵は、かなり美人だと思うよ。少なくとも俺はそう思ってる』
葵は、真っ赤になって何も言えなかった。「まさかその噂が自分の事だなんて・・・」確かにその話を聞いた時、コンタクトを買った帰りに隣町の店に玲といた事を思い出してちょっとドキッとはしたが、凄い美人と聞いてそれなら違うと思っていた。
でもそんな事は今はもうどうでも良くなった。玲は確かにコンタクトの自分は美人だと言ってくれた。その事の方が葵にとってはもっと重要だったからだ。
玲が葵に、俺は葵が美人だと思っていると言う。 その言葉を玲から聞いた葵の心に変化が起こる。