8 転校生、夕紀百合菜
城崎の調子外れな手拍子が鳴り響いている間、その転校生は入室して来なかった。
(その手拍子のせいだよ……)
城崎が空気を察して手拍子を止めると、しばらくして紺色のブレザーを着た黒い長髪の少女が静かな足取りで教室に入ってきた。
その瞬間、それまで騒がしかった教室は一度に静かになった。時間がぴたりと止まってしまったかのようだった。
教室の生徒という生徒が、その転校生の容姿に釘づけになっていた。
(うわぁ……)
八重は驚いて、息を呑んだ。
その転校生の少女は、あまり身長の高い方ではなかった。小柄な彼女が歩く度に、清潔な黒髪が首筋から背中のあたりで、ふわりと風に揺れていた。
彼女はおずおずと教壇の前に立つと、生徒をそっと見まわした。
少女の前髪は、丸いおでこを隠すように綺麗に下ろされている。また、空気を含んだようにふんわりとしている。それは上まぶたの少し上まで下りているのだが、その下に、遠くを見つめるような美しい瞳が二つ、物憂げでいて少しうっとりとした様子で、細められているのだった。その奥に潜む瞳はよく澄んでいて黒かった。まぶたを開けば、相当大きな眼差しとなって、さぞ美しいだろうということが容易に察せられた。
それでも彼女は恥ずかしげに少しうつむいて、生徒たちにじろじろと顔を見られるのを嫌そうにしていた。
また彼女は八重と違って、鼻筋がすっとして高く、花のようで小さな唇は紅の色をしている。それが病的なほどの色白な素肌の小顔の中で、とりわけ印象的な彩りだった。
とにかく驚くほどの美少女なのだ。
女子である私でさえ心底驚いているぐらいだから、男子はみんな夢中になるだろう、と八重はわずかに面白くない気持ちもありながらも、この美しい転校生に強烈な関心を抱いた。
城崎は周囲を見まして、また二回手を打つと、
「今日からこの一年E組の一員となった夕紀百合菜さんだ。みんな、仲良くしてあげてな」
と言った。
「夕紀百合菜と申します。どうか、皆さま、よろしく……」
と百合菜は静かな美しい声で、そっと耳元で囁くかのように言った。そしてそっと上品にお辞儀をした。そして元の姿勢に戻すと、それまで物憂げだった表情を、瞬く間に可憐な笑みに変えた。
彼女が両の頬をそっと引き上げて、曖昧な笑みを浮かべると、それを見た生徒たちには脳裏に閃光が走ったような感覚があった。
それはおそろしいほどの美しさだった。
しかし彼女はまた、その表情を元の冷たい人形のような無表情に戻した。




